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海を越えた破綻者  作者: パトラッシュ
洛陽の決戦
92/132

92話

――洛陽――


 董卓自害の報は城の出火も伴って瞬く間に広まった。

 董卓の正体を知らず、悪政に苦しめられてきた民衆は大いに喜んだのである。

 事情を知る一部の者達だけが、苦々しい表情をするのだった。


 そんな中で、劉備達は飢えに苦しむ民への炊き出しを行っている。


「鈴々ちゃーん、こっちのお鍋少し味が薄いからお塩持ってきてー!」

「了解なのだ。お姉ちゃん」


 民衆には粥や鍋といった消化に良さそうなモノばかりを作っては与えていた。

 これは医療の知識を備えた諸葛亮の意見を採用した為である。

 適度な塩分と水分、それに体の温まるモノと考えた結果がコレだった。


「持って来たのだ!」


 元気一杯に塩を手渡す張飛。


「ありがとー、チョイチョイと足して……うん、これでヨシ!」

「おおー、美味しそうなのだ!」

「でしょ! ふふふ、結構自信あるんだよ~」


 自慢げに胸を張る劉備。

 すると張飛が涎を垂らしそうな勢いで鍋を凝視し始めた。


「うう……ホントに美味しそうなのだ、食べてみたいのだ」

「だ、駄目だよ、鈴々ちゃん! これは都に居る皆の為に作ったんだから……!」

「鈴々も今は都に居る皆の一人なのだ!」

「えっ? そ、それは……そうだけど……」


 考え事をする上で空腹は良くないとされるが、張飛に関しては空腹時の頭の回転の方が、満腹時を遥かに凌駕していたのである。


「それに匂いは美味しそうだけど、ホントに美味しいかは食べてみないと分からないのだ! 不味かったらどうするのだ!?」

「ええーっ、絶対美味しいモン!」

「食べてみないと鈴々は信じないのだ!」

「うぅー、どうしよ……」

「味見をして確かめるのだ! お姉ちゃんも皆にホントに美味しい物を食べさせた方が、嬉しいに決まってるのだ!!」


 如何にも名案を閃いたとばかりに提案する張飛であった。

 劉備はまんまと言いくるめられてしまう。


「……そっか、そうだよね! 鈴々ちゃんの言う通りだよ! 二人で味見してみよっか」

「おうなのだー!!」

「「いっただきま~す」」


 そう言って劉備と張飛は鍋をがっつく。

 「なるほど」「ふむふむ」と然(さ)も分かった風な言葉を連呼し、モグモグ食べ続ける二人であった。

 半分程を食べたあたりで二人は食べるを止め、合格のサインを出したのである。


「美味しいのだ、これなら皆喜ぶのだー!」

「うん、これなら大丈夫だよね!」


 満腹感と満足感で手を取って喜び合う二人。


「……お二人、一体何をされているのでしょうか?」


 そんな二人の背後から凍えるような冷気を帯びた声が響いた。


「しゅ、朱里ちゃん!?」

「にゃにゃ、朱里っ!?」

「何をされていたのか……と、聞いているんですよ!」


 絶対零度の視線を浴びせる諸葛亮。

 鍋で温まっていたハズの二人の体は一瞬にして冷め、冷や汗まで垂れてくるのであった。


「ち、違うのだ! 鈴々達は味見をしてただけなのだ……」

「そ、そうなの。ちょっと味を確かめただけなんだよ……」

「へぇ……ちょっと味を確かめるのに、お鍋半分食べないといけないようなバカ舌なら……私が引き千切ってあげますよ! さぁ、舌を出しなさい!!」

「「ひぃぃ……ごめんなさ~い」」


 諸葛亮の放つ狂気と冷気にやられた二人は、互いに抱きしめ合って震えていた。

 李鳳がいれば目から冷凍ビームを放つ諸葛亮が見えたであろう。


 その後、罰として夕食抜きを宣言され馬車馬のように働かされたのであった。




☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



 洛陽城内に設置された火の見櫓(やぐら)の上に公孫賛は居た。


「ここにおられたのか、一杯如何かな?」

「……星か」


 董卓兵の鎮圧や街の復興に関して粗方指示を出し終わった趙雲が、酒を持参して来たのである。

 御猪口(おちょこ)を渡し酒を注ぐ趙雲。

 「おっとっと」と受ける公孫賛は苦笑気味である。

 そして二人して杯を交わす。


「「乾杯」」


 そう言って一口で杯を空けるのであった。


「なかなかの見晴らしですな」

「ああ……これで、良かったんだよな……?」

「…………ふふふ、民達のあの笑顔をご覧下され。伯珪殿は為すべき事を成されたのですぞ!」


 感傷に浸っていた公孫賛に趙雲が励ましの言葉をかけた。


「そう……だな、あの顔が見たかったから頑張れたんだモンな」

「そうですぞ。伯珪殿の活躍は大きく評価されておるさ」

「…………」

「……何か心配ごとでも?」


 依然(いぜん)表情の優れない公孫賛に趙雲が尋ねた。

 心当たりならば幾つでもある。

 関羽の事、李鳳の事、李典の事、この連合で魅せた活躍ぶりの背景には、少なくない犠牲があったのだ。


 公孫賛はゆっくりと頷き口を開く。


「我が兵達の事だ……!」


 趙雲の予想とは違う答えが返ってきた。


「騎兵隊の事でござるか?」

「ああ。今回奴らには、苦労と我慢だけを強いてしまったからな……」

「……なるほど、憤りを感じておる者も少なくないと言うワケですな?」

「恥ずかしい話だがな、洛陽に入るまで気付きもしなかったよ……たまたま騎兵隊の連中が話してるのを耳にしてな、衝撃を受けたよ」


 公孫賛の表情が曇る。


「そうでしたか……確かに、目に見えて目立つ功績は他所の勢力が上げておりますからな。伯珪殿の功績も充分立派なものでしょうが……全ての兵が、見えないモノを見えるワケではないですからな。いっそ全部を話してみては如何か?」

「いや、私から話すつもりはない。星も他言無用だ」

「ほう……それはまた、どうしてかな?」


 意外な返答に趙雲が問い返した。


「私は兵達の頑張りを知っている。目立った活躍があったワケじゃないが、他の勢力よりも頑張っていたと……この私が認めているんだ。見合うだけの褒美が与えられるか分からんが、出来る限りの事をしてやるさ」

「ふふふ……また貧乏くじを」

「性分だよ。好きでやってる事だし、苦には思わん」

「やれやれ、そのお人好しは天下一かもしれぬな。はっはっはっはっは……!」


 趙雲は大笑いして再び杯に酒を注ぐのであった。




☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆




「あれェ、先客がおったんか?」


 董卓御殿の焼け爛(ただ)れた厨房には桃髪の褐色美女がいた。


「あら、貴女は……確か、李典だったかしら」

「そういうアンタは孫策やんか、何しとるん?」


 訪問者は李典であり、先客は孫策であった。


「ちょっちイイ匂いがしてたからねェ。焼け焦げちゃってて元が何なのか、もう判んないけれど……」

「ウチにも見せてェや」

「……どうぞォ」


 李典は鍋の中にある真っ黒に焼け付いたコゲを指で掬(すく)い、匂いと味を確かめる。


「ペッ! 焦げ付いとるけど……間違いあれへんな」

「何が間違いないの?」

「…………」

「ちょっとォ、教えてくれてもイイじゃない」

「丁度エエわ。ウチもアンタに聞きたいコトがあってん」


 ブーブーと文句を言っていた孫策が目を丸くした。


「聞きたいコト? イイけど……高いわよ? フフフ……」


 本気とも冗談とも思える笑みで孫策は語る。

 李典はそれに正面から堂々と応えた。


「ニッシッシ……コレで、どないや?」


 そう言って李典は掌大(てのひらだい)の巾着袋を出したのであった。

 孫策がそれを受け取って中身を確信すると、驚愕の表情に変わる。


「こ……コレって……ッ!?」

「どないや? それでも足りひん言うつもりかいな?」

「……どこでコレを?」

「ココに来る途中に井戸の脇に落ちとるんを拾ったんや」

「……そう、充分よ」

「ウッシッシッシッシ……ほな、話してもらおけ……伯雷のコト!」


 孫策は再び表情を一変させたのであった。




☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆




――連合軍・本陣――


 一人の少女が天幕の中で目を覚ました。


「う……うぅ……ここ、は?」

「おや、もうお目覚めですか。ここは医療隊の本部ですよ、丁奉さん」


 目を覚ましたのは丁奉であり、答えたのは陳登であった。

 それを聞いた瞬間、丁奉はガバッと上半身を起こして声を上げる。


「呂布は!? イテテテ……呂布の奴はどうなったんだ、ダンナ?」


 開口一番に自分よりも呂布を尋ねる丁奉に、陳登は苦笑する。


「ふふふ……落ち着いて下さい。傷は深くありませんが、浅くもないんですから。呂布殿は退却されましたよ。こちらに死者は出ておりません」

「そ、そうか……呂布は、退いたのか……」


 丁奉の痛む体が呂布との激闘を認識させていた。

 陳登も表情を真面目なものに変えて話す。


「ええ、退いてくれなければ……我々も危なかったですからね。流石は天下の飛将軍です」

「夏候淵達がいなきゃ……10回は殺されてたなァ、クハハハハ……ホントに最強だよ」


 死んでいたかもしれない事実を丁奉は笑い飛ばしている。

 痛む体で嬉しそうに笑う丁奉を陳登は呆れた顔で見ていた。


 実際問題として、呂布が退かなければ袁紹の命は危うかったであろう。

 顔良や文醜も一刀両断されていた可能性が極めて高いのである。

 そう言った意味では、やはり袁紹の強運は流石と言うべきなのだ。



 そして、忘れてはいけないのが袁術である。


 彼女は終始隠れて観戦していたにも関わらず、最終的には並み居る騎馬に潰されかけ、土埃まみれで気絶してしまい、結局洛陽入りはダントツでビリッケツになってしまったのだ。

 そう言った意味では、やはり袁術の不運も流石と言うべきなのかもしれない。











最後まで読んで下さり、ありがとうございます。

感想やご指摘がありましたら宜しくお願いします。

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