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《『桜庭姉妹の日常』シリーズ一覧》

桜庭姉妹の日常4:歌姫マイク

作者: 賀茂川家鴨
掲載日:2017/04/18

桜庭菊花「ちょっと歌姫になってみようと思うんだ」

 やあ。僕はだるい。

 だから僕はこうして部室で転がっている。

 つまり、いつもどおりだ。

 春の到来を告げる桜木に宿る花びらの息吹が、部室の窓奥に顔を覗かせている。

 春はこたつが使えないと思ったかい? 冷房と除湿の機能がついているよ。

 おかげで僕は快適に部室で怠けることができるね。

 ああ、暇だな。アレを試してみようかな。

 僕はこたつの中に隠しておいたブツを取り出す。

 あっ。冷房を入れていたせいで、キンキンに冷えている。まあいいや。



「お姉ちゃん」

「僕は桜庭菊花さくらばきっかだよ」

 僕は部室の真ん中で、猫耳と猫しっぽを生やした姿で、即興で歌う。

 ちょっと早いけど、セーラー服は夏服に替えたよ。

 最近雨ばかりで、じめじめしているからね。

「菊花お姉ちゃん」

 僕は歌を中断して、耳としっぽを収納すると、菊花のほうを向いた。

「長い栗色の髪が自慢の、いまどきのJKさ」

 髪をさらりとかきあげて、どや顔で格好つけてみせる。いつもの。

 僕は何年絶ってもJKの一年生だよ。

 どうしてかって? どうしてだろうね。かもさんに聞いてみればいいと思うよ。

「お姉ちゃん。歌、上手なのです」

 妹の初花そめかは僕の歌に感動して拍手している。照れるなあ。

 初花は栗色の髪を纏めて、小さなポニーテールをしているよ。

 姉妹揃ってロリだよ。やっぱり成長していないね。特に身長が低いままだね。

 さてと。

「僕の開発した〈歌姫マイク〉だよ。誰でも歌姫のような美声になれるよ」

 ちなみに男でも歌姫になれるよ。やったね。

 初花は歌姫マイクを手にとって、まじまじと見ている。

「お姉ちゃん、このつまみは何ですか?」

「ああ、これ? 右に入れると歌姫のような美声に、左に入れると死人が出るほどの音痴になれるよ。真ん中だとただのマイクだね」

「死人は、まずいのです。お姉ちゃんのことだから、本当に死人が出るのです」

 酷いなあ。ちょっと耳が聴こえなくなるだけだよ。

「これさえあれば、どんなにへんてこな音程で歌っても、まるで歌姫のように素晴らしい歌になるよ。へんてこな歌詞はどうしようもないけれど、聴く人は自然と聴き惚れてしまうような設計だから、問題ないよね」

「問題大ありなのです。これでは歌がまったく上達しないのです。それから、どうして音波攻撃ができる機能までつけてしまったのですか?」

 僕はへんてこな歌詞を考えながら、なんとなくアキレス腱を伸ばすよ。

「だって、そのほうが面白そうだからさ」

 僕はにこにこして応えた。でも、初花は頬をふくらませてしまった。

「まったくもう。お姉ちゃんに持たせると危ないので没収です」

「別にいいよ。もとから初花にあげようと思っていたし」

 僕は過去の発明に囚われない。常に、新しい発明品を考えるのさ。

 初花は、あっけらかんとしている僕を見つめて、小さく溜息を吐いた。

「まったくもう。これから授業なのです。お姉ちゃんも来るのです」

 僕は初花に襟首を掴まれて、ずるずると引きずられていく。

 僕は地面に仰向けになるような体勢で、首を後ろに反らした。

 さかさまになった初花が顔を真っ赤にして僕を引っ張っている。

「服が伸びちゃうよ」

「なら、立って歩くのです」

 初花は急に手を離した。僕は、ごろりと床に転がる。

「もうちょっとのんびりさせておくれよ」

「だめです!」

 きっぱりと断られた。



 放課後、僕は部室で、初花の美声を聴いていた。

「これを使えば、誰でもアイドルになれるよ」

 初花は歌を中断して、両手を腰に当てた。

「お姉ちゃん。ずるはいけないのです」

「でも、初花は歌姫マイクを使っているよね」

「これは普通のマイクなのです」

 うん? 僕は近くに寄って、マイクのつまみを見てみる。

 つまみは真ん中に合わせられていた。

「あ……初花、歌、本当に上手だね」

「えっへん。褒められると嬉しいのです」

 初花は、得意気にふんぞり返った。ちょっと照れている。恥ずかしいならやらなければいいのにね。

 ちなみに、音痴になるスイッチには強固なロックが掛かっているよ。

 初花の歌声で、みんなの耳が腐るなんて嫌だからね。実質、兵器だし。

「お姉ちゃんも普通に歌の練習をするのです」

「僕は普通だからいいよ。何の面白みもないからね」

 僕は、手渡されたマイクを拒むよ。

 あ、そうだ。

 僕は隠し持っていた〈痴音マイク〉を取り出すよ。

 初花は訝しげな瞳で、僕のマイクをじろじろと見つめてくる。

 僕は、初花から、じわじわと距離をとりながら、仰々しくマイクを構える。

「お姉ちゃん。何ですか、それは」

「うん。よく聞いてくれたね。歌姫マイクより出力抑え目、窓ガラスを破壊するような威力は持たない。その代わり、人間の脳にへたくそな歌という認識を強制する機能がついている。ちゃんと酷い音痴にもなれるよ」

 初花ははっとした。残念だったね。もう遅いよ。この距離なら初花にマイクを没収されることはない。初花は、慌てて耳を塞いで、瞳も閉じた。

「やめるのです! みんな狂人になってしまうのです!」

「放課後だし、音量マックス! では、歌うよ!」

「……いい加減にするのです」

 初花の声が、何故か後ろから聴こえてきた。

 僕は後ろを一瞥した。

「ほえ?」



「さむい」

 僕はキンキンに冷えたこたつから這い出てきた。

「お姉ちゃん」

「うーん?」

 あれ? 僕は放課後、歌おうとして、それから、どうなったのかな?

 僕は、ぼんやりとする頭をおさえる。

「体調が優れないのですか?」

「いや、平気だよ」

「そうですか?」

 初花は心配そうな面持ちで、小首を傾げた。栗色の髪が小さく揺れる。

「ちょっとやりすぎたかと思いました」

「うん?」

「何でもないのです」

 初花は僕の頭をぽんぽんと撫でた。初花の手はふっくらしていて気持ちいいよ。

「僕は、初花がとっても恐ろしい顔をして、僕に手刀を入れる夢を見たよ」

 初花は僕から目を逸らした。

「か、変わった夢なのです。それより、また新しい発明品ができたら、見せてほしいのです」

「うん? そうだね」

 僕は、初花が両方のマイクを隠し持っていることに気がつかないふりをした。

 何だか、そうしたほうがいいような気がするからね。




 みんなは音痴な声で学校を破壊したらだめだよ。大迷惑だからね。

 あと、授業中でなくても、防音設備のない室内で、ぎゃあぎゃあと大声で歌うのは、あんまりよくないよ。たとえ美声でも、静かに過ごしたい人達にとっては、とても迷惑なことだからね。

 特に、勉強中の生徒とか、職員室の先生とかには、迷惑だと思うな。

 ちなみに、僕はこっそり部室に防音設備を整えて、窓ガラスや家具は頑丈にしておいたよ。だから、痴音マイクの犠牲者は僕と初花だけの予定だったね。

 まあ……失敗したけれどさ。おかしいなあ……。

 さてと。僕は、頭の中で設計図を組み立てる。今度は何をつくろうかな。



 僕が自宅でのんびりと新作の設計図を固めていると、歌姫ボイスが聴こえてきた。初花もとうとう、歌姫ボイスの魅力にやられたのかな?

 僕専用の研究用個室を出て、音のするほうへ、のんびりと向かう。

「初花……あれ? お父さん? 何をしているのかな?」

 お父さんは研究室の中央で一人ポーズをしているお父さんがいた。

 歌姫の声で歌うお父さん。僕に気づいて一瞬固まったけれど、また歌い出す。

「うん。お父さん。動画、撮ろうか」

 僕はにやにやしながら、歌姫のお父さんにスマホを構える。

 お父さんは、電子画面の向こうで、ノリノリで歌い踊り続けていた。(了)

桜庭菊花

「ねえ、かもさん。どうして僕達はいつまでもJKの一年生なのさ」

賀茂川家鴨

「組成構造と実験趣旨の都合上、そうでなければならないからです」

桜庭菊花

「うん? そうなのかい? まあ、よくわからないし、なんでもいいか」


Q.実際に気絶するほどの手刀を首にキめたらどうなりますか?

A.気絶するほどですと、ほぼ頚椎がお亡くなりになっているので、最悪、下半身不随でしにます。

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