第4話 はじめての訓練 後編
ヒカルたちは、午前の訓練を終え、休憩時間に食堂に来ていた。
「自己紹介しようぜ。」
席について真っ先に声を出したのは、気術の天才であるザウスだ。
「俺は、ザウス。ダストレアス出身で、気皇帝の直弟子だ。修業の途中で、この国に来れば、強い奴は、なんでも好き放題と聞いて、やってきた。目標は、100人の性奴隷。よろしくな。」
「俺は、ビーケル。セムナーン技国の大学で、魔属性の魔術の勉強と魔術陣構築省略技術について研究していた。理論事態が難しすぎて、第三者に実践してもらうことができなくてな。魔属性もちもまず見つからないしな。自分自身で実践の機会がないかと考えていたところ、聖龍の秘宝を持つアガレス皇帝陛下からスカウトされて、この国にやってきた。正直、地位や女に興味はない。皇帝陛下からは、聖の適性がある以上皇帝候補にならないかといわれているが、断った。だが、野望はある。魔術師でも近接戦闘で気術師に勝てることを証明し、魔術こそもっとも偉大であると思わせることだ。」
「なるほどね〜。じゃあ、次は、みんなが気になっている異世界人と思わせて、シルヴィアちゃんで。いや~まじ、美少女すぎだよね~。一度エルフってのを見たことがあるけど、シルヴィアちゃんみちゃうとかすむね。まじで!」
ザウスのいかにも軽薄そうな発言に対して、シルヴィアが睨み付ける。
「おお。こわい。」
「世事はいい。それから、ちゃん付けもやめろ。全員呼び捨てでいい。というか、呼び捨てにしろ。その代わり、私も呼び捨てにする。自己紹介は、ゼクロス大将の前ので十分だろ。私は、なれ合うつもりはない。一番近い食堂がここだから一緒に食べているだけだ 。」
「ああ。その強気な感じがまたいいね。ぜひとも屈服させたくなるよ。けど、このままだとヒカルが皇帝になって、シルヴィアちゃんもらわれちゃうんでしょう。その辺どうなのさ。」
ザウスが興味津々に尋ねる。
「私が決めるわけじゃない。父に勇者となったものと結婚しなさいと言われている
だけだ。この国じゃ、皇帝のいう事は絶対だ。私に拒否権などない。少なくとも
・・
今はな。」
「ふ~ん。ヒカルは?」
「俺は、別に女はどうでもいい。まあ、強いていえば、性欲がたまった時に、胸が大きくて色白の女を用意してもらえれば文句は全くない。」
「なんだそれ。おおざっぱだな。それじゃあさ。ヒカルが皇帝になったら、俺にシルヴィアちゃんちょうだいよ。」
「おい。ちゃん付け・・」
「ねっ、興味ないならいいでしょう。もちろんただでとはいわないからさ。シルヴィアちゃんをちょうだい。この通り。」
ザウスは、シルヴィアの抗議を無視して、シルヴィアをちゃん付で呼び、いわゆる土下座をヒカルにしていた。
「なら、俺に稽古をつけてくれないか。ひたすら模擬戦つけてくれるだけでいい。俺はとにかく強い奴と戦いたいんだ。」
「ま、マジでいいの!?」
「ああ。」
「おっしゃー!!おっしゃー!よかったー!!命がけで、師匠のもと抜け出してきてよかったぜ。いやあ。ヒカルお前は、今日から俺の親友だよ。そして、絶対お前を皇帝にしてやる。ってもお前なら、ほかの候補に負けるとは思えないがな。ああ、マジか、シルヴィアちゃんが俺の女に・・・ぶつぶつ・・・」
「ちょっと、そんな女の子を物みたいに。失礼なんじゃ・・」
トモヤが途中おそるおそる口をはさむ。
ザウスが反応する。
「トモヤっていったけか?異世界人だから知らねえんだろうけど、この帝国は絶対的男尊主義だから、ほとんど女は物扱いだって聞いてるぜ。ていうか、強い雄がいい女を手に入れる。そんなのどこの世界でも一緒だろ。」
「そんな・・・」
トモヤのつぶやきに、シルヴィアが口をはさむ。
「ザウスのいう通りだ。この国では、むしろ私は、皇帝の皇妃の娘であるということで、女でありながらかなりの好待遇を受けているくらいだ。この国では、皇帝が認めた皇妃以外に自由などない。その皇妃、つまりは私の母もすでにこの世にはいない・・・だから、私はこの国で最も自由を持っている女だといえる・・・・それに、自分が強くなりさえすれば、皇帝にだって抗える。私は、誰よりも強くなって見せるつもりだ。」
さらに、シルヴィアは、誰にも聞こえない声で、ぼそりと最後に「でも、ありがとう。」とつぶやいた。
「かー。いいねーその感じ。屈服させる時が楽しみだわ。」
ザウスのその一言に、ラウラとトモヤが不機嫌な顔になる。
「っと、自己紹介のはずがだいぶ脱線したな。 もうそろそろ、訓練にもどらなきゃだな。話はまた今度な。」
ザウスは、聞くべきことは聞いたとばかりに、颯爽と食堂を出ていった。その後、残されたメンバーに対して、トモヤとヒロシが、「よろしく」と言って、周囲が軽くうなずき自己紹介は終わった。
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午後の訓練では、トモヤとヒロシは、ゼクロスから渡された、気出薬を飲み、ずっと見学していた。気を放出すると、体から一気に力が抜けるような感覚に陥り、動くこともつらかったのである。ゼクロスは少しずつならしていけばいいといった。普通は、気を纏えるようになるのに数か月はかかるらしい。
ほかのメンバーは、ゼクロスが直接指導していく形だ。ヒカルは隙間時間にザウスに何度も挑み、何度も負かされた。
そして、訓練終了時間の直前、ゼクロスが全員に集合をかけた。
「それじゃあ、今度は、俺と全員で模擬試合するか。教える物に威厳が必要だからな。全員いっぺんにかかってこい。トモヤとヒロシは見学な。」
ゼクロスの周りを、ラウラ、ヒカル、ビーケル、ザウスが取り囲む。
「ゼクロスさん。秘宝使うんですか。」
「そうだな。せっかくだから使うか。異世界人は全く知らないだろうしな。」
「秘宝?」
「秘宝ってのは、迷宮の最新部にいる龍を倒すと手に入れられる代物だ。こいつを俺は2つ体内に宿している。こいつを使うと、戦闘力がだいたいランク1~2くらい跳ね上がる。もともと、人の戦闘ランクの限界値がAランクだといわれている。だが、そのAランクに到達したものが秘宝を顕現させると戦闘力がS以上になる。俺は、二つもっていて、二つ顕現させらればSSランクになる。」
「ゼクロスさん、もしかして、二つ顕現させるつもりですか?」
「そうだな。せっかくだしな。ザウス。本気でやらないと傷一つ付けられないと思え。いくぞ。顕現せよ!わが身に宿る炎龍の力!無龍の力!」
ゼクロスの体が光、炎と無をイメージできる素敵な服に包まれる。そして、ゼクロスの周囲濃密な龍力が漂う。龍力とは、気力または魔力を龍力という特殊な力に変化させたものである。ピリピリとした雰囲気で、並のものであれば近くにいるだけで、その圧倒的存在に正常な意識を保つことさえ難しい。現に、かなり離れた位置いるはずのトモヤは恐怖にすくみ上り、ヒロシは失禁までしていた。
ゼクロスの周囲のものも、思わず1歩、2歩と後ろに下がる。
「さてと、武器は無難に剣でいくかな。秘宝を顕現させるとこういう風に、任意の武器を作り出すことができる。さらに、炎龍の秘宝により炎属性の技の威力が上昇し、無属性の秘宝により気術力が、ひいては龍術力が上昇する。その上、顕現中は、魔力も気力も上位の力である龍力に変換される。同程度の気術力や魔術力では絶対に勝てない。」
「ほんと反則っすよ。」
「まあ、そうだな。だが、いずれは、君たちもこの力を手にしたいのだろう。だったら、その身で痛感しておくのも悪くないだろう。さあ、かかってこい。」
「へいへい。まあ、俺は、一度師匠から、3つ同時に顕現したの見せられているんですけどね。それじゃあ、いきますよ。」
数秒の後、戦闘力SSの秘宝持ちの絶対的強者ゼクロスただ一人が無傷で立っていた。
こうして、訓練初日が終わった。
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その日の夜、3人の勇者候補たちは、なかなか寝れずにいた。
まず、ヒカル。
彼は、興奮していた。自分が本気を出しても全く勝てない相手の存在がひどく嬉しかった。ビーケルとザウスの戦いを見たとき胸が震えた。自分は、この世界に来られて本当によかった思った。しかも、そのビーケルやザウスでさえ全く歯が立たないゼクロス。さらに彼より強いであろう皇帝。もしかしたら皇帝よりも強い存在もいるのではないか。
つぎに、トモヤ。
彼は、異世界と日本の価値感の違いに何よりも驚いていた。特に受け付けなかったのが、女性に対する態度だ。この国では、ほとんんどの女性は奴隷なのだという。むしろシルヴィアが特別だとか。そのシルヴィアだって、このままじゃあ、好きでもない男と・・・もし、ヒカルがザウスの下にシルヴィアを送ればどうなるか。日本だったら絶対許されない犯罪行為が行われるのだろう。自分にできることは何かないのか。そんなことをずっと考えていた。
最後にヒロシ。
彼は、召喚されたときこそ、喜んでいたが、今は、自分の無能さに嫌気がさしていた。もっとも、彼は、それでも、自分にはよくある話の主人公のように何かしらチートな能力があるはずだとも考えていた。だから、ヒカルにもトモヤにも負けるはずない。なんとなくそんな風に考えていた。そして、夢想するのはシルヴィアのこと。前世では、2次元に逃避していた。召喚直後はPCがないことに不安を覚えていたがどうでもよくなっていた。
ヒロシは、転生前には、アイドルなどには全く興味がなかった。もちろん、抱いて言われたら喜んでいただろうが、アイドルも2次元の女の子に比べれば大したことないと思っていた。だが、シルヴィアは違った。あれこそ。本物の美少女だと思った。自分がかつて思いを寄せ裏切られたあの少女の魅力などシルヴィアの前では無に等しいと思った。ああ、あれをどうにか手に入れたい・・・
そして、それからの一週間。3人とも思惑は違えど、訓練に真面目に取り組んでいった。