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第9話 美しき光の世界

夕暮れ時。

既に日は沈み、黄昏の空だけを残して薄暗さが出て来た。


外と街とを結ぶ扉を隔てて、衛兵はウィルだけを荒々しく外に出した。


弟達が衛兵に怯えて母に聞く。

「兄ちゃん、何か悪い事したの?」

「何もしてないよ…する訳が、出来る訳がないじゃないか。」

「じゃあどうして?兄ちゃんは”勇者”なんでしょう?」


何も言えなかった。

誰も王に逆らえない。

役目を果たせなかったのは確かだが、王が言う”人外”だからという理由は母には理解出来ない。

目が見えず立つのもやっとの状態で、ようやく帰って来た大事な息子なのに…。



衛兵に阻まれて、誰もウィルの元へは行けなかった。

戦士のリクオーネですら槍を突きつけられ、羽交い締めにされていた。





うっすらと、ウィルの瞳に影が映った。

声が聞こえる。


「ウィル待ってろ!必ず迎えに行く。必ず…!約束する!」






門は大きな音を立てて閉まっていった。







夜の帳が降りて来る。

急激に大気が冷え込んで来た。



暫くその場で佇んでいたウィルは、何処へともなく歩き出した。






もう歩く力は殆んどない。

立っている事すら困難だ。

視力は回復しつつあったが、夜の暗闇の中では、ぼんやりと見え始めた程度では見えないのと同じだった。



程無くウィルは力尽きて倒れた。

もう立ち上がる力はなかった。





砂が舞う、夜の闇の中で、大きな動物がウィルに近寄って行った。

鼻を近付け、何度か匂いを嗅いで、おもむろにウィルを背に乗せる。

意識のないウィルを乗せ、口に竪琴を咥え、連れて行った…。








気が付くと、ウィルは温かいぬくもりの中にいた。


霞がかかったように見える影…。

たくさんの動物達がウィルを囲っていた。


大型の動物がウィルの半身を受け止め、その周りに種別を問わずたくさんの動物達が寄り添い、ウィルを柔らかい毛で覆って、夜の冷たい空気から護ってくれていた。



そこは森の中だった。

風で揺れる、木の葉を擦り合わせる音が心地良い。



ウィルは動物達に穏やかな笑顔を見せ、手元に置いてあった”精霊の竪琴”を奏でた。

美しい調べは、輝く光となって大気に溶けていく…。



曲が終わると同時に、ウィルは意識を失った。









眩しさで、目が覚めた。

朝日がウィルを照らしている。


視力が戻り、ウィルは自分で取り戻した世界の光を、今、初めてその瞳に映した。




「綺麗…。」





朝日をみつめるウィルを動物達は見ていた。



「お願いが、あるんだ…。」




見守る動物達に、ウィルは言った。

「この竪琴を預かって欲しい。いつか、僕が、取りに来る…その時まで……。」



今は美しいこの世界も、いずれまた闇に堕ちていく。

その時、呼応するかのように、洗礼を受けたウィルの魂もまたこの世に生を受けるだろう。

再び”闇の石”を封印する為に。






ウィルは静かに眼を閉じた。

光の粒になって消えて行く…。




静かにそよ風が吹いて、木の葉を鳴らす。

美しい朝焼けは、今は森をまばゆい光で照らしていた。







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