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雨ノ幻  作者: 美橘
4/11


大粒の雨水が傘を打ち叩き、騒音は一瞬で消えていく。

そうして訪れた静けさにふと我に返ると、俺の身体は硬直した。

抵抗もなく引っ張られた彼女は俺の胴体にぶつかり、視線を下げれば小柄な頭頂部が見える。

真っ黒な傘の中で、2人きりだった。

いや、元々ここには俺たちしかいねえんだけど。

身体がほぼ密着した状態な上、布越しに感じる僅かな体温と息遣いが、理性をぶち壊そうとしている。

と、とりあえず落ち着け!素数を数えるんだ!

俺が大分パニックに陥っている中、全く動かない彼女に、ふと腕を掴んだままだったことに気付く。


「わ、悪い。強く引っぱちまった。痛くなかったか?あと、さっきも…その、悪かった。泣かせるつもりはなかったんだ」


俺はそっと腕を放し、一歩後ずさった。

本当はもう2、3歩下がるつもりだったのに、制服の裾を引っぱられ、叶わない。

驚いて見ると、彼女は小さく首を振っている。

視線は少し下を向いていたが、やがて頭ごと持ち上げ、俺の目を再び捉えた。


「っ!」


涙の膜で揺らめく奥に強い意志を感じ、咄嗟に息を呑んだ。

何かを訴えているようにも見える。

なんなんだ…目が、逸らせない。


「晴れた空には、何が似合うと思う…?」


「え?」


唐突の質問に意図が読み取れず、とぼけた顔で聞き返してしまった。

それでも彼女の真剣な眼差しは変わらない。

“俺に応えてほしい”、そんな表情で。

だから俺も、真面目に考えてみる。


晴れた空って、状況から考えるに雨上がりだよな。

それに似合うもの…。

今は夏だから、向日葵か?

でもそれだと安直過ぎるな。

じゃあ、虹か?

って、それこそ大王道じゃねえか。

んーー、そういや、あいつも雨が上がると嬉しそうにはしゃいでるな。


「あ」


妹が雨上がりにはしゃぐ姿を思い出して気付いた。

俺の頭じゃこれが精一杯だが、少しでも彼女の望む答えに近づけていると良い。


「水溜り、だな」


あいつはいつも、水溜りに映る空を見ては喜んで、その中へ飛び込んでいく。

そうして『お空を歩いているみたい!』と、満面の笑顔で俺に言ってくるのだ。

そんな妹を見ているとつい顔が綻んじまって、おやつにプリンを作ってやりたくなる。


「ありがとう」


彼女の声に、はっと我に返った。

目の前には、今にも零れ落ちそうな涙を溜めて、愛おしそうに微笑む彼女がいた。

その、儚さを纏った綺麗な存在に、一瞬にして周りの景色に鮮やかな色が付いたようだった。

ああ、彼女の求めていたものが見つかったのか。

無意識にそう思い、微笑み返す。


交わる視線が時間を永遠に感じさせたが、ふいに彼女が背伸びをしてきた。

まさか!そんなまさか!いや、まさか!?

淡い期待が湧き、心臓が暴れ馬の様に跳ねる。

唇が段々と近づいてきた。

そして――



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