第2話 異世界召喚
召喚される人物の紹介も終えたことだし、地球から彼らが召喚された異世界<ク
リエス>のことについても見てみることにしよう。クリエスは、 地球とは異なる
次元にあり、異なる法則が支配する世界である。
そして、そのクリエスは、天界・魔界・邪界の三界から成り立ち、ほとんどの生物は魔界に存在する。主人公たちが召喚されることになるのも魔界だ。また、クリエスには、様々な種族がいる。 そんな多数の種族たちの中にも、地球の人間と全く同じような種族の者たちがいる。クリエスで純人族と呼ばれる種族だ。 少し違
う事があるとすれば、髪の色の種類が多いこと、平均的な容姿のレベルはさほど変
わらないが、美人やイケメンの最高レベルが地球のそれを遥かに上回っているこ
とくらいだろう。確かに、多かれ少なかれ、魔素や気素というものを体内に宿して
いるという違いがあるが、地球人もクリエスにいけば宿すことができるから、本質的な違いとは言えないだろう。
そして、その純人族、特に男性の純人族を至上の種族とする国が存在する。ガウ大陸唯一の国、アガレス帝国だ。 今、この国の皇帝は、夢の中で神を名乗るものと出会っていた。
「よう。アガレス13世。俺は、人神。ちいと頼みがあってやってきた。」
「あの古代神の人神?にわかには信じがたいな。」
「まあ、そうだろうな。いきなり信じられねえよな。ところでお前さん、今、後
継者に困ってるだろう。聖属性の魔法適性を持つ有用な人物がなかなか見つかない
んだろう。」
「まあ、全く候補がいないわけではないが、かなり厳しいのは確かだな。」
「そこでだ。俺がちいと力を使って異世界から、聖の適性をある奴を召喚して
やろうと思う。もし、本当に、召喚されたら、俺の頼みを聞いてくれねえか。」
「はは。確か、はるか昔、人神様より異世界から召喚されたものが、人神様とと
もに悪神である龍神を討伐して、勇者の称号をいただいたとか。」
「おおよく知っているな。」
「有名な伝承だからな。今は、代々アガレス帝国の皇帝が勇者の称号を受け継い
でいるくらいだしな。俺のことを勇者と呼ぶ奴らもいるわけだ。それで、自称人神
様が、現勇者兼アガレス帝国13世の俺に何を頼みたい?もし、本当に召喚できた
ら、人神だと信じて、一つくらい言うことを聞いてやろうと思うが。」
「そりゃあ助かった。」
「だが、異世界人は強いのか。それに、皇帝を継いでくれるのかどうか。」
「少なくとも前の召喚者は強かったぜ。とはいえ、異世界人は、才能はあるが、向
こうの世界は平和すぎるし、魔術や気術も存在しない。だから、訓練が必要だな。
それとおそらくだが、異世界人は召喚されると必ず固有能力を持つはずだ。能力次
第じゃあ恐ろしく強くなるはずだ。」
「そりゃあすごいな。」
「まあな。それで、異世界人が言うことを聞くかどうかだが、とりあえず、極
上の女でもチラつかせればいいだろう。能力の高いものに女を与え、努力し強く
なれば、いい思いができると見せてやればいいのさ。男なんざ所詮それでどうに
んでもなるさ。」
「それもそうだな。適当に女を見繕っておくか。」
「おいおい。仮にも勇者候補だぜ。そして何より異世界人だ。異世界人ってはな
ぜかは知らんが本当に将来強くなる。絶対に手綱を握らないとならねえ。これは
おれ自身の目的にも必要なことだ。」
「そうは言うけど、どれレベルの女を用意すればいいんだ。」
「実は、魔人族で極上の女がいる。」
「魔人族?」
「ああ。ダークエルフだ。ヴァンパイアの少女の姉妹の護衛兼世話役をしている
ようだが、三人でいつも早朝こっそり海辺にいくのを確認している。ヴァンパイア
の少女たちも成長すればかなりいい女になると思うぜ。」
「おいおい。ヴァンパイア国ってことは、魔王がいるじゃねえか。」
「魔王くらい、聖龍の秘宝受け継いでいる聖皇帝様なら余裕だろ。」
「まあ、確かに魔王には負けるとは思わないが、魔皇帝と事を構えるのは勘弁だ
ぜ。あれ相手じゃ、こっちもいろいろ覚悟がいる。」
「おいおい。今代の勇者様はずいぶん弱気だな。」
「悪かったな。数十年前、戦争したときその魔皇帝にやられかけてんよ。」
・・・
「なるほどな。まあ、俺も今すぐ戦争しろなんて言わないさ。とりあえず、今は
ばれないようにこっそりさらうんだよ。人さらい。お得意だろ。」
「確かに、人さらいをして奴隷にするのはムジタムル王国を通じて結構やってい
るけどな。魔帝国相手はな・・・あの国は基本的に純人族は入国できないだろ。侵
入自体が難しい。」
「そこでだ。俺がこっそり拉致する方法を考えてやった。海魚族を利用するん
だ。」
「そういわれても、あいつらとどうやってコンタクトとるんだよ。」
「ムジタムル王国に、海魚族と会話できる固有能力を持つものがいる。アガレス
帝国に秘密で、海魚族に奴隷を売っているようだ。だから、ムジタムル王国に頼め
ばどうにかなるはずだ。属国だろ?」
「なんだと!?俺は聞いていないぞそんなことは!」
「まあ、落ち着け。秘密にしていたこと流す代わりに、海魚族を使って彼女たち
を届けてもらえ。海岸沿いだから、海人族なら水中を移動するから、バレない
さ。」
「・・・・。わかった。いいだろう。本当に異世界人があらわれたらそうしよう。」
「あんまりいい女だからって自分で手を出すなよ。」
「はは。今さら何を。この年になるまで、腐る程女は抱いてきた。安心しろ。後継者育成のが大事さ。」
「ならいいが。それで召喚についてだが、彼らは、肉体年齢を15歳で共通にし
ている。年齢の変化に驚くものもいるだろうから説明してやれ。あと、こっちの
世界に来ると向うの世界では存在自体がなかったことになるということも教えて
やれ。あと世界共通語である純人語もマスターしてあるから、意思疎通は問題ないはずだ。」
「なるほど。」
「それじゃあ、目が覚めた後、夜の10時に皇帝の間で待て。いいな。そこに異世
界人たちが召喚される。」
「わかった。」
「異世界人の召喚でほとんどの力を使っちまうから、次会うときはかなり後にな
るが、そのときはよろしくな...それから、お前の娘も相当いい女だろ。皇帝に
なったときの商品にしてやれば、もっとやる気が出るんじゃないか。」
「・・・・。わかっている。正式に皇帝の座に着いたら、性奴隷にだろうとなん
だろうとくれてやるさ・・・皇帝は絶対だからな・・・」
こうして人神とアガレス13世の夢の中での会話は終わった。
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皇帝が神と夢の中で出会った後の夜10時ほんの少し前。 皇帝の間には、皇帝と
事情を告げられ訝しながらも側に控える宰相アグリードや側近がいた。 そして10
時ぴったり。
皇帝の間が突然光り出す。
「まさか...」
「こんな事が...」
アガレス帝国。それはクリエスという世界に存在する男尊女卑かつ純人族至上
主義国家である。代々聖龍の秘宝を受け継いだ男性が聖皇帝と呼ばれ、絶対君主
として君臨する軍事大国である。そんなアガレス帝国に今、3人の男が異世界に
存在する地球という星の日本国から召喚された。
「「おおおお!!」」
「よく来てくれた異世界人諸君。突然のことに驚いていると思うが、冷静に聞い
て欲しい。私は、アガレス帝国皇帝アガレス13世だ。聖龍の秘宝を受け継ぎし勇
者でもある。そして君たちは、その勇者候補として召喚されたのだ。はじめに、ス
テータスカードを渡すから、それに自分のことを登録してみてくれ。」
召喚された者たちは、困惑した表情をしながらも、カードに登録を済ませていった。
「では、カードを見せてくれ。」
召喚された者たちは、流されるまま、皇帝へ一人ずつステータスカードを見せていく。
「ヒカル」
戦闘力:H
気術力:J
魔術力:J
属性:聖>雷>炎>氷>風
「トモヤ」
戦闘力:I
気術力:J
魔術力:J
属性:零>空>聖
「ヒロシ」
戦闘力:J
気術力:J
魔術力:J
属性:闇>土>水>火>聖
皇帝が全員のステータスを見終わる。
「素晴らしい。確かに全員聖属性の適性をもっているな。特に、ヒカルは、聖の適性が一番上に来ていてすばらしいな。それから、トモヤ。お前とはどこかで会ったことがあるような気が・・・。いや、そんなわけないか。とにかく、これなら、期待できそうだ。今日は、もう夜遅い。明日の朝詳しいことは話そう。アグリード、彼らを客室へ案内して差し上げろ。それから、ムジタムル王国に使者を送り、例の件をすすめろ。」
「は、はい。」
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次の日の朝、皇帝は、ヒカル、トモヤ、ヒロシの3人を集め、人神から言われ
た通りのことを告げた。3人とも、地球での暮らしに不満があったためか、文句
は出なかった。いや、文句をいう度胸がないだけのものもいるかもしれないい。
「勇者候補者諸君。勇者の二つ名を代々受け継ぐこの皇帝の地位がほしくは
ないか。勇者になれば、金も、女も、酒も自由のままだ。この世界に来たことを
きっと喜ぶはずだ。とはいえ、いきなり皇帝を目指せと言われても、困るだろう。
そこでだ。まずは、一週間君たちに訓練をつける。その結果、もっとも戦闘力が高
いものに極上の女を三人ほど奴隷にやろう。二番目のものにもそこそこの女を用意するつもりだ。そうすれば、力をつける意味を実感できて、皇帝を目指すことにも積極的になれると思う。どうだ受けてくれるか。」
ヒカルたちはとまどいながらもみな頷いた。きっとこの突然の状況では、流さ
れるしかないのだろう。いや、表情をみるに、流されているのはトモヤだけなよ
うだ。ヒカルとヒロシが興奮気味な様子なのに対して、トモヤはひどく不安そう
だ。どうやら、ヒカルは訓練という言葉に、ヒロシは極上の女の奴隷という言葉
にすっかり期待を膨らませているようだ。
「そうか。みな受けてくれるか。なら、明日から訓練だ。時間になれば部屋に迎
えが行くから待っていてくれ。」
こうしてクリエスにとって異世界に存在する地球という星から、異世界人たちが
が無事アガレス帝国に召喚され、皇帝を目指して訓練させられることになった