表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/29

幕間

「適当に座ってくれていたらいいから」

 俺は心愛と全代にそう言って二人を俺の部屋に入れた。

 机とベットと本棚以外たいして物が置いてない部屋だからたいして広くはないが三、四人なら困らずにくつろげる。

 帰り道、近くのお肉屋で揚げたてのコロッケを買った俺達は、そのままの足取りで俺の家へと移動する事にした。

 二人を家に連れてくるのは久しぶりだった。

 食器棚から三人ぶんのコップを出す小さい頃みんなでお揃いにしようと、おこずかいを出し合って買ったクローバーの模様が描かれている。俺は冷蔵庫に入っていたお茶をそのコップになみなみと注いだ。

「はい、お待たせしましたよっと」

 足でドアを開けながら部屋に入る。

「わーいお茶だー」

 もうすでに一つ目コロッケを食べ終えて、二つ目に手を出していた心愛がお茶を受け取ると一気に飲み干した。

「本当にいい食べっぷりに飲みっぷりだね心愛」

 ようやく半分ぐらい食べ終えた全代が関心したように言う。

「えへへへ、そうかなぁ」

「だからすぐに太るんだな」

「もう!!私そんなに太ってないもん!!」

 いつものように冗談を言う俺に、ぷりぷりを頬膨らませながら肩をパンパンと叩いてくる。もちろん手加減をして。

「そんな事言う人にはコロッケあげませーん」

 心愛がみんなの分がまとめて入っているコロッケの袋を自分の後ろに隠した。

「あ、お前、それはずるいぞ。コロッケ食べられないのに、部屋の中がずっとコロッケ臭をしてるとかそれなんて地獄だよ」

 あははははは、と心愛と全代が笑う。俺もつられて笑った。




「思ってたより、長いしちゃったね。それじゃあ、また明日」

 もうすっかり日が落ちて、綺麗な星空が輝いていた。

 全代が手を振りながら走って。俺の家を後にする。

「それじゃあ私も」

 心愛もならってまた明日。と家へ向かう。

 心愛の家は俺の家からでも見える程に近い。ななめ向かいにある。心愛が家に入るのを見送った時には全代の背中はすでに小さくなっていた。

 家に入ろうと振り向いた時、玄関の前に()がいた。

「こんばんは」

「ひ、久しぶりです」

 突然の登場に少し驚いたが、いつもの事なので、それほど気にはならなかった。

「そうですね、確かに久しぶりです。……最近、面倒くさい弟子たちがようやく使い物になって来たので、あなたの所へ来る余裕が出来ました」

「そうなんですか。それで最近はあまり来られなかったんですね」

「そんな所です。……こうして話すのも久しぶりですが、どうですか。考えは変わりませんか」

 彼は何度も俺に聞いてきた質問をまた聞く。

「変わりません。俺は真相を知りたいんです。……いや、わかってるつもりなんです。それでも、俺はちゃんと本人の口から聞きたい、です」

「それがどんな理由でも、ですか」

 彼が生気のない瞳で俺の目を見てくる。

 俺はこの目が怖かった。初めて彼にあった時もそうだった。今ですら怖いと感じるのだ。今より幼い時に感じた怖さは今の比べものにならない。

 当時、彼と初めて会った時から忘れない。彼の俺を見てくる目を。すべてを知っているような、俺のすべてを見透かしているようなその目が。

 それでも答えは変わらない。

「どんな理由でも……です」

「そうですか。まあ、かまいませんが、何回でも言いますよ。真相を暴いたところで誰もハッピーになんてなりませんよ。確実に今のままの方がみんな幸せです」

「そんな作られた幸せなんていらないです。……俺はちゃんと彼女の事が知りたい。彼女がどういう気持ちで最後を迎えたのか……そして死にゆく彼女を見ながら犯人はどう思っていたのか……」

「あぁ、そうかもしれませんね。そうかもしれません。そうですね、そういう取り方もありますか。……本当に何回言っても無駄の様ですね。わかりました。ここまで気持ちが変わらないというのならいいでしょう。あなたの言う準備が出来たらすべて話してあげます」

 彼は話すと言った。

 そしてもう一つ。

「それと、これも何度も言っていますが、いつまでも待てるという事はありません。まあ、その日がいつになるかは、こちらとしてもわからないので、今日この後かもしれませんし、まだこれから先十年、二十年と大丈夫かもしれません。が、あなたがこの事件に触れているという事は、それだけどうしようもない事態になる可能性が高いという事をお忘れなく」

 彼はそれだけ言うと俺の横を通りぬけて去って行った。

 俺はその場で腰が抜けたようにへたり込んだ。

「ああ、もう、本当にあの人怖いや」

 俺はぽつりと呟いた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ