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雨ノ幻  作者: 美橘
3/11


「あめ…」


「へ?」


俺の目を捉えたまま、彼女が涼やかな声で喋りだした。

驚いて変な声が出ちまった。

ちょっと恥ずかしい。


「雨のうた、聞こえる…?」


「んえ?」


彼女の言葉に、更に声が裏返る。

雨の歌?

って、なんのことだ…。

流れ的に雨音か?


「えーと、聞こえてる。…たぶん」


若干自信が無くて小さく付け加えた。

それでも尚、彼女は微笑んでいる。


「空が泣くから、雨がうたって慰めているの。おおきく、ちいさく、高く、低く。波紋が広がって、飛沫が飛んで、うたは形になる。……すてきね」


静かに語る彼女の言葉すらも、歌のようだった。

その響きは心地良い。

聴きながら、言葉の風景が頭に浮かんだ。

強い雨の日、弱い雨の日、落ちる場所によって変わる音。

この森林公園にもある池に降れば波紋が広がり、硬い地面に落ちれば飛沫が上がる。

雨の音なんて特に気にしたことなかったのに、こうして言われてみれば不思議と思い出せる。

悲しいわけでもないのに、何故か胸と目頭が熱くなった。


そして彼女が最後に小さく首を傾げたりするもんだから、俺の心臓がいよいよ口から飛び出す勢いで跳ねた。

無意識に喉を鳴らす。

更に困ったことには、彼女の言葉にどう反応していいのか分からない。

だが何か返さなくてはと戸惑っていた時、上から鳥の鳴き声が聞こえてきた。


「?」


そういえば雨が降っていたせいか、街中で鳥を見かけなかった事を思い出す。

大木に雨宿りしている鳥の声か。


「鳥は木の下で、空が笑うのを待っているのか?」


なんとなく思いついた台詞な上、返しとして成立しているのか不安だった。

すると彼女は一瞬目を見開き、目を輝かせて俺を凝視してきた。

ん?目でキラキラしてんのはまさか…涙!?

泣かせたのか俺!?!?


やけに涙が光っている様に見えたのは、どうやら陽の光が当たっているせいらしい。

雨が止んで、いつの間にか雨音は消えていた。

鳥達が嬉しくて堪らないとでもいうように、大きな羽ばたきと共に一斉に飛び立っていく。

思いの外たくさん止まっていたらしく、その勢いに枝葉に溜まっていた雨粒が落ちてきた。


「う、おぉぉぉおお!!!!」


彼女を濡らさぬようにと傘を広げたが間に合いそうにない。

意を決し、細くて華奢な腕を掴むと急いで引っぱった。



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