玖
定春の言葉が的確過ぎてびびった。
そして同時に、腑に落ちる。
そうか……彼女のせい、なのか。
もしまた会えたとして、もしまた何かを求めていたなら、それに応えられるように。
無意識に自然と、色々考えるようになってしまった。
………恋って怖えぇ。
んでもって、定春すげえ。
「おい、幸弥!俺がお前に相応しいかどうか、見極めてやるからな!ちゃんと紹介しろよ!」
「お前は俺の母さんか。どうせ何かしら理由つけて、こいつなんかより俺にしとけよ、みたいなこと言うつもりだろ」
頭頂部を押さえながら優一が言ってくるのを、一刀両断する。
「うぐっ。そ、そんなこと…ないとは言い切れねえけど!」
「正直か」
定春がひとこと突っ込むと、歩き出す。
俺と優一はそれに促されて足を動かし始めた。
「とりあえず、幸弥は何か進展があったら報告しろよ」
「お、おう」
やっぱりお前も興味あるんだな、定春。
進展なんて、あるんだろうか。
限りなく、確率の低い出逢いだったように思う。
恋だと自覚したところで、また会える保証なんかないのにな。
「で、優一の行きたがってた店はまだなのか」
「んー、ここらで合ってるはずなんだけどなー」
「詳しい場所も分からないのか」
「いや、この辺なんだって!近くにあるはずだから!」
「はぁ…。お前なあ」
言い合いながら歩く2人の後ろをとぼとぼ付いていく俺の視界に、ふと白い花が飛び込んできた。
大通りから外れた横道に、ひっそりと立っている煉瓦造りの建物。
植物のレリーフが施された木製ドアに、小さなステンドグラスで飾り付けられている花。
それは――
「百合?」
「おーーー!幸弥よくやった!!そこだよ俺が探してた店!!!」
少し離れた場所から優一が叫んで来る。
立ち止まった俺を置いて、定春と先に進んでいたらしい。
後ろから定春もついて来る。
街灯の少なくなった通りは薄暗く、周りには隠れ家的な洒落たカフェや、洋食屋がひっそりと佇んでいる。
その窓から漏れる光は抑えられていて、大通りとは打って変わった雰囲気を醸し出していた。
明るい時間帯に来ていれば、もう少し賑わっていただろう。
「おい、優一」
「どう見ても閉まってるな、店」
定春と俺が交互に言うが、優一にも十分理解できているらしく、ドアの前でしゃがみ込んでいる。
まあ、当然といえば当然だろう。
なんせ現在時刻は午後8時半を回ってんだから。
早い店はもう閉店している時間帯だ。
「なぜだああああぁぁぁ…!!」
落ち込む優一の横で、閉店後もショウウィンドウの中を照らす仄かな照明が点いている。
何気なくそちらに足を向けると、俺の目に飛び込んできたのは……淡い、水色だった。
「え」
それは紛れもなく、あの日、彼女が着ていたワンピースと同じ色。
暗めの優しい照明でうっすらオレンジ色に照らされていたが、見間違うはずがない。
俺の目に、脳裏に焼き付いた、彼女の…色。