◇薬草採集とはじめての依頼◇
読んでくださってありがとうございます。
大海原へ勢いのまま小舟で漕ぎ出したような心持ちですががんばります。
できたら、アナタという灯台の灯りで照らしてほしいな。
↑
というようなセリフを吐く新しいお話が浮かんでしまい…
ダメ浮気ゼッタイ
「そっち方面に行くなら、ついでにこの依頼書を持っていってくれないか?
薬草類が足りなくなるだろうからね、採集を頼みたいんだが」
クリスからも頼まれたのでギルドに寄ることになった。
てか、やはり魔獣のコアとかもテンプレですね。
クリスに頼まれた依頼書をギルドの受付に出して、二人で裏手にある解体所へ寄って、魔獣のコアを取り出す作業や素材を剥ぐ様子を見学した。
ラノベ的な知識で魔物の名前をあてずっぽうでレオに聞いたが、大体が名は体を示すである。
ラノベ的な名前が通じる事に、こっちの言語は一体どうなってんだと思わざるを得ないが、通じるから問題なしと考察を放棄した。他に考える事はいっぱいある。
名前がはずれたのは、ホーンラビットと電気ねずみだった。
例の小さなボールに入っているモンスターと違い、かなり凶悪な面構えだった。
あんなのに遭遇したら、回れ右をして全力疾走して逃げたくなりそうなんだが、
こっちの人はよく平気だな。
解体所には、商人や仲買人が山のように押しかけていて、反対に冒険者の数は少なかった。行動を一緒にしたあの商人さんは見かけなかったが、活気のある様子に 少しだけ元気が出た。
命を大事に。優先されるべきは早くこっちの世界に慣れる事だ。
魔物の名前や、特徴、弱点、その魔物から得られる素材など、得にこっちで冒険者のようなマネ事をするなら、覚える事は盛りだくさんだ。
ウィルにいつまで保護してもらえるのかもわからないのだし。
俺が何も知らない事にレオは驚いていた。
「君、なにも知らないんだね。今までどういう生活してきたの?」
「…多分、すごく平和なところだったんじゃないかなぁ…それか、忘れてしまっているのかな…?大事なことなのに困るね。アハハ」
「……」
レオは疑うような目つきで俺を見ている。
「さぁ行こう。なんか疲れたよ」
長い一日だった。俺はレオの背を押すと家に帰ろうと促した。
「…逆だよ」
「…あれ?」
焦ったために方向を間違えたみたいだ。
数日たつと、町にも包帯を巻いた人達がちらほら目につきはじめ、――臨時治療所とか治療院から日常へ戻りはじめた比較的怪我の軽い人達だ。
町の様子も、最初にここに来た時と同じ感じに戻ってきていた。
砦と壁で魔獣の被害が町にはなかった事がよかったのだろうか。
とれた魔獣の素材などを扱う店など、前より活気づいている場所さえあるくらいだ。
「ウィルはまだ帰ってこないか~?」
レオには不審がられたので、あまり聞けない。
そもそも、レオには「異世界人の存在」をウィルは伏せているのだ。
俺が異世界人だとバレるのは…まずいだろうな。
王都へレオに送っていってもらう話は、今回の襲撃で延期になった。
レオは王都で学生をしているらしく、新学期には間に合わないらしい。
その事でだろうか?少しイライラしているように感じる。
「砦がやられたんだ。すぐに帰れるわけがないよ」
常識だろ?みたいに、つっけんどんに言われた。
どうした?カルシウム不足か?成長期なのにいかんな。
俺も、2~3日ほど、クリスに頼まれて、治療師のマネごとのような事をして過 ごしたため顔見知りが増えた。
あの襲撃を皆で乗り越えた事による妙な連帯感というか仲間意識が芽生えているのか俺に対する態度は皆、親しげだ。
これがこの町の姿なんだろう。
魔獣の襲撃に怯える姿と、撃退したあとの活気にあふれる姿。
そこにくらす人々は呆れるほど強かで前向きだ。
「砦に行っても、兄さんの邪魔をしないようにね」
そのぐらいの配慮は出来る。
と、いうか、ウィルに会いに、砦に行ってると思われているようだ。
「レオ、そのぐらいはちゃんとわかってるよ。砦にはクリスの依頼で治療師のマネごとをしにいってるだけだって。騎士団の邪魔はしていないよ」
俺が呆れ顔で言うと、どうだか?と言われた。
なんだか喧嘩腰だ。
明日をもしれないというような重症患者が減ったので、あとはクリスさん達の通常の緊急体制で何とかなるとの事で、俺は治療院からは解放されたが、今度はギルドからの依頼でレオともども薬草採集に駆り出された。
「レオ、用事があるならいいよ。どこか適当な冒険者のパーティに混ぜてもらうし。最悪一人でも危なくなさそうな所で採集するし」
レオが、チッと舌打ちをしたので、俺も気を使う。
「お前みたいな常識知らずが一人で町の外へ出て、危なくない場所とかわかるの?禄に闘えもしないのに」
禄に闘えないと言われ傷を抉られるような気持になる。
異世界(こっちの世界)では通じなくても、子どもの頃から剣道を、ここ1年はあらゆる武道を習い、鍛錬してきた。それをすべて否定された気分だ。
「剣とか持っていけば…」
「誰に買ってもらうつもりなの?」
「いや…悪いとは思うけど、何も持ってないし、そりゃウィルには頼ってばかりで申し訳ないけど…いつか返そうとは思っているし。」
「何でもかんでも兄さんにおんぶに抱っこだね。だいたい冒険者に本当になるつもりなの?」
いや、だってさ?何の技術を持ってないのよ?何して稼げと?
「なるつもりだよ?他に雇ってくれるとこがあればその時に考えるけど、」
いかん、俺もイライラしてきた。
「じゃさ、レオはどうすればいいと思うわけ?」
「記憶を戻して、元へ戻れば?」
自分で記憶を取り戻せないのが記憶喪失ってんだよ。
「帰れるもんなら、とっくに思い出して帰ってるって!」
思わず声が大きくなる。
ひのきの棒とお鍋の蓋からはじめろと?町の外へ出たとたん死ねるわ…。
むっとしたまま、竹刀を片手に家から飛び出すと、後ろをついてくる気配はする。
(どうしたいんだよ…)
レオの心がわからない。
「こっちの方角の方が程度のいいのがある。」
髭達磨改め、ドレイク・ダールマさんが教えてくれた。
ギルドで俺達に絡んできたけれど、あとで謝ってくれた二人組の冒険者のうちの一人だ。
名前というかファミリーネームが「ダールマ」とか名は体を示すというか奇妙な符合で珍妙な気分だ。
現在、魔獣がまだうろついていそうな砦の外側になる魔の地側の散策は避け、俺とレオはアジャール草原で薬草採集をしている。
「ありがとう。ダールマさん。いいんでしょうか?稼ぎ時なんでしょうに」
あの時の約束通りに、護衛を買って出てくれたダールマさんにお礼を言う。
しかも無償だというのだ。
こっそり懐具合を心配してしまう。
「今、市場は供給過剰気味だからな。素材相場は値崩れしている。
もう少し落ち着いてから、俺達は稼ぎに出るつもりだから気にすることはない
それに、ゲイルの彼女があの襲撃で怪我してな。奴はつきっきりだ。
砦の外に出るには、どのみち奴が出なきゃ戦力不足だからな。まぁ魔物の追撃は他の奴にまかせるよ」
ゲイルって…ああ、赤ら顔の方か。
彼女いたんだ。ゲイルさん。
俺の表情を見て、ダールマさんも気がついたようで補足してくれた。
「ゲイルの彼女は『3本の矢』っていうCランクになったばかりのパーティメン バーでな。なかなかの美人だぞ。ああ見えてゲイルは結構もてるんだよ」
ゲイルについては顔色が赤味がかってるなと記憶にあるのだが、盛り上がる筋肉と胸の古傷しか覚えていない。
男前だったかなー?
でも「ああみえて」がついているところから考がえると性格美人なのか?
結構もてるのか。へぇー。怖そうな人って印象しかなかったけど。
もちろん目の前のダールマさんについても、特徴的な髭とまるっこい身体しか覚えていなかった。
いかん人の顔をちゃんと覚えねば。
「ほら、これがギトキト草だ。こいつを乾燥させて丸めたものに火をつけるといい種火になるぞ」
ダールマさん、思ったより面倒見がいい。
最初の印象が最悪だったからな、これからはもう上がるだけだな。
こういう所がモテポイントなんだろうか。
ダールマさんには、もう怖い人という印象はない。
ギルドでの件といえば、レオの行動にもひっかかりがある。
単純に兄大好きな純朴な少年といった印象で、初対面からフレンドリーだったのが、今は、何だかちょっと距離を取られているようだ。
もちろんウィルの弟だし、ある程度は信頼してるけど。
だから誰もいないような、このアジャールの草原でレオと二人きりというのは落ち着かない。
もちろん俺の面倒をみるようにウィルに言い含められているのだろうが、なんだろうこの居心地の悪さは。
態度までに出してはいないが、苦々しく思われているのだろうか。
今日、ダールマさんが付いてきてくれて、正直本当に助かった。
午後になって、ホーンラビットとゴブリンの襲撃があったが、ダールマさんがサクっと倒していた。
異世界に飛ばされた初日に、この草原を一人で歩いていて、よく襲われなかったな、俺。
ダールマさんもインベントリを持っているようで、死体が消えていたが俺はもはや驚かなかった。
俺達が採集した大量の薬草も運んでくれるそうだ。
まったくもってありがたい。
便利だな。俺も欲しい。
「よし、このぐらいにしておこう。夜の草原は危険だからな」
戻る時間も考慮にいれているのだろう、ダールマさんに促されて、まだ明るい内に町へ戻りはじめた。
ダールマさんに言われ、町に戻った俺達は剣技や魔法の鍛錬をした。
ギルドの訓練所は設備が整っていて驚いた。
吊るされた丸太が空中で唸りを上げて、つぎつぎと襲いかかってくるしかけとか
どっかで見たような鍛錬方法がなにげなく存在していた。
これ、大けがすんじゃね?
レオがフツーにクリアしてたけど。あれ?レオって結構強い?
ギルドで貸し出された剣は、そうだな、切り裂くんじゃなくて叩きつぶす感じだな。
刃は一応ついているが、殴って使うような感じだ。
日本刀のイメージがある俺には、重いし、やや使いづらい。
徒手術の方も試してみたが、哀しいかな、手足の長さが圧倒的にレオ達こっちの人に比べて足らないのがネックだ。
リーチのある得物をもたないとお話にならない感じだ。
治癒使えるんだから後方支援係でいいんじゃね?とか思われそうだが
治癒だけじゃねぇ。
攻撃魔法も是非覚えたいし、物理の力も欲しい。
ここでの常識はただひとつ。
――強い者だけが生き残る資格を持つ。
冒険者登録をした以上は、一定のペースで、ギルドの依頼を受けないと、資格が 失効してしまう。つまりは身分証として使えなくなってしまう。
いつまでも護衛についてきてもらえるわけでもないし、最低でも登録資格を失わない程度には冒険に出る必要もあるだろう。
それに、こちらで生活費を稼ぐには冒険者でいるのがよさそうだ。
ちゃんとした堅気のお仕事には身元の保証がないとつけないらしいし、
ウィルに頼めば身元保証人位にはなってくれそうだが、堅気の仕事をしていては帰る方法も探せそうにもない。
何より、何かへまをしてウィルに迷惑をかけたくないしな。
まぁ異世界ネットワークがどんな組織なのかは分からないが、そっちでも
何か動いてくれるかもしれないし、それまで自由に動ける冒険者は都合がよさげだ。
それに、こうして鍛錬できるのも冒険者ならではだ。
強くなることは俺の、前の世界から、心に決めている目標だ。
強くなるための努力なら惜しむつもりもない。
この剣も、いつか軽々とふるえるようになってやる!