捌
「お前なあ、さっきまで腹おかしかったくせに、食い過ぎだろ!」
「だってよー!めっちゃ美味かったんだよ、マジで!!ありがとな定春!!」
「人の奢りだと思って好きなだけ食いやがって…」
優一の腹痛は定春のせいじゃなかった訳だが、全く関係ないとも思わなかったらしく、美味いたこ焼き屋を紹介してくれた上、奢ってくれたのだ。
それをいいことに、優一は食べられそうな数を頼んだ後、まだイケる!と、他の種類も追加注文した。
結局食べきれずに、俺と定春が消化するのを手伝う羽目になったのだ。
「いやー、お陰で腹いっぱいだわ!満足満足!」
「食いきれない程頼むな。俺達にまで皺寄せが来るだろ」
「えー、でも定春も他の種類食べてみたかっただろ?食ったことないって言ってたもんな」
「………」
怒りを露にしている定春に対し、優一は悪びれもせずに言ってのける。
だがそこにある思いやりを感じてしまい、定春は押し黙ってしまった。
何だかんだ仲良いんだよな。
そんな会話をしながら歩く街は、もう闇に包まれている。
大通りは街灯と店の明かりで照らされていて、眩しい。
車が忙しなく通り過ぎる道路の端で、大きなショウウィンドウがいくつも並んでいる。
窓の中には派手な色のジャケットやら、秋に合わせた栗色やエンジ色の洋服をマネキンが着こなしている。
駅前通りはいつでも賑やかで明るい。
だが、眩しい程の照明は、夜の闇を人間が恐れているようにも感じる。
見えないのは恐いから、太陽の光を真似るように明るく照らして、安心感を得たいような。
……いつからこんなこと考えるようになったんだ、俺。
街の照明なんて、気にしたことなかったはずなのに。
「幸弥、どした?なんか美味そうなものでも見つけたか?」
「とりあえず、お前の思考は食べ物から離れろ。幸弥はあれだろ」
「あれってなんだ?」
「恋煩い」
「「恋煩い!?」」
立ち止まってぼーっとしてた俺に話しかけてきた優一。
その問いに定春が代わりに答えてくれたのは良かった。
だがその答えが予想外で、俺まで優一と一緒に叫んでしまった。
「何故お前まで驚いてるんだ、幸弥」
「え。いやだって俺、恋なんてしてねえよ」
「「は!?」」
今度は優一と定春が驚いている。
「いやいやいやいや!!!俺達学校で話してたよな!?幸弥にも春が来たって、話してただろ!?」
「あー…、なんか騒いでる声にしか聞こえなかったな」
定春の問いには何気なく答えていたが、質問の真意を解っていなかった。
大分ぼんやりしてたみたいだ。
「俺の声は騒音でしかないのかよ!!!」
優一が頭を抱えて叫ぶ中、定春は俺の目を見つめて言った。
その瞳に街灯が小さく映り、星のように見える。
「お前はずっと、頭の中である人のことを考えているんじゃないのか。小さなきっかけが、自分を大きく変えてしまう程の存在にしてしまったんじゃないのか」
「っ!!」
『それが人を好きになるってことだろ』そう言って定春は、雄叫びを上げている優一の脳天に手刀を喰らわせた。
「優一うるさい」