表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雨ノ幻  作者: 美橘
9/11


定春の言葉が的確過ぎてびびった。

そして同時に、腑に落ちる。

そうか……彼女のせい、なのか。

もしまた会えたとして、もしまた何かを求めていたなら、それに応えられるように。

無意識に自然と、色々考えるようになってしまった。


………恋って怖えぇ。

んでもって、定春すげえ。


「おい、幸弥!俺がお前に相応しいかどうか、見極めてやるからな!ちゃんと紹介しろよ!」


「お前は俺の母さんか。どうせ何かしら理由つけて、こいつなんかより俺にしとけよ、みたいなこと言うつもりだろ」


頭頂部を押さえながら優一が言ってくるのを、一刀両断する。


「うぐっ。そ、そんなこと…ないとは言い切れねえけど!」


「正直か」


定春がひとこと突っ込むと、歩き出す。

俺と優一はそれに促されて足を動かし始めた。


「とりあえず、幸弥は何か進展があったら報告しろよ」


「お、おう」


やっぱりお前も興味あるんだな、定春。

進展なんて、あるんだろうか。

限りなく、確率の低い出逢いだったように思う。

恋だと自覚したところで、また会える保証なんかないのにな。


「で、優一の行きたがってた店はまだなのか」


「んー、ここらで合ってるはずなんだけどなー」


「詳しい場所も分からないのか」


「いや、この辺なんだって!近くにあるはずだから!」


「はぁ…。お前なあ」


言い合いながら歩く2人の後ろをとぼとぼ付いていく俺の視界に、ふと白い花が飛び込んできた。

大通りから外れた横道に、ひっそりと立っている煉瓦造りの建物。

植物のレリーフが施された木製ドアに、小さなステンドグラスで飾り付けられている花。

それは――


「百合?」


「おーーー!幸弥よくやった!!そこだよ俺が探してた店!!!」


少し離れた場所から優一が叫んで来る。

立ち止まった俺を置いて、定春と先に進んでいたらしい。

後ろから定春もついて来る。


街灯の少なくなった通りは薄暗く、周りには隠れ家的な洒落たカフェや、洋食屋がひっそりと佇んでいる。

その窓から漏れる光は抑えられていて、大通りとは打って変わった雰囲気を醸し出していた。

明るい時間帯に来ていれば、もう少し賑わっていただろう。


「おい、優一」


「どう見ても閉まってるな、店」


定春と俺が交互に言うが、優一にも十分理解できているらしく、ドアの前でしゃがみ込んでいる。

まあ、当然といえば当然だろう。

なんせ現在時刻は午後8時半を回ってんだから。

早い店はもう閉店している時間帯だ。


「なぜだああああぁぁぁ…!!」


落ち込む優一の横で、閉店後もショウウィンドウの中を照らす仄かな照明が点いている。

何気なくそちらに足を向けると、俺の目に飛び込んできたのは……淡い、水色だった。


「え」


それは紛れもなく、あの日、彼女が着ていたワンピースと同じ色。

暗めの優しい照明でうっすらオレンジ色に照らされていたが、見間違うはずがない。

俺の目に、脳裏に焼き付いた、彼女の…色。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ