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少年とお姉さん 2

あの日からぼくはお姉さんの家に毎日行くようになった。

 先生には、

「まっすぐ家に帰って、外で遊ばない事」

って言われているけれど、お姉さんの家の中にいるからギリギリセーフだと思う。

家に一度帰ってランドセルなんかの荷物を置いてから、晩御飯のおかずが入っているタッパーなんかの荷物を持って、お姉さんの家に行って、一緒にご飯を食べて、そうしてぼくの家まで送ってもらうのが今では当たり前の事になっていた。


そんな生活が続いて一週間ぐらいがたったある日の事だった。

お姉さんが家にいない事があった。ぼくは合鍵を貰っていたからそれを使って中に入って待つ事にした。

一軒家の自分の家に比べるとあまり大きい家ではないけれど、それでもお姉さんがいないこの家はとても寂しかった。

お姉さんを待っている間宿題をする事にした。宿題を始める前に、ぼくがこの家に来るようになってから買い置きをしてくれるようになったリンゴジュースを冷蔵庫から取り出した。

今まで何回かこの冷蔵庫をあけているけれど、中に入っている食材の量が少し多い気がする。

ぼくはお父さんとお母さんと一緒に食べるのは朝ごはんぐらいだから、お昼ご飯や、晩御飯をどれぐらい食べるのかはわからない。けれどそれにしても一人で食べるには多い気がする。

お姉さんはこの一週間でもう既に何回か大量の食材を持って帰って来ることがあった。

これはもしかしたら他にも誰かがこの家に来ているのかもしれないなと思った。

お姉さんは大人だからもしかしたら付き合っている人がいて、その人がぼくが帰った後にご飯を食べに来ているのかもしれない。

ぼくはお姉さんと一緒にご飯を食べるのが嬉しかったし楽しかったけど、もし本当に付き合っている人がいるのならその人だってお姉さんと一緒にご飯を食べたいはずだ。

それならぼくは邪魔なんじゃないかと思ってお姉さんに聞いた事があった。

するとお姉さんは大きな声で笑い出した。

「あははははは。私に彼氏がいるって。それで、もしそうなら自分は邪魔だからもうここには来ないっていうの」

「だって、ぼくがその人の立場だったらお姉さんと一緒にご飯を食べたいって思うから……」

お姉さんはぼくの頭を優しく撫でながら、

「安心しなさい。私に彼氏なんかいないわ。私にいるのは小さな勇者さん。あなただけよ。ここに来ないなんて言われたら私が寂しいわ」

どうやらぼくの考えすぎだったみたいだった。

 食材の量に関しては、

「私はよく食べるのよ」

の一言ですまされた。


そうして今日もお姉さんと一緒に晩御飯を食べる。

ぼくは家から持ってきたおかずを暖めた物と、この家に来るようになってから早く炊ける様にセットしてある、炊きたてのご飯をタッパーに詰めたものと、お姉さんの作ったやっぱり一人分には多すぎるおかずを少しつまみながら学校の話や、ついているテレビを見ていた。

「さて、続いてのニュースです。三週間ほど前に××市で起きた事件ですが、また新たな被害者が出た模様です。遺体の状態が前回と同じなため、警察は同一犯の犯行と見て調査を進めています。バラバラの遺体に、まるでそれを食べたかのような歯形とみられる痕がついている事から警察は人外が何らかの形でこの事件に関わっているものとし、ついに陰陽師の助けを借り……」

まだニュースの途中だったけれどお姉さんがテレビを消した。

「ね、勇者さん。明日からはこの家に来ない方がいいわ」

お姉さんはおかずに手をつけながら、なんでもない事のように言った。

「どうしてですか。ぼくはここに来ると邪魔になるんですか」

ここに来ないなんて事はもう考えられなかった。

けれど、そんなわがままを言えるはずがなかった。

「……私ね、彼氏が出来たの。そんな時にあなたみたいな子がいたら困るじゃない。前にあなたもそう言っていたでしょう。正直言って邪魔なのよ」

ショックだった。もちろん彼氏が出来たと言うのなら、前にぼく自身思ったように、ぼくが邪魔なのはわかる。けれどこんな面と向かって「邪魔」だと言われるのはショックだったし、悲しかった。

「それに、彼はあなたと違って強いから、私を守ってくれるのよ。だからもうあなたには会いたくもないわ。だからもうこれっきりにしてちょうだい」

その日のご飯は温かい料理のはずなのに冷たかった。

いつもなら洗い物も一緒にするけれど今日はそれもしないでご飯を食べ終わるとすぐに帰るように言われた。

お姉さんの家からぼくの家に行くまでもずっと無言で、お姉さんと一緒にいるのにまるで一人でいるみたいだった。

ぼくの家の前に着くとお姉さんは、

「それじゃあね」

と一言だけ言うとそのまま振り返って帰っていってしまった。

別れの挨拶をしたお姉さんの顔はどこか悲しげだった。

けれどその時は自分の悲しいという気持ちがいっぱいでそんな事を気にする余裕がなかった。


次の日からはお姉さんの家にはいかなかった。

お姉さんの幸せを邪魔するわけにもいかなかったし、それにここ最近お母さん達が帰ってくるのが早くなったから行こうにも行けなかったからだ。

殺人の犯人が捕まらないままもうすぐで一ヶ月が経とうとしていた。

学校からの行き帰りにお巡りさんを見ることが多くなった。どうやら犯人はこの近くに潜伏しているのかもしれない、という事だった。


それからさらに何日かが経ったある日。

お姉さんの事を考えていたら、本来の通学路とは外れているお姉さんのアパートの方へ向かう道を歩いていた。

今さらもとの道に戻るのも面倒だったのでそのまま進むと人だかりが出来ていた。

お巡りさんが沢山いるようで回りにいる人に、

「離れてください」

なんて言っていた。

なんの人だかりなのか近くにいた人に聞くとなんでも事件の犯人と思われる人が潜伏しているアパートがあるそうだ。

それは怖いなと思ったけれど、それよりも怖い事を考えてしまった。

ぼくは沢山の人の間を無理やり通って黄色いテープが貼ってある一番前まで来た。

やっぱりお姉さんの住んでいるアパートだった。

テープを越えるにもお巡りさんが沢山いてそんな所をくぐるわけにもいかなかった。

ぼくは走って家まで帰った。そしてランドセルを置いて身軽な状態になって、家を出てすぐに走った。

お姉さんの住んでいるアパートの裏に子供なら通れるぐらいの家と家の間の隙間があったのだ。

 その通路を通ろうと思い走って来たけれど、そこにも巡回をしているのか、お巡りさんがいた。けれどそこには一人しかいなかった。

ぼくはお巡りさんに嘘をついた。

「そこの曲がった所で喧嘩をしている人がいる」と言った。

お巡りさんがあわてて行ったのを確認してからすぐにその通路を通った。

通った先にはちょうどお姉さんの部屋の窓がある。ぼくはその窓を一生懸命ドンドンと叩いた。

閉じたカーテンが少し開いたと思ったらそこには疲れた顔をした お姉さんがいた。

お姉さんは素早く窓を開けると、なにも言わずにぼくを中に入れてくれた。そしてすぐに窓とカーテンを閉めると、今まで見たことのある、あの綺麗でかっこいいお姉さんの姿はなく、部屋の隅で座って震えている姿があった。

ガタガタ震える声で、

「なんで私が……なにもしてないのに……なんで……」

と言う声だけが聞こえた。

ぼくはお姉さんがどうしてそんななっているのかわからなかった。

ぼくは震えるお姉さんの横を通りすぎ冷蔵庫を開けた。そこには、二人で毎日飲んでいたリンゴジュースがまだあった。

ぼくは二つそれを取ってお姉さんに一つ渡した。ちゃんと受け取ってもらえなかったからリンゴジュースは床に落ちてしまった。

「なんで……なんで来たの…………来るなって言ったのに……」

 今にも泣いてしまいそうな声でぼくにそう言った。

「だってお姉さんぼくに嘘をついたでしょ。彼氏なんていないのに。ぼくね、この何日かこのアパート前通ってるんだ。お姉さんがいつもみたいにおっきな荷物を持って帰るのも見たんだ。けど、一度だって男の人と歩いてるの見ないんだもん。あ、これ嘘ついてるんだなって思ったよ」

「そん……なの、たまたまかもしれない……じゃない……」

「そうかもしれなかったけど、実際嘘なんでしょ」

「…………そう……ね」

お姉さんは落ちていたジュースを拾うとストローをさして一気に飲んだ。

「それで、何しに来たの」

少し元気になったように見えたけれど、今にも壊れてしまいそうなほど弱々しかった。

「お姉さんを助けに来たんだよ。ぼく、お姉さんを守るための勇者だからね」

 お姉さんが今日、初めて笑った気がした。

「ありがとう。けどもういいの。そう言ってもらえただけで私は満足よ」

「そんなんじゃだめだよ‼」

自分でもびっくりするぐらい大きな声が出た。けれど言いたい事が止まらなかった。

「ぼくはお姉さんと過ごした日がとても楽しかった。今まで家ではずっと一人ぼっちだった。お母さんもお父さんもお仕事頑張ってるから仕方がないって思っていたけれど、それでも本当は寂しかった。その寂しい気持ちを無くしてくれたのはお姉さんなんだよ」

お姉さんは黙って聞いていてくれた。

「ぼくがこの家に来て、ただいまって言ったら『お帰り』って言ってくれて。なんでもない学校の出来事だって笑顔で聞いてくれて……」

気がつくとぼくもお姉さんも泣いていた。けれどまだ言いたい事は止まらなかった。

「ぼくは本当にお姉さんに助けられてたんだよ。初めて会ったあの日だって、それからの毎日だって。……だからね。今度はぼくがお姉さんを助ける番なんだ。お姉さんが何をしたのかはわかんないけど、勇者はお姫様を絶対助けるんだよ‼」

 お姉さんは涙を流しながら、

「ありがとう、ありがとう……」

ってずっと言っていた。

 そうしてぼくを優しく抱きしめながら頭を撫でてくれた。

「ありがとう。私の小さな勇者さん。……いえ、もう小さいなんて言えないわね。私に勇気をくれて、ありがとう勇者さん。けれどもう大丈夫よ。もうどうしようもないの。あなたはもと来た道で帰りなさい」

「だからそれじゃあだめなんだよ‼」

そう言おうとしたのに言えなかった。

 ぼくの目線の先に紙で出来たペラペラの人形の様なものが二本足で歩いているのを見つけてしまったから。

「確かに彼女の言うとおり、あなたには何も出来ないから帰ったいいと思いますよ」

紙が喋った。

 ぼくもお姉さんもびっくりして抱きしめあった状態から動けなかった。

するとその人形の様なものが煙を出したかと思うと、ぼくとそこまで変わらないぐらいの男の子になった。

「あー、疲れた」

その人は肩をぐるぐる回しながら言った。

「じゃ、少年、君はすぐにお家に帰りなさい。」

「しょ、少年って言われてもあなたもぼくとそんなに変わらないじゃないですか‼」

いきなり紙が人に変わったことに驚いたけど、急に出てきた人に帰りなさいなんて言われたくなかった。

「あー、これだから子供は嫌いなんだよ。……ま、いいか、そんなに時間もないし。で、あなたはどうしたいですか」

 その人はお姉さんを指差した。

「あ、あなたは誰なんですか」

ぼくをギュッと抱きしめながらお姉さんはその人に質問をした。

「そうですね。あなたにとっては天使かもしれませんし悪魔かもしれませんね」

 全然質問の答えになっていなかった。そんなぼくの心を読んだかのようにちゃんと自己紹介を始めた。

「僕は陰陽師の安倍晴明(あべのはるあきら)です。まぁ、オリジナルではなくてその子孫の様なものではありますけど」

そういえばこの前テレビのニュースで事件の犯人探しに陰陽師がどうとかって言っていた気がする。

ぼくはお姉さんから離れると、近くにあった掃除に使うコロコロを持って安倍晴明とか言う人に向けた。

「お、お姉さんは渡さない‼ぼくが守るんだ」

 その陰陽師と言った人はぼくがしたことに全く興味を持たず、まるでいないものかのようにまた、お姉さんに質問をした。

「この場から逃げたいですか。それともこのままおとなしく捕まりますか。まぁ捕まった後は想像の通りだとは思いますが。今僕の下僕が警察相手に時間を稼いでますけど、あまり時間はないんですよね。僕、警察から嫌われてるみたいなんで。信用されてないんでしょうね」

お姉さんはぼくの横を通って、

「……助かりたいです。……捕まりたくない」

と言った。

「わかりました、助けてあげましょう。ただし条件が一つ……」

 陰陽師はお姉さんの耳もとで何かを言った。お姉さんは驚いた後悲しそうな顔をした。

そしてぼくをまた抱きしめた。

「本当にありがとう。私もあなたと過ごした日はとっても、とっても楽しかった。本当よ。けど、あなたには本当の家族がいるでしょ。お母さんとお父さん。私はあくまで他人なんだから」

 お姉さんの台詞がまるで最後のお別れのように感じたが何も言えなかった。

「けれど、もし、私の事を本当の家族の様に思ってくれているのなら、お姉さんと一つ約束をして?これから先も嫌な事や辛いことがあるかもしれないけれど、諦めないで。力は弱いかもしれないし、背が低いことを馬鹿にされるかもしれない。けれどあなたにはとても大きな勇気があるわ。あなたなら何だってできる。だから、いつでも笑っていて。私はあなたの笑顔が好きだから……」

そんなことを言われたら余計に泣いちゃうよ、お姉さん。

「私とはここでお別れよ。大丈夫私はちゃんと助かるし、あなたが笑顔でいる限り私は元気だから。笑顔でいるから。だからほら、もう行きなさい。ここにはあなたはいちゃいけないわ」

 ずっとお姉さんと一緒にいたかったけれど、出来なかった。

ぼくは言われるままに窓から出てもと来た道に戻ってきた。

ぼくはさっき嘘をついたお巡りさんに声をかけられたけれど、それも無視して走った。

走って走って走って走って走って走って走って走って。家に帰ってきた。

「あら、お帰り。もっと早く帰って来るのかと思ったわ」

家の奥からお母さんが来た。

「あら、どうしたの!何かあったの。そんな泣きそうな顔をして」

ぼくはこぼれそうだった涙を拭うと、

「なんでもないよ。ただいま‼」

と言った。



 あのアパートでの事があってから何日かが経った。

テレビのニュースでは犯人が捕まった。と大きく報じられていた。

ぼくはお姉さんがいなくなった後もあのアパートの前を通って帰るのが日課のようになっていた。

 今日もそのアパートの前を通ると男の人が立っていた。

その人はお父さんが毎朝着てるよりも、きっちりかっちりしたスーツを着ていた。

「あ、ようやく見つけた」

辺りを見回してみたけれどぼくしかいなかった。

「あぁ、君を探してたんです。陰陽師の使いって言ったら意味がわかるかな」

陰陽師と言われてピンときた。

「安倍のなんとかって人が言ってた下僕って人ですか」

下僕の意味はよくわからないけどそんなことを言っていた気がする。

「へー、あいつ俺のこと下僕って言ってたの」

男の人はすごく怖い顔をしたけど、ぼくが怯えてるのに気がつくと、すぐに笑顔に戻った。

「あぁ、ごめんごめん。君に怒ったわけじゃないんですよ。兎に角俺は報告に来たんです。気になるでしょう。あの後彼女がどうなったのか」

 ぼくが一番気になっていた事だった。

テレビでは犯人が捕まったとは言っていたけれど、あの日すぐにニュースになることはなかったし、今日の朝初めて報道されたニュースで映っていた犯人は男の人だったから。

「まず、始めに。あなたは彼女とはおそらく二度とあえません。それが晴明との約束なので。そして、二つ目。彼女はもちろん生きていますし、元気にしています」

「ほんとなんですか!!元気なんですね。よかったぁ」

 ぼくはお姉さんが元気だという事に安心をした。そうして、今朝から気になっていた事を聞いてみた。

「そんな事はないって思ってたんですけど、お姉さんが事件の犯人ではなかったんですよね」

 すると男の人は悲しそうな顔をした。

「彼女はあの事件の犯人なんかじゃありませんよ。あれは警察のミスです。何かわからない事件が起きるとすべて妖怪の仕業にするのがあいつらのやり方なんです。そしてきつい尋問をして犯行を無理やり認めさせる。今まで何回そういう事件があったことか……」

お兄さんは力いっぱい右手を握りしめていた。

「失礼、話がそれました。君は彼女が妖怪だったって知っていましたか」

 お兄さんの言った事にぼくは驚いた。まさかお姉さんが妖怪だなんて思っていなかったから。

「彼女二口女になってしまったんです。二口女というのは、何か道に外れた行いをした人に二つ目の口が出来て、そのもう一つの口からは懺悔の言葉を言い続けるなんて妖怪なんですけれど、彼女の場合、別段彼女が悪い事をしたと言うわけではないんです」

「じゃあなんでお姉さんは……」

「彼女の両親があまりいい人ではなかったんです。詳細は伏せますが、そこでお姉さんを守るために弟さんが両親を殺し、その罪に耐えきれないで弟さんは自殺。そして、それを止められなかった自分が悪いと思うようになったんでしょう。それで……」

 お姉さんが二口女っていう妖怪になのはわかった。けどだからといってお姉さんが犯人扱いされた理由がわからなかった。お兄さんにその質問をぶつけてみた。

「警察からしたら二口女=後ろめたいことがある=犯人。みたいなイメージがあるんですかね。捜査を進めてやけに大食らいの女性を突き止めたってところみたいですね。二口女ってのはどうやら普通の人より良く食べる様になるそうでね」

だからお姉さんは毎日のように大量の食材を買っていたんだ。

「それで二口女だろうと目星を付けて、あの日の数日前からいろいろ付け回していたみたいです。彼女、君と仲良くなってからはどんどん元気になっていたようだったのに、こんな結果になってしまって本当に申し訳ない」

 スーツを来た大人の人がランドセルを背負った少年相手に体を折り曲げて頭をさげていた。

「や、やめてください。お兄さんが悪いわけじゃないんですよね」

「いや。俺の、俺たちの力が弱いからこんな結果になってしまったんだ。本当にすまない」

 一度上げた頭をまたしっかりと下げられてしまった。

「お姉さんは元気なんですよね」

ぼくの質問にお兄さんは顔を上げた。

「あぁ、ここから遠い場所にはいるけれど、さっきも言ったように元気にしているよ」

「だったらもう大丈夫です。ぼくはお姉さんと約束しましたから」

「約束ですか」

「はい。ぼくが笑顔でいるならお姉さんも笑顔でいるって。だから悲しいことなんて……ない……で……す……」

 あれ、おかしいな。お姉さんが無事で、元気だって聞いて、嬉しい事なのに、涙が止まらないや。

するとお兄さんがハンカチを渡してくれた。

「あいつはそれもダメだって言うんでしょうけど、俺は彼女のお願いを一つきくことにしたんです」

 借りたハンカチで涙を拭くけれど、拭いても拭いても止まらなかった。

「お姉さんのお願いというのはあなたの写真が欲しいとの事でした。ですので一枚撮らせてください」

 ぼくは涙が止まらないまま、それでも笑顔で、お姉さんが元気でいてくれることを願った。

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