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ポーター

迷宮。そこは瘴気が溜まり半ば異界化した場所。危険と利益が待っている。

探索士。力在る存在を殺害することにより溜まるカルマによって人外の力を振るう者たち。

 その迷宮に今一つのパーティが挑んでいた。人数は六人。まあ平均的な数字だ。基本,迷宮は暗くて狭くて怖い。つまりは大人数の移動には向いていない。勿論、何事にも例外は在るがセオリーとしては五人から九人までが理想とされる。

パーティのリーダーは中心を歩く金髪碧眼の若い男。貴族的な容貌をしていて実際貴族の生まれだとか。皆からはクルスと呼ばれている。

 その周りを囲むように四人の美女たちが守っている。

 先頭を歩くのは黒い髪にブラウンの瞳を持つ大柄な美女。南方の蛮族の血を引いていて褐色の肌を急所だけ覆うような防具を身に着け大剣を背負っている。。名はベラ。戦士職。

 右を歩いているのは白い髪に赤い目をした儚げな美少女。以外と頑丈な白いコ-トに身を包みフードを目深に被っている。手に持っている杖は青い魔石が先端にあしらわれている。名をエリス

 左を歩いているのは金髪に紫紺の瞳の少女。ひらひらが多い服装で見えそうで見えない絶妙の黄金比を体現していた。手に持つ杖はタールを固めたようなどす黒い材質で先端には赤い魔石が取り付けられていた。

名をビアンカ。

 背後を歩くのは銀髪碧眼の冷たい印象を与える少女。動きやすい体に張り付くような革の上下に身を包み腰には二本の大型のナイフ。ベルトにはダガーが差し込まれていた。名前はハイネ。

 そして最後の一人は一行から二・三歩離れた位置を歩いていた少年だった。黒髪緑眼。背には恐らく自分の体重よりも重いであろう大量の荷物が積まれていた。その姿はまるで蟻のようだった。

「待って」

背後を歩いていたハイネが唐突に声を上げた。その声で全員が立ち止まり同時に武器を構える。

「敵か?」

半ば確信したようにクルスが問いかける。

「ええ。前方に群れ。後ろは大丈夫」

敵の規模と方向を聞いた仲間は即座に陣形を組み始める。

褐色の美女が一歩前に出て背負っていた大剣を抜く。その剣は分厚く大きく鉄の塊を平べったくしただけの様にも見えた。その剣を体の右側に構え敵が来るのを待ち受ける。その背後では前衛が稼ぐ時間を無駄にしない為に仲間達も準備に入る。杖を持つ者たちは瞑想に入りクルスも鍔元に青い宝石が埋め込まれた大剣を構える。

 敵が近づいてくる。ベラは握りを確かめ、エリスとビアンカは半眼になり瞑想に入る。クルスも目付きを引き締め前方の闇を睨む。

 腰に下げたランタン。それによって視界は最低限確保されている。がその所為で闇はより深く質量を伴っているようだった。そのねっとりとした闇に見透かすような視線を注いでいるのはハイネだった。斥候職の特徴はその鋭敏な感覚に在る。勿論、真っ暗闇は見えない。今は聞いているのだった。

 敵の足音を、息遣いを。

「もう・・すぐだよ」

遠くを見る様な目つきでハイネが告げる。

「ビアンカ」

「はーい」

クルスの呼びかけに応じてビアンカが杖を振ると大人が膝を抱えた程の火球が発生する。

「やれ」

「ん」

掛け声に従い火球が前方の暗闇へと飛んでいく。何も無い場所へ一直線に飛んでいった火球は地面に着弾。

するとまるで油が撒かれていたかの様に周囲に広がった。カーテンが引かれる様に暗闇が払われる。その下から現れたのは異形の群れ。肌は水死体に似て青白く体毛は一本も無い・・ならまだ良かった。まばらに頭髪らしき名残があるのが哀れみを誘う。全裸なのだが生殖器らしき物は見受けられない。にもかかわらず顔には個性と呼べそうなものが見受けられる。口からは外へと向かって突き出すように牙が生え眼科の中には灰色の球体がはまり込んでいる。あれを眼球だとは思いたくない。そんななまじ人間に似ているだけ醜悪な化け物たち。それが雄たけびを上げて襲い掛かってくるならばまだましだったかもしれない。分かりやすいものには分かりやすい対応が出来る。しかし奴らは助けを求める様に手を伸ばすと悲しげに泣きながらこちらに近づいてきた。

 誰がつけたのかは知らないがナイトウォーカーと呼ばれている。新米の中には動くことが出来ず棒立ちのまま貪り食われるものも少なくないとか。

 常人なら良くて戦意を挫かれ逃走。悪ければ狂乱の上、自滅。

 しかし当然この場に常人なんてものは居なかった。

 ベラは自ら前に出ると自分の身長よりも大きく、自分の体重よりも重い大剣を抜き放ち敵を待ち構えた。

 ビアンカは位置と距離が判明した敵により強力な一撃を加えるべくより永い瞑想な入った。

 エリスは邪魔にならない様一歩下がり状況を観察する。味方に何かあれば即座に治療する為だ。

 ハイネは後方で動かず周囲に気を配っている。迷宮は何が起こるか分からない。突然、後ろから襲われる事も在りえる。

 そしてクルス。パーティの最強戦力にしてリーダー。今現在、確認されている七人の勇者の一人。金色の鎧を身に纏い、聖剣と聖盾を身に着けたその姿はまるで迷宮の中に出現した太陽のようだった。

 敵がついに間合いに入る。決して走ったりはしていないのに何故か以外と速かった。ベラが雄たけびと共に大剣を横薙ぎにする。硬いというよりは粘土に似た手ごたえの体を数体まとめてぶった切る。傷跡からはあまり出血せず半透明な粘液が少量、にじみ出ていた。仲間がやられたのを気にもせず進んでくるナイトウォーカー達。地面に散乱している仲間達を踏み越え時に踏み潰してとどめを差しながらひたすら前進してくる。ベラが切り裂き叩き潰しているが処理能力を超えて敵は迫ってくる。

「あぶないよー」

ビアンカの緩い呼びかけに従ってベラが後退する。入れ替わりに火球が飛来し敵の群れに着弾する。先程とは違い複数の火球は広範囲に着弾し火の海を作りだす。火達磨になりながらも進んでくる敵たち。

(余計な事したんじゃねーか?)

と思いつつも大剣で敵を処理するベラ。流石に手首が疲れてきた。振り切った直後の隙に敵が迫ってくる。

一撃喰らうのを覚悟する。噛み付かれたらそのまま壁に叩きつけて即効でエリスに治癒してもらおう。

焦りながらも冷静に判断する。その必要は無かった。女体にも似た優美な形状の剣が魔物の頭を貫いたからだ。

「無茶するな」

戦闘中にも関わらず静かな声でクルスが語りかけてきた。そんなクルスの背後から敵が襲いかかる。

勿論クルスは的確に処理をした。軽やかにステップを踏み流れる様に大剣が振るわれる。そのたびに敵は肉塊となり床に転がる障害物となって行く。

クルスとベラの手により次々と破壊されていくナイトウォーカー共。

しかし数が多かった。一匹を切っても二匹が迫ってくる。二匹を斬っても四匹が迫ってくる。次第に押されていく二人。背後には接近戦が苦手な奴らが集まっている。もしも二人が突破されたらひとたまりも無いだろう。クルスは奥の手を使う事にした。

剣を大きく振って一瞬時間を稼ぐと剣を胸の前に掲げた。仄かに鍔元の宝石が輝き始める。動きを止めた獲物に殺到するナイトウォーカーたち。

「落ちろ」

厳かにそう告げた瞬間いく筋もの稲妻が目の前をなぎ払っていった。黒焦げになって転がるモンスター達。

残ったのは僅かな敵のみだった。

「後は二人でやるぞ。ベラ!」

「あいよっ」

残りの敵が駆逐されるまで大した時間は掛からなかった。

「ハイネ敵は?」

「居ないわ」

それを聞くと大剣を屍に突き刺し休憩しているベラの元にクルスが近づく。

「右手、見せて」

差し出された手にベラの右手が乗せられる。クルスの手が燐光を帯びる。酷使された手首の疲労と鈍痛が溶けるように消えていった。

これは異常な事だった。本来、人は一つの特性しか使えない。戦士の筋力が在れば斥候の知覚能力は使えない。魔道士の遠距離攻撃が出来る物は僧侶の治癒魔法は使えない。しかしクルスは剣で敵を葬り魔法を使い味方の治癒まで行っている。さすがに敵の感知までは神経が持たないのでハイネに任せているが一人で複数の職を兼ねている。それは彼が[勇者]だからだ。複数の職を使える突然変異。人はそれを勇者と呼ぶ。

最初に確認されたのは王国の設立者で勇者の力を使い王となった事から勇者王と呼ばれた。クルスはその勇者王の血統に連なる者だった。

「どうかな、まだ痛む?」

「いんや、治った」

右手をぶらぶら振りながらベラが答えた。

「クルス言ってくれれば私がやるのに」

エリスが拗ねるように上目遣いで言った。

「この位なら僕でも治せるからね。エリスはいざという時の為に休んでいてくれ」

「クルスが居るんだからいざ、なんて起こるわけ無いじゃない」

鼻にかかるような甘ったるい喋り方。惚れた男に女がする話し方だった。

「ははは。まあね。」

軽く流した。日々、賞賛を受けなれているのだろう。

「ね~え。そろそろお茶にしな~い?」

馬鹿っぽい喋り方をしたのはさっきの戦闘で敵を焼き払ったビアンカだった。これでも魔道使連盟、期待の新人だという。

「お茶って・・」

迷宮の中でも変わらない態度にクルスが呆れる。ちなみに大抵は一服などと呼ばれる。

「まあ、良いんじゃないか。結構進んだしな」

ベラがビアンカの意見に賛成する。

「そうだね。ハイネ警戒を頼む」

「うん」

最小限に答えたのは斥候職のハイネだった。灰色の髪を少年の様に短くしている。

勇者クルスを筆頭に戦士ベラ斥候ハイネ魔道士ビアンカ僧侶エリス。この五人がいつものメンバーだった。

そしてもう一人パーティーに無くてはならないが一員と認めて貰えない職がある。

「ノイン荷物をくれ」

呼ばれて闇の中から出てきたのは背嚢を背負った少年だった。色あせてねずみ色になったコートを着て背嚢を背負っている。背嚢は大きく膨らみ肩に食い込んでいる。嘗て王の墓を作ったとされる奴隷を思わせる姿だった。ノインと呼ばれた人物は一歩一歩確かめる様にして近づくと背嚢を下ろした。紐を解くのに悪戦苦闘している。

「何してんの?」

苛立ち紛れにハイネが呟く。

「嫌、何か解けなくて」

もたもたしているとハイネがノインを退かした。紐を手に取る。

「何で方結びなの」

明らかにイラついている声音だった。一瞬ナイフに手が伸びた。斬るかどうか迷ったのだろう。結局はふみとどまり試行錯誤の末解く事に成功した。中から幾つかの包みや袋を取り出す。

出てきたのはビスケットや水筒に入ったお茶などだった。内容はピクニックと変わらないがこれには命が掛かっている。カップが配られ真ん中にビスケットの入った袋が置かれる。それぞれカップを手に取りビスケットを口に運ぶ。しかし余り色が進んでいないようだ。迷宮の探索は精神と体力を消耗する。薄暗い通路を歩くだけでも人は心身ともに消耗する。まして命の危険まであるのだ。恐らくだれもが風呂に入りたい柔らかいベットで眠りたい温かいご飯が食べたいと思っているだろう。にもかかわらずビスケットの減りが遅いのはクルスの眼があるからだった。好いた男には華奢で可憐に見られたいというのは女性の本能だろう。

「がりがり・・んぐんぐ」

そんな中一度に三枚のビスケットを口に入れ茶で流し込んでいるのはベラだった。それでも見苦しくないというのは一種の神秘だった。野生的な美貌が彼女に免罪符を与えているのかもしれない。ちなみに座り方は大股開いて胡坐を掻いていた。

「ちょっと一人で何枚食べるつもり!皆の物よ。ちょっとは考えなさいよ。」

エリスがいらいらした口調でいった。

「じゃあお前も食えばいいじゃん。何で食わないの?」

「私は・・お腹減ってないし」

腹を手で押さえながらエリスがいった。

「・・仮にそれが本当だとしても食っておけ。いざという時に倒れたらクルスが迷惑するんだぞ」

さすがにクルスの名前を出されては逆らう事も出来ずビスケットを口に運ぶ。さすがにベラの様にはできず端っこに噛り付く。その瞬間口の中にほのかな甘みが広がり唾液があふれ出す。もう止まらない。リスの様に前歯でビスケットを削り取ってゆく。クルスが微笑ましそうに見ていた。

「ハイネは?」

ふと気がついて聞いてみる。

「ぽーたー君と魔石の回収をしてるわ」

ビアンカが紅茶を口に運ぶ合間に答えた。いつもより二割増しで眼がとろんとしている。顔には出ていなかったが疲れていたのだろう。

「そうか、僕も手伝おう。」

言って腰を上げようとするクルス。その腕をエリスが取った。

「駄目よ、休んでなきゃ。クルスが一番疲れたでしょ?」

何処と無くその言葉には睦言にも似た甘い響きが宿っていた。

「そうだぜ。偉そうな面すんのもリーダーの役目だぜ」

ベラが気楽にそう言った。

「・・・分かった」

流石に二人の仲間から引き止められてまで行くつもりは無かったのだろう。クルスは座りなおした。

暫く何事も無い時間が続く。茶を飲み雑談やこれからの事を話し合う。

暫くすると足音が聞こえてきた。表れたのは銀髪の少女。遅れて黒髪の少年。

「お帰り、ハイネ。ポーター君」

ねぎらうクルスにハイネが袋を放り投げる。クルスが中を確認すると幾つかの濁った石が入っていた。これは魔石の原石で魔物の体内から摘出される物で加工する事により様々な用途に利用される。探索士が迷宮に潜る理由の大半を占める。

「これだけ有れば十分かな。今回は撤収しようか」

「私は構わないわ」

「意義な~し」

「俺はまだ行けるけどな」

とりあえず総意としては帰還で決まった。

「じゃ、帰ろうか」



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