幕間
「どうだ、今回の話はハッピーエンドっぽいだろ!」
と意気揚々に宣言するも彼女に軽くあしらわれる。
「おいおい、お前がこの前すっきりしない話だとか文句言って来たからよさそうな話を探してきたって言うのになんだその態度は」
「いや別に無視とかしてるわけじゃないんですよ。ただこのお饅頭が美味しいから会長の話が耳に入って来てないだけで」
「それが態度悪いって言ってるんだよ」
「ほら、会長も食べてみてくださいよ」
と無理やり饅頭を口に突っ込まれる会長。
「あ、うまい」
ギャーギャーと今日も二人がうるさい。と言うか無理やり食わされてるけどそれでいいのか会長。
言い争っているのは幼馴染が一人小此鬼心愛と、この部活の部長であり学校の生徒会長でもある…あれ、そういえば名前を思い出せない。なんて言ったっけ。
まあ取り合えず会長だ。
そして、そんな二人を「まあまあ」と仲裁に入るのがもう一人の幼馴染の鳴海全代だ。
今部屋にいるのは俺を入れてこの4人。
北校舎三階の角部屋の隣が今いる部室。
部室と言ってもたいしたものはなく、あるのは今から会議でも始まるのかと勘違いしてしまいそうな並びになっている机と安っぽいパイプ椅子。
生徒会長がお誕生席に座っているから余計に勘違いしそうになる。
それから荷物置きのロッカーと本棚が二つ。
これだけだと何の部活か全くわからないかと思う、が俺自身実際なんの活動をしているのかと言われるとわりと困る。
一応部活の名前としては文芸部。活動としては会長の生徒会としての仕事をさせられたりだとか、部員と駄弁ったり、宿題したり、誰かが持ってきたお菓子を分けたりだとか。
これだけを見ると、おおよそ部活動としては機能していないと言える。みんな自由だ。
その中で唯一と言っていい、この部活の活動が今のような物語の発表だ。
発表とは言っても基本的には読み聞かせ。
読み聞かせと言うと小さい子供に紙芝居なんてものを想像するかもしれないが別段そういうわけではなく、いわゆる小説を読む。
ただ普通の小説ではなく、この部室の隣。つまり角部屋が本の倉庫になっている。
そこから気にいった本を持ってきて部員に発表する、というものだ。もちろん本を探さずに自分で考えた話でも問題はない。
ただそうそう自分で話まで考えて話す人は少ないらしいから、自然と隣の部屋から本を探すことになる。
そんなことをしていて本が無くならないかと言われるとそういう事はない。
何でもこの部活学校が創立したころからあるとかで、今までの先輩方の考えた話をまとめた本や、この校舎の二階角部屋-つまり本の倉庫の下の階-の図書室のあまり人気のない本等も移動してある分それはもう膨大な数の本がある。
だから読む本がないという事にはならないので問題はない。
問題があるとすると発表者を決めるのが会長だという事だ。
大半は会長自身が語るのだが、たまに指名をくらうから困る。正直面倒くさい。
なら何故この部活に入ったか疑問に思うかもしれない。
その答えは簡単だ。
俺は『彼女のために物語を作らないといけない』それだけだ。
そのためには知識がいる。想像力がいる。人を納得させられるだけの言い方が、言い回しがいる。想像し、創造できるほどの。
その点この本の倉庫にはたくさんの物語があり、妖怪についての、人間についての資料がたくさんある。
それに会長が探し出す物語はとても引き込まれる。
まるで物語ではないような。フィクションではなくノンフィクションのような。
まあ、今のこの妖怪と人間が共存するこの世界こそがまるでフィクションのようではあるけれど。
俺が話す物語は1つ。相手も決まっている。だから会長の話を聞くのは好きだが、他の話を話そうとは思えない。
「おーい聞いてっか百目鬼心音よー」
と一人考えにふけっていると、会長が俺の名を呼ぶ声がした。
「ったくよ、お前らは先輩の話聞かねぇ奴ばっかりだな。…まあいい。えーとどこまで話したっけか」
「このお饅頭のお店、実はみたらし団子も美味しいから会長がおごってくれるってとこまでです」
「あぁそうだったか。実際饅頭美味かったからな。そりゃあみたらし団子も美味しいだろうよ、って俺おごるとか一言も言ってないからな!」
「ちぇー、流れでいけるかと思ったのになー」
「いけねえから!ったくお前らはほんとに」
なんかおとなしく聞いてた全代や俺まで呆れられた。
「とりあえず、明日から新入生が部活見学にやって来る。俺は生徒会の仕事でここからしばらく部活に来れなくなるかもしれないが、勧誘をしっかりたのむからな」
「はーい」
「わかりました」
とそれぞれが返事を返す。
正直勧誘なんて面倒くさいが俺も「了解です」と返事をした。
「他の部員にも来るように見つけたら声掛けといてくれ。3年の方は俺が声掛けとくから。じゃあ今日は解散!」
部室から出て、そのまま下校。
高校に入ってからお馴染みの3人での下校。いつもの帰り道をいつものように意味のない会話に花咲かせながら。
「はーお腹すいた。」
「さっきあれだけお饅頭食べてたのに。食べ過ぎはよくないよ心愛」
「甘いものは別腹だもん」
「とか言って、また太ったとか言うんでしょ。ね、心音」
「ん、ああそうだな。心愛はもうちょっと学習した方がいい」
「もー二人とも余計なお世話だよ!」
ぷんすかと、頬を膨らませながらにらんでくる。
俺と全代とで心愛をからかって怒らせて、そして三人で笑いあう。
いつもと変わらない日々。
いつもと変わらない日々になってまた、今日も平和な一日が終わろうとしている。
このまま平和なままこの物語が終わってくれたら一番いい。
だがまだまだ物語は終わらない。
1ページまた1ページと物語は進んでいく。