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JKだけど異世界で真の漢に俺はなる  作者: 相川ミサヲ
第1章
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◇はじまりとしてはお約束かも?~異世界へ~◇

プロローグ




ラノベではお馴染みの異世界物。

読んでいる分には面白いけど、あくまで創作物。

主人公と共にワクワクを共有し、読後の余韻にひたる。


王道の勇者召喚物、異世界転生内政チート物、最近ではギャルゲーの悪役ヒロインに転生とか、まったく次々と飽きさせない話を考えてくれるぜ。


全部の創作物に目を通しているわけではないが、こんな物語を俺は知らない。

それとも、これから何かがはじまって、俺が読んだことのあるストーリーが始まっていくのか。



ここまで読んでくれたら、聡明なるわが同志諸君は気がついてくれただろう。


そう、ご想像どおり、俺、異世界に転移しちゃいました。


厨二病をこじらせ中の、一人称俺っ娘の瀬尾野アリサ17歳。


腐った方面に成長中のお友達からも「痛い子レベル『末期』」の認定された高校2年生である。


どれだけ痛いかと言うと、異世界冒険物に夢中になるあまりに、こっそり剣道やら空手やら少林寺拳法などの道場に通って、


「べ、別に、異世界物に感化されたわけじゃないからねっ。護身のためなんだからねっ」

と言い張り、授業では、

「こ、この知識は内政チートに活かせるかも?クフフ」

などと邪な笑みを浮かべる位には痛々しい。

はっきりいって自分で言うのも何だけれども、バカである。

でも今となってみると、妄想程度で満足している場合じゃなかった。

何でもっと徹底的に準備しておかなかった?

そもそも空想世界が現実になる事を心配するのはなぁ。それこそ杞憂ってもんだろーな。

後悔先に立たず。


 「……」


 その日はいつもの剣道の道場からの帰り道、そそっかしい俺は何もないところで躓いた。

 ――微妙な高低差があったんだって。そんなに呆れるような目で見ないでくれ。


 うぉ!転ぶ!

 一瞬目をつぶったところ、軽い浮遊感がして、気が付いたら見たところもない場所に俺はころがっていた。


 手には剣道の道具一式。その日はたまたま防具を持ち帰る日だった。

ほら、シュッシュ的な事をして陰干ししないと防具って臭うだろ?


 俺は一人称こそ漢だが、通常では普通に「職業:ジョシコーセー」をしている。

 あの臭いは、ジョシコーセーとして黙認できない。

 全国の女子剣士なら同意してくれるはずだ。


 「ここ…どこ?」


 俺は声に出す言葉は、女言葉に無意識で変換している。

 違和感があるだろうが、我慢してくれ。


 そこは見渡す限りの草原に地平線へと続く一本道という景色だった。真っ青な空に昇る太陽の位置は高く、空ではヒバリのような鳥が鳴いていた。ただし俺の知っているヒバリは紅白カラーではない。

 自然界にあっていい色じゃないだろ。あのカラー。めでたい色だな。


 転ぶ前にいたところは確かに住宅街で、道の南の斉藤さん家のよく吠える犬が、俺にむかってワンワンと吠えたてていたはずだ。周囲は草原の草をなでるそよ風の音が、俺の制服のスカートをひるがえす音しか聞こえない。

 前方はひたすらまっすぐに続く一本道。

 振り返ると、ゆるやかにのぼっていく道と丘。

 俺は、丘から下った一本道の途中でコケたくらいの位置にいることになる。


 まず、自分の頬をつねってみた。こういう表現を見るたび、古臭いなぁ、とか思っていたけど、無意識にやっていた。

 ウン痛い!つねったところがキリキリ痛い!

 それでも信じられずに自分の頬を張り飛ばした。パァンッと小気味いい音が響いた。いてぇ。やりすぎた。

 涙目になりつつ、背伸びをして360度見渡してみる。


 草原と、道と派手なカラーの鳥以外には何もない。ほんとになにもない。こんな光景を俺は見たことない。


 ポケットに入れていたスマホを確認する。

 ウン。圏外だね、ふつーに。


 俺は頭を抱えた。

 …このシチュエーションは…転移か?


 ここに来る前、魔法陣も見た記憶はないし、周囲に召喚者もいない。

願わくは、地球上であって欲しい。

 異世界とか、マジ勘弁。あれは第三者視点でみるから面白いのだ。

 実際に体験したら生き残れる自信がない。


 赤と白のツートンカラーの鳥のことなど軽く意識外に押し出し、俺は額に手をあてた。

 ――とりあえず、ここに居ても仕方なさそうってことは確かだな。

 そう判断し、歩きはじめることにした。幸い道は一本道だし。


 人がいるところからどの程度離れているのか分からないが、このまま立ち尽くしていても夜になるだけだろう。道は石畳で舗装してあるけどあんまり綺麗じゃない。草が生え、道があるので人なり自転車なり通りがあるのだろうがかれこれ1時間程度、何もやってくる気配がない。


 自動車は走っていなさそうだ。轍がどうみても違う。馬っぽい蹄の跡はくっきり残っているのだが。


 ――なんだか嫌な予感がする。

 異世界物の典型のヨーロッパ中世程度の文化というワードが頭の中をチラチラ浮かぶ。


 「へ、平気なんだからっ、そんなバカな事、実際に起こるわけないしっ」

 内心ビビリまくっているのだが口では勇ましそうな事を言ってみる。


 袋から竹刀を取りだし、油断なく周囲に目を配りつつ、肩を怒らせて歩く。

 だが3時間ほど歩いたところで俺はへたりこんでしまった。


 「つ、疲れた」

 普段からあまり歩かない現代っ子なので3時間も歩けば足は棒のようになる。


 「うぉぉ・・・ふくらはぎ中心にあらゆるところが痛い」


 道端に座り込んで、靴を脱ぎ、ふくらはぎを揉む。


 恨めし気に空を仰ぐ。だいぶ太陽の位置が低くなってきていた。

 「やばいなーこのまま夜になったら・・・お外で寝るとか無理だよ」


 男子がやっているように、サイドバックの取っ手をリュックのように腕に通して持っていたのを下ろし、中からペットボトルを出す。

 あー水がもう、残り少ない。

 ついでにガサゴソとサイドバックの中を漁る。

 着替えのジャージと、少しの駄菓子、財布、タオル、制汗スプレー(シトラスの香り)、コスメ・グルーミングセット、プロテイン。

 最後は女子としておかしいかもしれないが、一般的な格闘家の標準装備だ。


 これもう詰み?。

 こんな人気のないところで行き倒れて、水も食糧もなくなったら、餓死ルートじじゃないですかーやだー。

 一口だけ水を口に含むと、俺はペットボトルをサイドバックに仕舞った。


 半日かそこらで文化圏にはたどり着けないような場所だったらしい。

 「物語なら、ぼちぼちイベントが起きるところなのに」


 呟いてみたが、そよそよとした風が草原の草を揺らすだけだった。


 考えてみたら、イベントだって助かる方とヤバイのとある。

 むしろ猛獣や悪い人と出くわさなくて、僥倖なのかもしれない。

 〇海から巨大なイモムシが触覚をうねうねさせて、ダチョウのような鳥に乗った旅人を追いかけて飛び出してきても対処できる自信がない。


 「よっこらしょっと」


 ティーンとは思えない掛け声で、俺は立ち上がり、再び歩きだした。

だんだん薄暗くなってきた。

 ・・・仕方ない野宿するしかない。

 俺はそのへんの草を千切るとシートがわりに地面に敷きつめ、ジャージを履いて横になった。秘儀、スカートアンダージャージ。

 あたりはすでに真っ暗で、星あかりでは足元が心もとない。


 ――マジかよ。日が暮れちゃったとか、うぇー。


 眠れないだろうが、身体を休めないと。明日もどれだけ歩くのか予想もつかない。ていうか餓死する前にどこかにたどり着かねば。


 固い地面と緊張から、とても眠れないだろうと思っていたが、よほど疲れていたのだろう。うつらうつらとしていたようだ。


 またあの夢を見た。あの日から何度も繰り返し見る夢だ。

 俺は公園に立っていて、GWの間の登校日で、公園の藤棚は満開で、つつじの植え 込みからは甘い香りがしていた。

 ――今でも、あの香りは鮮烈に思い出せる――

 つつじの植え込みの間から汚れてくしゃくしゃになった学生服を着た少年がノロノロと這い出してきて、俺と目があった。

 ――アリサ姉ちゃん。

 一瞬泣きそうな顔で俺を見て、問いかけ顔の俺の言葉を制して言った。

 ――大丈夫。なんでもないよ。お母さんには言わないで。

 近所の年下の男の子で、小さい頃にはよく一緒に遊んだ子だった。

 でも、大丈夫じゃなかった。

 2学期が始まって、しばらくしたある日、その子の家の前には黒と白の垂れ幕がかかっていた。

 ――自殺だそうよ

 ――いじめがあったそうよ

 近所のおばさん達の話が耳に入って、俺は俯き、ぎゅっと拳を握った。

 大丈夫じゃなかった。なんで…なんで…


 遠くから聞こえる物音に俺は目を覚ました。

 あわてて起き上がると、涙がつぅと流れて落ちたのがわかった。

 涙をぬぐいながら、物音のした方向をみる。

 昼間、俺が歩いてきた方角から何かが近づいてくる。


 立ち上がって目をこらすと、こちらへむかってくる灯りがユラユラと見えた。


 それは幌つきの馬車だった。

 御者台の前方にカンテラが、つりさげてあり、それがユラユラ揺れているのだった。


 ――どうしよう。

 声をかけて、もし悪い人だったら。


 声をかけるか迷っているうちに、それは俺の目の前を通りすぎた。

 「あっ」

 俺のあげた声に気が付いて御者がふりむく。

 ばっちり目があった。そして固まってしまった。


 「どーどー」

 馬をなだめつつ、御者が馬を止めた。


 ヒラリと身軽に御者台から飛びおりると、俺にむかって歩いてくる。


 「こいつはー、驚いた」


 驚いたのはこちらだ。

 闇の中でカンテラの灯りに照らされた、彼の顔は豹だったのだから。


 「どうした?こんなところでヒッチハイクかい?」


 豹の頭でどうやってしゃべっているのかわからないが流暢な言葉だった。


 「あ…あの」


 言い淀む俺を上から下まで値踏みするかのように見て彼は立っている。

 声は若い男の声だった。

 豹独特の美しい柄の毛並の頭部に耳がついていて、ピョコピョコ動いている。


 ――か、かわええ。


 俺の目は獣耳に釘づけだ。

 その男?は上半身はマントで隠れているが、すらりとしているのがわかる。

 足はピッタリとした黒の長ズボンをはき、ブーツにインしていてこちらもすらり と長い。そして彼の背後からしなやかな長い尾がユラユラ揺れているのが見えた。



 彼の猫科の、瞳孔の細い瞳が細められると、右耳が背後の音を拾ったように動いた。


 「乗りな!話は移動しながらでいいだろ。こんなところで立ち往生は勘弁だ」

 豹のお兄さん?は荷台を指さし、俺を促した。俺が反応できずにいると、幌の裾を持ち上げて女性が顔をだしてきた。


 「どうしたの?」

 「何者かはわからないが、困っているようだ。乗せていってもかまわないだろ?」

 豹の頭をもつ男は、その女性に声をかけた。


 声をかけられた女性は、俺の方を見て、警戒もせずおいでおいでと手招きをした。

 「急いだ方がいいわ、あなた、こっちに乗りなさい」

 女性に促されるまま幌をめくって荷台の中へ入った。


 中には二人の子どもと赤ちゃんを抱いたもう一人の女性がいた。

 ウン。女、子どもがいるなら、大丈夫だろう。豹の頭にはびっくりしたが、マスクとか仮面とか、そんな物なのかもしれないし。


 「良いわ。出して」

 女性が声をかけると御者台に戻ったらしい豹の頭の男が馬に合図を出した。


 「ウィルの馬車に拾われるなんて、あなた運がいいわ」

 女性は俺に向かって笑顔を見せた。


 「どうしてあんなところに一人でいたの?それに…その身なり」

変わっているわね。といいつつ、俺の服を手にとってひっぱったりして見ている。


 「わ!ビックリした。この服…伸びるなんて…」

 彼女が引っ張って驚いたのはジャージだ。


 「こんな生地、見たことないわ。あら?そちらは剣?…木の棒?」

 彼女は竹刀を見て呆れたように言った。


 「木の棒なんかで、よくアジャール草原を突っ切ろうだなんて考えたわね。しかもその軽装備で…」

 その時、車輪の音と、蹄の音が変わった。そして揺れもさっきよりはマシになる。


 「ふぅ。やっと街道にたどり着いたわ。ここからは道がよくなるからね」

 そういう彼女は歳のころは20代半ばくらい。ローブのようなものを身につけ

脇には杖のようなものが置いてある。


 「私はライラ。砦から呼び出されてリスボレイの街からきたの。あちらは砦にす む医師のご家族のリラ様。御者をしているのは豹人族のウィルね。あなたは?」


 ――豹人族って言ったよ!この人!


 さっきの人のアレはお面とか、マスクではないのか!


 「…アリサです。気がついたら、草原にいました。ここは…どんなところですか?」

 誰も名前のみで苗字を名乗っていないため、俺も名前だけを、にする。

 この世界の人は出会ってすぐに自己紹介をし合うのが普通なのか?

 それとも俺が変で気になって、名前を聞きたいから名乗ったのか?


 医師夫人のリラ様はその場で軽く会釈してくれた。

 会釈は共通なのか…。


 「どんなところって…私達はアジャール草原の最果てのアジャールの砦にいく道中なのだけれど、…アジャールの砦は人族が生活できる最後の場所よ。砦より外側は魔獣や魔族の住む未開地が拡だけで人は住めないわ…ってこんな事も知らないの?」


 ちょっと質問が変だったため、怪訝な顔をしつつライラが説明してくれる。

が、どうしたらいいのだろうか。

 素直に異世界人ですって…言えないわな。


 「…どうも記憶が曖昧で…」

 俺は定番「記憶喪失」を装った。


 「まぁ。それは大変」

 彼女はそれを信じたようだ。

 なんだかデキレースのようで気持ち悪いな。

 てか、なんで言葉が通じるんだろう。


 「とりあえず、砦に行って、それからウィルにまかせたらいいわ。

 彼は『砦のえらい人』だから」


 それから、俺をしげしげと見て言った。

 「あなたは外国の人かしら?見たこともない服装だし、顔立ちもワルシャールの国の者とも違う感じだし」


 ――この国は『ワルシャール』っていうのか。

 たしかに目の前の女性の顔立ちは日本人っぽくない、というか東洋人でもない感じだ。彫りが深くはっきりとした顔をしている。

 そしてなにより美人だ。


 赤ん坊がぐずりはじめて、リラ婦人とライラは二人がかりであやしはじめた。

どうやら大の方だったらしく、バックから布を取りだし世話をはじめた。


 ――紙おむつじゃないんだ。やっぱり…

 俺の「嫌な予感」が当確と告げていた。


 リラ婦人がオムツを替え終わって、赤ちゃんの背をポンポンとかるく叩きながら子守唄を歌いはじめた。

 赤ん坊は、自分の握った手をちゅぱちゅぱしていたが、だんだんとろーんとしてきた。

 ライラは、そんな二人を微笑ましそうに見ている。

 子ども好きなんだろうか。


 俺は、ガタコトという馬車の揺れに身をまかしている内に、昼間の疲れからか眠くなってきてしまった。

 意識がとぎれる前に、ふわっと何かが身体にかけられたのを感じた。



 草原で野宿をするはめにならなくて本当によかった。

 夜になって急激に気温が下がってきたように感じるからだ。

 俺は、かけられた何かを無意識に肩のあたりまでかぶりなおし、眠りに落ちていった。



 抑えられた話し声で目を覚ました。


 「悪いな。途中、戦闘になって遅れてしまった。…なぁに、どうってことないよ」


 そして何かやわらかいものが頬にあたるのに気がついた。


 誰かが、すごく近いところで誰かとしゃべっている。


 「・・・うるせーな。…そんなんじゃねーよ。は?…ばかいうな」


 半覚醒状態で頭がフラフラする。


 「…ウチにはばーさんがいるから平気だよ。部屋もあまってるしな。じゃあな」


 すっぽりと身体がくるまれていてあたたかい。


 それにしても、この肌触りのいいモノは何なんだろう。


 俺は、それに頬をスリスリする。


 「寝ぼけてんのか?じきに着くから大人しく寝てろ」


 言われて再び眠りへと沈んでいく。

 ――乱暴な口調の中にもやさしさが声に滲んでいたから。



はじめての投稿です。

いろいろ至らない点があるかと思いますが、よろしくお願いします。

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