バイオレンスな彼女 2
さて、彼女を家に入れてから数日が経ったわけだが。
そのうちにわかった事もあったが、やはりわからない事だらけだ。
わかった事は殺人?スキルが高い事くらいだ。それと一般的な事はほとんど知らないようだった。
本人が言うには
「殺スタメニ生キテキタ。逃ゲテキタ。オ腹スイタ」らしい。
言葉も日本語を覚えたての外国人のように片言だし、食べ物関してはラーメンすら知らないでいた。
お箸も使い方がわからないようで、終始手づかみで食べていた。
風呂についてもわからなかったらしく、一緒に入る羽目になった。入ってる間に四回ほど殺されかけた、と言うか刺されたからもうこりごりだ。
まぁ、そこについては次の日から問題はなくなった。本当に知らなかったから使えなかったようで、すぐに覚えて一人でちゃんと使うようになった。
お箸の使い方もすぐに覚えた。
そしてさっき、大家さんにばれた。
あの小娘隠していたナイフをいつの間にか探しだし事もあろうに寝ている俺を刺してきやがった。
それも三回も。ここ数日おとなしかったから油断していた。
さすがに不意打ちだったから明け方だったとはいえ大きな声で叫びましたよ。
えぇ。まるで鶏の如く
物覚えがいいからいろいろ教えたんだが、人を刺すな切るなについてはどうやら止められなかったらしい。
俺の叫び声に反応して大家さんがやってきたんだがドアを開けた瞬間
「はぁぁぁぁぁぁぁっ、幼女きぃぃぃたぁぁぁぁぁぁ。」
と、このテンションだ。
「もー与風ちゃん、こんな可愛い子いつから隠してたんよ。はぁ、ぷにぷにのほっぺええなぁ~」
と人間技とは思えない速さで彼女を羽交い絞めにすると、身体中をまさぐり始めた。
そんな変態行為を始めたのはこのアパートの大家の碓井四万さん。
俺は除きたいとこなんだが、この変な人が多いアパートの大家さんだ。
まあ碓井さんが変な人筆頭なんだけどな。っとまあ他の人の紹介は後々していけたらと思う。できれば紹介したくないんだが。
「少しは刺された人の心配をしてほしいものなんですけどね」
「そやかていつものことやん?すぐ治るんやし心配するだけそんやん」
「それはそうですけど。…毎回面倒ばかりかけてすいません」
いつも迷惑かけてるから今回くらいは自分でなんとかしたかったんだが、残念ながら今回も迷惑をかけることになりそうだ。
「ええよ、ええよ。面倒事なんか他の人もいろいろ持ってくるし、店子さんの面倒見るのも大家の仕事やし。それにこんな可愛い子連れてきてくれるならいつでも大歓迎やし~」
よほどまさぐられるのが嫌だったようで、碓井さんの手からぬけると顔を真っ赤にしながら俺の後ろで臨戦態勢をとりはじめた。
「ヤメロ」
「やぁぁん、そんな怖い顔せんといてぇな。なんも悪い事なんてせんからなぁ~。うへへへへ」
本音漏れてるぞ変態大家さんよ。
それにしても、やけにおとなしいなこの子。いや、十分暴れてはいるんだが、たぶん相手が俺ならすぐにでも切ったり刺したりしそうなもんなんだが、あくまで距離をとって構えてるだけだ。
女性だからなのだろうか。それとも俺の方が碓井さんより危険人物と思われているのか。どちらにしても止めろと言わんばかりに背中にナイフ突き刺してくるのはかんべんしてもらいたい。
すぐに治るとは言っても痛いものは痛いのだ。
「ところで与風ちゃん。その子の名前はなんて言うのん?」
名前か。そういえば名前聞いてなかったな。
「なあ、お前名前はなんて言うんだ?」
すると彼女は名前?と首をかしげてそういった。
「前いたところでなんて呼ばれていたかだよ」
「ライ?」
ライか変わった名前だな。
「アレ、ソレ、クズ、キサマ、コレ。コレガ今マデ呼バレテイタノダ」
っつ、なんだよそれ。そんなのただの代名詞でただの記号じゃないか。
「んー、ほな、何で最初にライって言ったん?一番そう呼ばれとったん?」
「解ラナイ、名前ト言ワレテ出テキタ。呼バレタ事ハ無イ…ト思ウ」
「うんうん、そーかそーか」
何故か納得したように何回もうなずく碓井さん。
「じゃあ今日からライちゃんやな。うちは碓井四万。仲ようしてや~。別の意味でも仲ようしたいんやけどな~。うへへへへ」
「クルナ!」
さらに距離をとって威嚇している。やはり触られるのは嫌なようだ。気持ちはわかるすごくわかる。
俺もここに住むことになったとき身体中を触られまくった。
変にべたべたするのはやめてもらいたい。
変と言えば、さっきの会話のどこにうなずく要素があるのかもわからない。あれで頭はいい人だから何か思うところがあるのかもしれないいが。
「与風ちゃん与風ちゃん」
ライを追いかけまわしていた碓井さんがいつの間にかとなりにいた。あぁ、ライは窓の外の木の上にまでにげたようだ。
「あの子大事にしたげてや。なんかあったらうちらも手伝うしな」
「それは今更追い出すわけにもいかないですしもちろんですけど、碓井さんライについて何か知っているのですか」
「ん、なんでそう思ったん?」
「いや、ライって名前を聞いて変な顔したと思ったら、やけに納得したって感じでうなずいていたので」
「いややわぁ。こんな美人捕まえて変な顔って。んーまあせやな、女の子には秘密がいっぱいってことでかんにんしてや~」
出来ていない両目をつむってるようにしか見えないウインクをしながらそう言われた。女の子って歳ですかとか言いたかったが、言ったら家賃上げられそうなので心の隅にしまっておくことにしよう。
「ほな、これといって問題なさそうやしそろそろ帰るわ~」
「あぁ、朝早くからお騒がせしてすいませんでした」
「ええよええよ、朝から可愛いもん見れたしうちは満足やで~、まぁ、なんか困った事あったら遠慮せんとうちに頼りや」
「はい、これからライの事でいろいろお世話になるかと」
「うちに任しとき、それはもうおはようからおやすみまですべて、身体の隅々まで面倒見たるさかいにな~うへへ、ほなな、ライちゃん、与風ちゃん」
「モウクルナ!」
はぁ、心配して飛んできてくれたのは嬉しいけど、なんかもういろいろ嵐のように来て荒らして帰ってくよな毎回。
「ナマエ」
見ると外の木から部屋に戻ってきたライが話しかけてきた。一瞬意味がわからなかったが思い返せば互いの自己紹介もしてなかったな。
「俺は与風生路だ、よろしくな」
と、てを差し伸べたが意味がわからなかったようで出した手を刺された。頼むからかんべんしてくれ。
刺した本人はと言うと、名前を付けられたのが嬉しいのか、「ラーイ、セージ」なんて呟きながらニコニコしてやがる。
ちょっと可愛いじゃないか。
…だからそういう趣味はない。
ライは俺がバイトに行ってる間は碓井さんたちに面倒を見てもらいながらおとなしくすごしている。最近のお気に入りは借りてきたDVDを見ることのようで、適当なのを借りてきては見させている。
正直この時が一番おとなしくしているから助かる。今回は海難救助を題材にした映画だ。
妹が確かこの手の映画やらドラマをよく見ていた気がする。
正座して見ているところなんかそっくりだ。
今はヒロインを助けだしてそろそろクライマックスってところだろうか。
「飯の時間だぞ、ライ」
炒め終わったものをフライパンから皿に移しながら声をかける。
「ン。コレハ何している?」
と、ライがテレビを指刺しながら聞いてきた。
「それは人工呼吸って言って、んーまあ死にそうになっても生き返らすことができるってとこかな」
「生キ返ル?セージはイツモ人工呼吸シテルカ?」
「俺は人工呼吸してるからすぐ傷が治ったりしてるわけじゃねえよ」
そもそも一人でどうやって人工呼吸するんだよ。
「そんなことより飯だ飯」
「肉カ!」
目をキラキラさせて聞いてくる。
「違うから、お前が来てから食費がヤバイから、今日ももやし炒めだから」
「…肉」
「文句言うなら食うな」
「イタダキマス」
本当に食べてる時とテレビ見てる時はおとなしいんだがな。
それ以外はどうも、本人はじゃれているつもりかもしれないが毎度刺されそうになるのは困る。いつまでたっても人を刺すな切るなについては変わらない、毎度やられる。
それでもこの日までは平和に過ごせていたんだと思う。この日までは。