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海を越えた破綻者  作者: パトラッシュ
洛陽の決戦
94/132

94話

 復興作業の進む洛陽では日夜を通して炊き出しや、焼け落ちた家屋などの修復工事が行われていた。

 皇帝不在により城の修復は後回しにされ、各諸侯はまず民の生活を取り戻すべく働きかけていたのだ。


 そんな洛陽の様子を、遠く離れた山岳から見詰める影があった。

 街から街へと流離う旅人に扮した李鳳である。




【李鳳】


 クソっ……あの新旧ファンタジスタ共め、嗅覚はハンパじゃないな!

 証拠隠滅(カレー)を図る前に発見されるとは……迂闊だったな。

 毎度毎度想定外の行動をしてくれる、クックック…………まぁ、いっか。

 遅かれ早かれマンセーにはバレるんだし、“御土産”も沢山あるんだし……許してくれる……よな。



 李鳳にしては珍しく多少の不安を抱えていたのである。



 しっかし、李儒にはまいったねェ。

 第三のファンタジスタに成りかねない存在だけに面倒この上ない……。

 俺が氣に長けてなかったら絶対撒(ま)けなかっただろうな。

 勘か嗅覚かは分からんが、行く先々に出没しやがるってのは恐怖でしかなかったよ。

 ククク……乙女心と秋の空って言うしな、さっさと心変わりしてくれる事を祈るとしよう。


 それより問題は、これからだな……。

 俺は主人に見捨てられた哀れな軍師だからなァ、クヒャヒャヒャヒャ!

 このアドバンテージは大事にせねば……おちょくるには、最適のネタだからな!

 マンセーにはいざとなったらアホ毛魏牛直伝の土下座だ、クフフフフ……。

 だがなァ、このまま“普通”に公孫賛の下に戻るんじゃ芸がないしなァ。

 クックック……もう少し練るか。



 今後の展望と如何に楽しむかを思案し、愉悦に浸る李鳳であった。




☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆




――洛陽――


 炊き出しを行う屋台の側で、グゥゥという腹の虫が鳴いていた。


「にゃぁ……お腹減ったのだ……」

「はぅぅ……お腹空いたねぇ……」


 昨夜から何も食べていない張飛と劉備は、空腹でひもじい思いをしていたのである。

 自業自得な為に誰にも文句を言えない状態なのだ。


「お姉ちゃんが止めてくれないのが悪いのだー」

「えぇ違うよ~、鈴々ちゃんが勧めたのがいけなんだよ」


 ぶつけ所のない不満を互いにぶつけ合う両者。


「お二人……もしかして喧嘩ですか、もう一食抜きたいのですか?」


 そこへ再び諸葛亮という名の雷が落ちた。


「ち、違うのだ! 鈴々達はとっても仲良しなのだ!」

「そ、そうだよ! ご、誤解だよ、朱里ちゃん!」


 手を取り合って仲良さをアピールし、懇願する張飛と劉備であった。

 しかし、鬼と化した諸葛亮の説教は続く。

 その手には食事を載せた膳が持たれており、2人への配給だと分かる。

 お預け状態で叱られる2人は正座し、この拷問に耐えるのだった。



「ちょ、ちょっと可哀相だな……」

「致し方ござらん。あれも身から出た錆ですからな」


 公孫賛と趙雲も炊き出しを手伝いながら諸葛亮の説教を傍観していた。


 長い長い説教が漸く終わり2人は、犬のように尻尾を振って遅めの朝食にパクつくのであった。

 やれやれと言った表情で諸葛亮は戻って来た。

 公孫賛は笑って労(ねぎら)う。


「ははは、ご苦労さん」

「ふぅ……鈴々ちゃんだけならまだしも、桃香様まで……困ったものです」

「少し灸が過ぎたんじゃないか?」

「優しさと甘やかしは違います。桃香様にはソコの所を分かって頂かなくてはいけません!」

「そ、そうか……そうだな」

「そもそもですね――!」


 普段と違って迫力のある諸葛亮に公孫賛と趙雲でさえ押され気味である。

 張飛と劉備もこちらを窺ってビクビクしていた。


 誰か空気を換えてくれと皆が思っていると、そこへ声が響く。


「おー、ココに居たのか。結構探したんだぞ」


 声の主は馬超であった。

 皆が一斉に話し掛ける。


「よく来たな!」

「待っておったぞ!」

「いらっしゃいなのだー!」

「ようこそ~!」

「お、おお……そ、そんなに歓迎してくれるとはな。ははは……」


 皆からの大歓迎に若干引く馬超。

 それを察して趙雲が落ち着いた口調で尋ねる。


「それで……探していたとか言っていたが、どうしたのだ?」

「実は公孫賛か劉備に頼みたい事があってな……」

「へっ? 私達に……?」

「ああ、紹介するよ」


 そう言うと、馬超は自身の後ろに居た三人を前に出す。


「こっちから月、詠、妖光だ」

「月と申します。初めまして」

「詠よ。よろしく」

「妖光です。宜しくどうぞ」


 自己紹介をした三人がお辞儀する。


「実はこの三人を預かってはくれまいか? ワケあって西涼では住めなくなってしまってな、洛陽に出て来て董卓の下で働かされてた侍女達なんだよ」

「ふむ……そのワケと言うのを聞いても?」


 「いいよ~」と即答しそうになった劉備の口を塞ぎ趙雲が問い返した。


「……涼州には董卓を支持してた豪族らも少なくなくてな、そいつらに面が割れてるせいで見つかると……面倒なんだよ」

「なるほど。報復染みた真似をされんとも限らん……と?」

「ああ、だから無理を承知でお願いしたいんだ。あたしもお前達なら安心して任せられる……だから、頼む」


 馬超に乗じて他の三人も頭を下げる。


「勿論いいよ! 私達は困ってる弱い民の味方なんだし……是非、私達の所に来てよ~!」


 趙雲の手を押し退けて劉備が声を高らかに宣言する。


「私の所でも構わないが、桃香がそこまで言うなら譲ろう」

「ありがとう、白蓮ちゃん! じゃあ決まり、ね!」


 そう言うと劉備は三人それぞれに握手し始めた。

 押し付け合いならまだしも、ここまで歓迎されると思っていなかった三人は、ハニカミ笑いを見せる。

 そんな三人を横目に馬超は軽く手を挙げる。


「じゃ、宜しく頼むな」

「「「宜しく(お願いします)」」」

「は~い。宜しくね~」


 そのまま三人は炊き出しの手伝いをする事になった。

 お説教地獄から解放された事で劉備は逆に、三人に感謝すらしていたとかいないとか。




☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



――洛陽城外・医療施設――


 負傷兵を収容した仮設天幕には、勢力の垣根を越えて様々な兵士達が駐留していた。

 その中には呂布を相手取って負傷した丁奉の姿もある。

 側には誰もおらず一人暇そうに横になっている丁奉に忍び寄る影があった。


「まいど~」

「アッチィィッ!」

「ニッシッシッシッシ……元気そうやん、仙花が倒れたて聞いてウチ心配しとったんやで」

「姐御……ってか、コレ何だよ?」


 丁奉は自分の頬っぺたに押し当てられていた温かい物体を指して問う。


「めっちゃ旨い肉まんやで! アンタ昨日からロクなモン食べてへんやろ思てな……店のオッサンに勉強してもろて、仰山買うてきたから遠慮せんと喰いや」

「ウグッワチッワジッ」


 そう言って笑いながら李典は肉まんを丁奉の口に押し込んだ。

 押し込まれた丁奉は熱さと格闘しながら飲み込んでいく。


「何言うてるかサッパリやわ。お茶もあるよってに、これ飲んで一服しィや」


 他人事のようにシレッと言い放った李典は、丁奉にお茶を差し出した。

 ジト目で睨む丁奉であったが、忍耐勝負では勝てないと踏んで渋々お茶を受け取り口をつけるのだった。


「ふぅ……急に来たかと思えば、姐御は変わらねーな」

「当然やん! ウチを誰や思うとるん?」

「アッハッハ……ダンナに聞いたぜ、“超・李典”様だっけか」

「ニッシッシ、ちょっと調子に乗ってもたわ。あ~、めっちゃ恥ずいわ」


 懲りた様子のない李典では説得力が無かった。


「……それで、何か言いたい事があるんじゃねーのか?」

「あっ、分かるか?」

「姐御の悪い癖だぜ。そーやって勿体ぶって、相手に喰い付かせてもなかなか話さねーのは……!」

「イヤやわァ、ウチそないに性格悪ないでェ。誰かと勘違いしとるんとちゃう?」


 ニヤニヤする李典を見て丁奉は溜め息を吐く。


「はぁ……それで、本当に何の用なのか教えてくれよ」

「しゃ~ないなァ……可愛い妹分の頼みやさかい、教えたるわ。伯雷が死によった」

「………………はっ?」


 丁奉は間の抜けた表情をしたまま口を開けていた。


「せやから、伯雷が死んだっちゅうたんや」

「…………ふーん、どうしてまた?」

「賊に殺されたらしいわ」

「…………姐御、何の冗談だ?」


 丁奉は表情を一変させ真剣なモノに変わった。

 李典は相変わらず真顔である。


「信じてへんの?」

「信じられるワケねーじゃん」

「孫策から聞いた言うてもか?」

「オレはあの糞野郎の死体を目の前に持って来られたって、絶対生きてるって疑うぜ!」


 李典の告白に対して丁奉も真顔で返す。

 すると、李典が顔を伏せた。


「プ……プクク……ナハハハハハハハ、やろ! せやろ! ウチもそない思うわ!」


 突然大笑いを始める李典。


「……はぁ?」


 ついていけず疑問だらけの丁奉。


「ハハハハハ……ハヒハヒ……ハァハァ、ああ……やっと笑えたわ。孫策がめっちゃ真剣な顔で話しよるからな、一晩真面目に考えてもうて損したで!」

「なんだってんだよ……?」

「スマンスマン、堪忍やで。ちゃんと説明したるさかい」


 一応は悪いと思っていた李典は、孫策から聞いた話と自分の知っている情報を在りのまま説明した。



「ふーん、まぁ仮死状態なら反撃も出来ねーわな……“普通”は、な」

「せやなァ……伯雷の事をよう知らん“普通”の人らは死んだ思うんやろな、ニッシッシ……!」

「あの糞野郎をよく知るオレらは“異常”の仲間入りってか、胸糞悪いぜ!」

「ちゃうで、仙花。ウチらは“特別”なんや!」


 自信満々の顔で宣言する李典に呆れる丁奉であった。


「……何か違いあんのかよ?」

「ウシシシシ、そっちのがカッコエエやん!」

「……はぁ、わーったよ。オレらは晴れて“特別”の仲間入りってワケだな」

「天下無双に喧嘩売るアンタはなかなかの“特別”やで、ニッシッシ」

「ありゃ楽しかったな……また、ヤりたいモンだぜ」


 悦に浸る丁奉を見て、今度は李典が呆れる。


「好きモンやなァ……ウチには理解でけへんわ」

「なんでだよ……聞いたぜ、姐御もあの張遼と引き分けたんだろ?」

「……見逃したったんや。引き分けたワケちゃうで!」

「アッハッハ、姐御も十分負けず嫌いじゃねーかよ! それでこそ姐御だぜ!」


 大いに喜ぶ丁奉を見て、最初は呆れていた李典も笑みをこぼす。


「もう一個大事な話があるねん」

「……なんだよ、改まって?」

「ウチな、今回の遠征から戻ったら暇貰おう思てるねん」

「……公孫賛の下を去るってコトかよ?」

「せや。伯雷の生死は別にして考えた結論なんよ。伯珪はんのコトが嫌いになったワケやあれへんねん、ただ信用は出来ても信頼出来ひんようになってもてん」


 李典は真面目な顔をして肉まんを食べながら話していた。

 丁奉は心の中で李典こそ余程の特別だと思っていたのである。


「いいんじゃねーの。あの糞野郎だって絶対素直に戻って来るハズねーぜ?」

「ニッシッシ、よう分かっとるやん。伯雷の“普通”はちょっと“特殊”やさかい、待っとるだけやとアカンねん……仙花、付き合うてくれるか?」


 懇願するのではなく信頼した目で訊ねる李典。

 それを見詰め返し不敵に笑う丁奉。


「誰に言ってんだよ。オレは姐御の妹分だぜ!」

「おおきに。ほんでな……陳登をどないしよか迷てるねん、アンタがおらんようになったら困るやろ?」

「ああ、それなら大丈夫だと思うぜ。ダンナは今回袁紹を守ったって功績が認められて、専属の近衛が付くらしいんだよ」

「ほォ、そら大したモンや……けど、ホンマなん?」

「まぁ、姐御の想像通りだよ。でも近衛の件は本当だぜ……それに怪我が治ったら顔良がたっぷり説教するとか言ってたらしいからさ、逆に助かったぜ」


 陳登のあっちへパタパタ、こっちへパタパタのコウモリっぷりを知る李典にとって、素直に袁紹を守ったなどと受け取れないのであった。


「了解や。ほんならアンタは時機見て抜け出してウチんとこおいで」

「ああ分かったぜ。それにしても……あれだけ拘ってた将軍職をあっさり捨てるなんて、姐御の器もたいがいだよな」

「あっ!? しもたァ、将軍やのうなるんやった……せっかくエエ給金貰える思てたのに」

「おいおい……」


 本気で悔しがる李典に焦る丁奉。


「まぁエエわ。金は伯雷にたっぷり稼いで貰おうやないか。ウチらは野に下って一から出直しや」

「差し詰め新鋭の義勇軍ってとこか?」

「義勇軍なァ……うーん、別にウチらは義の為に立ち上がるワケちゃうからな……どっちか言うたら娯楽の為やし」

「ハハハ、娯楽の為に設立する軍隊なんて聞いた事ないぜ。んじゃーさ、『李遊軍(りゆうぐん)』ってのはどうよ?」

「ウッシッシ……それ採用や! ウチらは今日から李遊軍や!」


 李鳳は笑う為、李典は絡繰の為、丁奉は強さの為、それぞれの想いを実現させる部隊の馴れ初めであった。





最後まで読んで下さり、ありがとうございます。

ご感想やご指摘があればドシドシお願いします。

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