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JKだけど異世界で真の漢に俺はなる  作者: 相川ミサヲ
第1章
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◇キレイな人のいる光景◇

話がうまく作れない時に限って横道にそれたくなる。




 あの砦の襲撃の日から一週間たって、目の下に隈を作り、憔悴しきったウィルが帰ってきた。

 あまりのボロボロっぷりに驚いた。

 砦で着替える暇すらなかったのであろう、この家を出る時には、あんなにパリっとしていた騎士服が汚れ、破れ、血のような染みすらついたままだった。

 家について安心したのであろうが、目の前ですぐ服を脱ぐのはやめていただきたい。

 俺はスミス夫人を手伝って取り入れた洗濯物を座って畳んでいたため、気をきかせてすぐその場を離れることができなかった。


 何というか…目のやり場に困る。

 いや…下は履いてたけどさ?

 細マッチョのしなやかな上半身が…視界に入って思わずガン見したくなる。

 失礼にならないように、ここは恥らっておくべきか?


 やばい…

 すごく

 すごく…うらやましい。


 なんて綺麗な筋肉なんだろう、しなやかで力強そうで。

 ウィルはレオと話しながら、脱いだ服を椅子の背にかけ、畳み終える前の服の山から、ざっくりとしたシャツを取り出した。

 そしてくるりと背中を向いてシャツを腕に通した。

 そのわずかな一瞬に、腰のちょっと上の方に酷い古傷のあとが見えた。

 やはり騎士団長とかしていると危ない目にも何度となく会っているんだろう。



 「この服はもうダメだな」

 脱いだ服を手にとって、苦笑を浮かべるその顔は人化した時の、あの麗しい美貌だ。

 ウィルさん、ウィルさん、疲労のあまり、俺の存在忘れてやしませんか?

 …ちょっと油断しすぎじゃないですかね?


 そして、すぐにでも横になりたいだろうに、風呂に入ると言ったのには驚いた。

まぁ1週間も風呂はおろか食事もゆっくりとる時間もなかったに違いないだろうから疲れのために隙だらけで不用心なのも仕方なかろう、と思っておく。


 スミス夫人はさっさとお風呂の用意をしに、立って部屋を出ていった。

 俺も手伝おうとその後を追う。

 レオは?と見ると、ウィルに纏わりついて離れない。


 …心配だったには違いないが、まるで主人に纏わりつく犬のよう。

 君、豹人の系譜だよね?猫科のはずなんだが。

 いいかげん、水を汲む位手伝えよ…力あるんだし。


 風呂の準備は大変だ。

 元の世界じゃスイッチひとつでお湯張りまで出来たが、こっちでは違う。

 井戸から水を汲んで大きな窯にいれて沸かし、それをバスタブまで運ぶのだ。

 正直とても面倒くさい。


 だからこっちの人はそんなにお風呂に入らない。

 だからといって臭いはそんなに気にならない。食べているものが違うからか、町の人で体臭がきつい人はいないようだ。

 ――冒険者は別だが。


 ウィルはとても綺麗好きなようで、他の人よりお風呂に入る回数が多いらしく、 お湯を沸かす窯から、沸いた湯を直接バスタブに流れるように家を改造してある。

 その恩恵を俺も受けているのでとても助かるのだが。

 つまりは、最初の水汲みさえクリアすれば毎晩風呂を使える。


 お湯を沸かしている間、スミス夫人は料理の下ごしらえをはじめたので、そちらも手伝う事にする。

 俺の両親は共働きだったので、自分の物位は作って食べていたので、まぁそこそこはできる。



 ある程度まで下準備を終えて、湯加減が気になったのでレオに見てきてもらおうと声をかけようとしたところ、脱ぎ捨てられたウィルの服を握って俯いていた。

 服に残された痕跡から、ウィルが騎士団長として戦ったり、後処理のために奔走した残滓が感じられて心を痛めているらしい。


 俺もウィルはすごいなと思うけど、守備隊の騎士団長だしな。

 ある意味お仕事だし、それが彼の職務だ。

 レオが心配したからといって、冷たいようだがどうにかなるとも思えない。


 その服の中身だったウィルは自分で湯加減を見にいったらしい。

 …手伝えよ。レオ。

 ったく。ブラコンめ。







 「…こいつは…うまい」

 似たような味の調味料があったのでチキン南蛮風な物を作ってみた。

 食べる事が好きな俺は料理も好きだ。評判よくて何より。

 そういえば、異世界で日本にあるメニューを振る舞って好評とかも、最早基本仕様なのか。


 俺も一応女子のはしくれ、明日は弁当でも作って、少しでも恩を返そう。

 もう屋台の食事とか炊き出し飯、飽きたとか遠い目をしてたし。


 ちなみに、夕飯の席にあの青髪の治療師のクリスさんも一緒についている。

 やはり、ウィルとは知り合いのようだ。それもかなり仲がよいと思われる。


 やはり、家の食事はいいな、とか言いつつ、優雅にフォークで食事を口に運ぶイケメン。


 湯上りのためか、その頬は上気してほんのりとよい香りがするような気すらする。

 って俺はヘンタイかっ!自重しよう。ウン冷静になれ俺。


 治療師のクリスさんも、ウィルのあとでお風呂をつかって、艶々している。

 濡れ髪はタオルドライしたようで、まだ湿り気のある髪をおろしているが妙な色気があるな。



 この人、家の扉がノックされたので、レオが出たところ、

 「おとうとくん~ウィルいる?風呂かしてくれ~なんか食わしてくれ~」

 と今にも倒れそうにヨロヨロと入ってきたのだ。


 不眠不休だったらしい。

 普段は、砦の治療院に住み着いているような状態らしいが、そこすらも怪我人で 溢れてきていて休めないとの事で、ウィルを頼って家に来たとの事。

 患者と患者の間で座ったまま眠ったとかどんなブラック職場!


 そういう事は魔獣の襲撃のたびにあるらしいが、ここまで酷い事はそうそうないらしい。


 ウィルの友人ならば歓迎しよう。ってここ俺ん家じゃないけど。


 お風呂と夕飯で、ある程度復活を遂げたのはさすがというべきか。

 伊達に修羅場の職場にいるわけじゃないのな。


 しかし俺の席の位置からは3人の美形がすべて視界に入ってしまう。

 意識して見ているわけではないが見えてしまっているのは仕方なかろう。

というわけで、眼福、眼福。拝んでおこう。


 俺の賛美の視線に気が付いたわけじゃなかろうが、ウィルが上品に微笑みながら言ってきた。


 「お前達、ギルドでひと騒ぎ起こしたらしいな」


 俺がチロリとレオを見ると目が明らかに泳いでいる。


 「身分証を作りにいっただけだよ」


 「あぁ、そうか…。うっかりしてたな。でも、身分証ぐらい俺の権限で何とかできたのに。なんで俺に言わなかったんだ?レオ、それに俺は、お前はああいう場所には近づくなと言ってあったろう?」


 ――無理やりギルドで冒険者カード作らなくてよかったって事か。

 いや、実際、すごく欲しかったけど冒険者カード。

 たしかに俺がギルドへ行きたいと言ったから、レオは連れていってくれたんだよな。


 てか、ウィルはレオが冒険者になるのは反対なのか?


 「アリサが、すごく楽しみにしていて…」

 レオは口ごもりつつ反論した。


 「で、Cランクのゲイルやドレイクに凄まれて囲まれたって?どうやって切り抜けたんだ?」


 ゲイル?ドレイク?ドレイクは…ああ、ダールマのことか。

 達磨の印象が強すぎる。ダールマさんのファーストネーム、覚えられる気がしない。


 「それは、アリサが、突然…」


 レオが口ごもりつつ、あの時、俺がしたことを説明する。


 「ぶっ!くはははは!」

 クリスがそれを聞いて笑いはじめた。


 額に手をあてて、何か疲れたような顔をしているウィルとは対照的だ。


 バンバンと机を叩きながらヒーヒー言っている。

 なんだこの人、まるで徹夜明けの妙なテンションの人のようだ。


 あ、ほぼ一週間あまり寝ていないんだった、この人。


 俺以外の誰も引いていなかった。いつもの事らしい。


 「…俺って薄幸そうな…弱く見えるような顔しているんでしょうか…」

真面目な顔でレオが呟いたのでウィルも苦笑いを浮かべた。

 レオよ。気にしていたのか?ソレ。


 「そりゃー。荒くれ共の多い冒険者の顔に比べれば、…なぁ?」

 クリスは笑いすぎて泪が出たのをぬぐって答えた。


 「ゲイルとかドレイクとかと比べりゃ俺だって十分薄幸そうな青年だよ。

イサなんかと比べたら俺なんか生まれたての赤ちゃんより、か弱い」


 ああ、あの隻眼の黒装束。マジ死神か地獄の死者かって感じだものな。

 ――鼻から下も黒い覆面で隠していて、わずかな隙間から見える片方だけの目が鋭 すぎて…一瞬だけど、問答無用で腰に下げていた剣で無礼打ちされるかと思ったもん。

 あれでも、彼は殺気を放っていなかったように思う。本気だしたらどんだけなのよ。


 それでも、治療師として彼らと接しているからか、クリスの冒険者に対する評価は悪くはないらしい。言い方はああだけど、愛があるね。



 尚もクックックと笑いながら、クリスが手をのばしてレオの頭をぐりぐりと撫でる。

 レオは迷惑そうだ。

 ウィルも釣られるように笑いながら、手を伸ばしてレオの頭を撫でる。

 両側から髪をわしゃわしゃとされ、複雑な顔をしているレオ。

愛されてるなぁ。


 はぁ眼福、眼福。

 その中の、若干一名とうまく行ってないけどな。






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