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雨ノ幻  作者: 美橘
2/11


小走りに近い早歩きをしながら、足元の雨水を弾いていく。

雨は嫌いじゃねえけど、洗濯物が心配になるから困る。

夏の雨は嫌な湿気になるせいで匂いも気になってくるが、香りの強い柔軟剤は使いたくない。

今日は何を作ろうか…メニューを考えながら近道になる森林公園を突っ切っていると、


「ん?」


見間違いか?

無意識にそう願いつつ、急いでいた足を一旦止めて数メートル戻る。


「っ!」


ああ、見間違いじゃなかった…。

大木が並ぶ中、傘も差さずに佇んでいる人物がいる。

ワンピースを着ているから女性なのだろうが、その姿があまりにも儚げで、今にも消えてしまいそうだった。

まさか…ゆ、ゆゆゆゆゆ幽霊とかじゃないよな。

足、ちゃんとあるよな。


枝が重なった木の下は雨があまり落ちてこないようで、彼女自身はそんなに濡れていないようだった。

それでも時々落ちてくる水滴が大きいせいか、当たった所は大きく滲んでいる。

女性は何をするでもなく、ただじっと大木を見上げていた。

少し長めの前髪の下には、静かに閉じられた瞼がある。


……見なかったことにしよう。

何をしているのか分からないが、きっと何か理由があってそうしているんだろう。

やたらに関わらない方がいい。

そう思っているのに、俺の足は主人の意に反して、彼女の方へと歩を進めていった。

おいやめろ、関わるなって言ってるだろ、止まれこら。


そうして園路から芝生へ踏み入り、彼女から約2メートルまで近づいてしまった。

近づく俺の足音は水を吸った草が消しているようだが、傘に当たる雨音は聞こえているだろうに、微動だにもしない。

気付いていないのか、それともシカトしているだけなのか。

やがて俺自身も大木の下へと入り、完璧とは言えない雨宿りをする。

極力音を立てないよう、傘を閉じた。

彼女はといえば、何の音も発しない。

声も、衣擦れも、呼吸ですら。

………息、してるよな?


あまりにも静か過ぎて若干居た堪れなくなってくる。

そして、ふと気付いた。


「あぁ、雨音聴いてんのか」


小さくだが、呟いてしまった。

それが存外響いてしまい、彼女が反応してゆっくりと振り返った。

邪魔をしてしまったような気がして、俺は咄嗟に謝る。


「わ、悪い!邪魔しちまっ……」


謝罪の言葉を最後まで言い切ることはできなかった。

何故なら、振り返った彼女が笑っていたからだ。

それもとても静かな、けどすんげえ嬉しそうな微笑み。

そのなんとも蕩けそうな笑顔に、俺は息ができなくなった。

心臓すらも止まったかと思ったが、逆にどんどん鼓動がうるさくなっていく。

てか、なんでそんなに嬉しそうなんだ。

訳が分からない。



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