参
「あめ…」
「へ?」
俺の目を捉えたまま、彼女が涼やかな声で喋りだした。
驚いて変な声が出ちまった。
ちょっと恥ずかしい。
「雨のうた、聞こえる…?」
「んえ?」
彼女の言葉に、更に声が裏返る。
雨の歌?
って、なんのことだ…。
流れ的に雨音か?
「えーと、聞こえてる。…たぶん」
若干自信が無くて小さく付け加えた。
それでも尚、彼女は微笑んでいる。
「空が泣くから、雨がうたって慰めているの。おおきく、ちいさく、高く、低く。波紋が広がって、飛沫が飛んで、うたは形になる。……すてきね」
静かに語る彼女の言葉すらも、歌のようだった。
その響きは心地良い。
聴きながら、言葉の風景が頭に浮かんだ。
強い雨の日、弱い雨の日、落ちる場所によって変わる音。
この森林公園にもある池に降れば波紋が広がり、硬い地面に落ちれば飛沫が上がる。
雨の音なんて特に気にしたことなかったのに、こうして言われてみれば不思議と思い出せる。
悲しいわけでもないのに、何故か胸と目頭が熱くなった。
そして彼女が最後に小さく首を傾げたりするもんだから、俺の心臓がいよいよ口から飛び出す勢いで跳ねた。
無意識に喉を鳴らす。
更に困ったことには、彼女の言葉にどう反応していいのか分からない。
だが何か返さなくてはと戸惑っていた時、上から鳥の鳴き声が聞こえてきた。
「?」
そういえば雨が降っていたせいか、街中で鳥を見かけなかった事を思い出す。
大木に雨宿りしている鳥の声か。
「鳥は木の下で、空が笑うのを待っているのか?」
なんとなく思いついた台詞な上、返しとして成立しているのか不安だった。
すると彼女は一瞬目を見開き、目を輝かせて俺を凝視してきた。
ん?目でキラキラしてんのはまさか…涙!?
泣かせたのか俺!?!?
やけに涙が光っている様に見えたのは、どうやら陽の光が当たっているせいらしい。
雨が止んで、いつの間にか雨音は消えていた。
鳥達が嬉しくて堪らないとでもいうように、大きな羽ばたきと共に一斉に飛び立っていく。
思いの外たくさん止まっていたらしく、その勢いに枝葉に溜まっていた雨粒が落ちてきた。
「う、おぉぉぉおお!!!!」
彼女を濡らさぬようにと傘を広げたが間に合いそうにない。
意を決し、細くて華奢な腕を掴むと急いで引っぱった。