◇リーダーの悩み◇
こっちの世界は、まだまだ知らない事ばかりだ。
魔物を魔力で燃やすと、マナを含んだ粉になるとか、その粉が魔道具の材料になるとか知れば知るほど、俺の知っている世界との違いに戸惑う。
周囲への警戒は騎士団の人が請け負ってくれたので、俺達は片づけと、荷物まとめを優先させる。
それも終わって、焚火の周りに誰が言うまでもなく、集まった。
俺はレイチェルと昼間見たギルド長の魔法について話しをしていた。
「わかってるよ!」
突如あがった声にその方向を見るとベータがイラついた表情で立ち上がって歩き去るのが見えた。
それを見て頭を掻きながらベイリーが後を追う。
モスリムとジャスティンが立ち上がりかけたラズを止めている。
モスリムの隣にいたはずのユウリがこちらに避難してきた。
「どうかした?」
「んーちょっとね。」
複雑な顔をしてユウリはラズの方を見ている。
「ふーん」
レイチェルは鼻をならした。
「焦っても仕方ないのに」
俺には話の流れが見えない。思い切り疑問を浮かべた顔をしていたのであろう。
ユウリは補足してくれるつもりらしい。
「ん。昼間のことをラズに注意されてね」
あれか、レオと二人でむきになって魔物を狩ったことか。
レオも大概大人げない。まだ15歳になったばかりだから仕方ないのかもしれないが意地っぱりな傾向がある。
「ごめん。止めればよかった」
俺が言うと、レイチェルが冷静に突っ込んでくる。
「アリサが割って入って治まったと思う?。下手に出ていかなくて正解」
レオは一応、俺にとっては弟みたいなポジションなのだが、むこうは不服らしい。俺のいうことなんてたしかに聞かないだろうな。
「んー。レオ君のことはひとつのきっかけなのよね。問題はむしろベータ自身にあるのよ。『剛腕の盾』はさ、先々代が作ったパーティで、目的は初心者互助なのよね。
で、ラズが順当にいけば抜けるでしょ?で、今日のメンバー見てどう思った?」
俺は意味がわからなくて首を傾ける。
俺に質問を振っておいてレイチェルは自分で答える。
「女の子が多いでしょ?。残留組で副リーダーのモスラム以外はみんな女子」
そういえばそうだ。
前の狩りの時には、もう少し男子がいた気がした。ジャスティンもベイリーも本来は別のパーティに所属しているようだし、Dランクだし。
「まぁ…リーダーが代わればメンバーも替わるのは仕方のないことなのよ。
ベータだってちゃんとリーダーしてればその内にメンバーだって揃ってくると思うのよね」
レイチェルはそこでため息をついた。
「世代交代だから仕方ないって言ってるのに、ベータは焦りすぎなのよ」
自分が次代のリーダーに決まってから人が離れたとベータは思っているわけか。
特に戦力が女子ばっかりじゃ、残った男子にどうしても負担がいくだろうし、 ベータもいろいろ悩むところがあるのかもしれない。
「ベスもマチルダも、冒険者登録をして日が浅いし、まだ自分達のことで精いっぱいだし」
この前の魔獣襲撃も関係しているのかもしれない。
冒険者登録をしていれば、ああいった時には最前線に駆りだされる可能性が高い。
EやFランクでは怖気を奮う奴も出るだろう。
「中堅と呼べるのは私達だけだしねぇ…」
ユウリがレイチェルと顔を合わせてため息をついた。
「私達の実力と経験じゃ、とてもじゃないけど、パーティを支える屋台骨になんか、なれないわ。」
「そっかー。なんかうまく行く方法ってないのかな」
俺も考えてみるのだが、さっぱりと名案が浮かばない。
リーダーの悩みねぇ…リーダーの悩み。
あ、ウィルに聞いてみるってのはどうだろう?
「ちょっと聞いてくる!」
いきなり立ち上がって、走り出した俺に、レイチェルもユウリも訳がわからず声をかける。
「誰に?」
「何を?」
騎士団の天幕にいくと、あの大柄な騎士さんが自分の手をピグ替わりに打ってしまった少年、ニコールに説教をしていた。
何かしでかしたのだろうか。
「あ、嬢ちゃん?隊長に用が?ちょっと待ってて」
こういう時、年少の者が呼びにいくものではないだろうか?
ニコールはちょっと気が効かないタイプのようだ。
天幕から出てきたウィルは俺の顔を見てひとこと、「助かった」
と言った。どうやらギルド長や偉い人に絡まれていたらしい。
「どうした?夜営は怖いか?」
相変わらずの甘々です。
「レオの奴はどうした?」
そう言いながらレオの方を見る。
レオはハイレグアーマーの二人のうちの一人に絡まれていた。
美女化しなかった方だ。たしかマチルダと言ったかな。
カミルが怪訝な顔をしてバートンが途方にくれた顔をしている。
なんかあっちも大変そうだな。
「怖いのならこっちで寝るか?」
いやいやいや、俺、もう大人ですし!まずいですよそれ。
「そういえば…その装備を買ったのか?」
俺としたことが、ウィルに報告するのを忘れていた。
お金を出してもらっていたのに、俺のバカ…。
「買ったのはこの剣です。援助してくれてありがとうございます」
遅まきながら俺はウィルに魔法剣を見せた。
「いい剣だな。高いと思うが、足りない分はどうした?防具の分もあるだろ?」
「えっとダールマさんとかゲイルさんが出してくれて」
ウィルの目が眇められた。
ちょっと怖い。
「…どうして彼らが?」
「お礼だそうです。砦でゲイルさんの彼女を治療しました」
ウィルは黙って俺の髪を梳いた。ナンカコワイ。
「足りない分は俺に言え」
そうします。うん。なんか怖いから。
「リーダーとしての悩みか」
ウィルは顎に手をやり少しだけ宙を見た。
「俺も、ここに来たばかりの時はいろいろと悩んだ気もするが、…何しろ最終判断を下すのも自分だし、その結果を引き受けるのも自分しかない。…まぁでもそいつもわかってるさ」
「なんか苦しんでいるように見えます。皆心配してて…」
ベータの顔は強張っていた。レイチェルが言うように焦りもあるんだろう。
「…でもな。苦しんだ分しか見に着かないし他人に教えてもらってリーダーになるわけじゃぁない。七転八倒してそれでも起き上がっていくうちに自信もついてくる。信じてやれ。」
ウィルはそこで少し黙った。
「なぁ、アリサ。ここに留まる気はないか?」
俺は不思議に思ってウィルを見る。
「…こっちの連中とも仲良くやっているようだし、パーティにも溶け込んでいるように見える。王都に行っても帰れるあてのないことは…話ししたな?」
それはわかっている。でも、少しでも情報が欲しい。
他の異世界人と話せば、何かわかってくるものもあるかもしれない。
「戻れる可能性がなくても…何かしたいです」
俺は俯いた。何もしないで、ただ自分の置かれた状況を受容したくない。
ウィルは「そうだな」とだけ言って俺の頭を撫でた。




