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海を越えた破綻者  作者: パトラッシュ
洛陽の決戦
90/132

90話

――洛陽――


【李鳳】


 調子に乗って笑う李鳳は墓穴を掘っていた。

 3人の女性が揃って声を上げる。


「「「……李鳳?」」」

「……んっ? ええ、李鳳先生と呼んでくれて構いませんよ。ククク……」

「「「…………」」」


 不思議な顔をして見てくる董卓らに違和感を覚える李鳳。


 なんだ……?

 皆揃って目を丸くして……どうしたんだ!?

 キョトンとした賈駆の顔は笑えるな、クックック……。



 李鳳は自分の犯したミスに気付いていなかった。

 眉を顰める李鳳に賈駆と李儒が声を上げる。


「アンタ、もしかして……!?」

「匿名殿、李鳳というのはまさか……!?」


 それを聞いた瞬間、李鳳は覚った。

 自身がとんでもないミスを犯している事に漸く気付いたのである。


 李鳳を見る賈駆や李儒の目はとても真剣なモノに変わっていた。

 真面目な表情を浮かべて李鳳に強い視線を送っているのだ。


 Holy Shit!!(なんてこった!)

 やっべェ……やっちまった!

 ウッカリ口滑らせちまったよ……調子に乗ると痛い目を見る典型パターンじゃんか。 

 ハァ……ってか、どうしよ……自分でバラシちまうなんて無様だな、クフフフフ……。

 おいおい、すっげェ目で見てくんじゃんねーか……こりゃあ、完全にバレたな。

 良い言い訳も浮かばないし、万事休すってか!?


 賈駆らの表情を見て嘘が露呈したと覚る李鳳。

 李儒ですら驚愕の表情を向けていた。


 ちぇッ、ゲームはここまでか……トンズラするのが利口かねェ?

 まっ、あと数時間もすれば結局離別すんだし……ちょっと早まっただけだよな。

 近衛は4人か……強行突破出来るかは、微妙な人数だなァ。

 武器が短刀だけってのが一番のネックだな……刀剣の一つでも拝借しておけば良かったな。

 ……どうする、一撃当てて即引くのが無難か……殺すよりは深手を負わせる方が時間稼げるか。


 李鳳は面倒臭いという理由で弁明するコト自体を諦め、逃げる算段を練り始めた。

 いつ捕縛の命令が飛ぶかと警戒しつつ、足に力を籠める。


 まず最初に董卓目掛けて飛び込み、間に割って入って来るだろう近衛2人に攻撃すっか。

 頚動脈を狙いたいが……腕の動脈の方が狙い易いから、そっちにするかな。

 賈駆は出来ても自衛くらいだろ……問題は、李儒と後方に控える近衛2人だろうな。

 李儒って強いのか!?

 放ってるオーラが不気味なんだよなァ……苦手なタイプだと、臆する俺が居るなァ。

 まぁ……チキンハートは養父譲りなんだがな、ククククク……!



 李鳳が不穏なコトを考えていると、李儒の表情が一変した。

 飛び切りの笑顔に変わり、嬉々として叫んだのである。


「真名ですね! うわぁ、感激ですぅ。私達に真名を預けてくるのですね! ねっ!」

「こんな時にアンタは……いえ、こんな時だからこそ……かしら?」

「はっ? …………アア……ソウ、デス、ネ」


 突然の展開にカタコトで答える李鳳。

 益々喜ぶ李儒は嬉しくて堪らないといった様子で狂喜乱舞している。


「じゃあじゃあ、私の真名も受け取って下さい。私の真名は『妖光(ようこう)』です! 李鳳先生、宜しくお願いしますゥ!」

「そ、そうですか……宜しく、どうぞ……ハァ」

「ウフフ……もう、他人とは言えませんね!」


 キャーと喜ぶ李儒。

 当の李鳳はと言うと、精神的にやられていた。


 うげェェ……余計に面倒なコトになっちゃったかも……ハァ……。

 そんな気なんてコレッぽっちもなかったのに、その氣の色は何だよッ!?

 気色悪ィ……クックック……つまんねェ!!


 表情は澄ましているが、内心荒れている李鳳。

 すると、董卓と賈駆が銘銘に口を開く。


「次は私ですね、真名は月と申します。李鳳先生、良策や責任の取り方についてのご指導、ありがとうございました。おかげで私も生きて償っていこうと思えるようになりました」

「えっ? はぁ……そうですか」

「フン、月を改心させた事は評価してあげるわ……し、仕方ないからボクの真名も預けてやるわよ。ボクの真名は詠よ、好きに呼びなさい」

「そ、そうですか……ハァ……」


 頭を下げて丁寧に語る董卓とぶっきらぼうに語る賈駆。

 ただただ驚くばかりの自業自得な李鳳であった。


 What the hell?(どうしてこうなった?)

 どいつもこいつも……真名なんて面倒なモン、預かりたくなかったのに!

 ちょっとおちょくって笑って去るつもりが……本名がバレたのは想定外だったなァ、俺のせいだけど!

 とにかく一刻も早くココから退散するに限るな……とりあえず、先立つモノだけは貰っておくか。


 李鳳は頭を抱えたくなっていたが、何とか持ち直していた。

 そして平然を装ってその場を去ろうと口を開く。


「で……では、私も荷物をまとめてきますので、一旦失礼しますね」

「あっ、お手伝いしますよ?」


 無邪気に提案してくる李儒に戦慄を感じる李鳳であったが、丁重にお断りする。


「いえ、そんなに多くありませんので大丈夫ですよ。お気遣いには感謝します」

「そうですかァ? それなら良いのですが……人手が必要な時はお声をかけて下さいね、李鳳先生!」

「……承知」


 逃げるようにして広間を後にする李鳳。


 広間に残った賈駆は李鳳の姿が見えなくなったのを確認して口を開いた。


「少し意外だったわ……まさか、真名を預けてくるなんてね」

「そうですよね。とっても感激ですゥ!」


 はしゃぐ李儒を微笑ましく見つめる董卓が口を開く。


「私も意外でした。責められてるのかと思いきや『死んで逃げようとするな』と諭して下さるとは……不思議なお方ですね」

「振り回されたけど、落ち着く所に落ち着いたんだからボクは納得よ。後は……無事に逃げ切るだけ」

「うん……そうだね」


 董卓と賈駆は互いに見詰め合い頷いた。

 その後、賈駆は伝令に指示を飛ばし、身代わりとなる背格好の似た遺体を運ばせ、屋敷に火を放つ準備をさせる。

 自分達も李儒と同じ侍女の衣装に着替え、着ていた服は身がわりの遺体へと羽織らせた。


 慌しく準備が進められる中、賈駆の大声が響き渡る。


「屋敷全体にも火を放つのよ。皆、最低限の荷物のみを持って逃げなさい。万一敵に見つかったら大人しく降りなさい。これは命令よ!」


 その命令に従い側近や侍女連中も皆、逃げ出す準備を着々と進めていた。



 一方の李鳳はと言うと、荷物と呼べる荷物は持ち合わせていなかった。

 賊モドキの襲撃に遭い、ほぼ裸一貫で洛陽に乗り込んできたのだから当然である。

 では現在何をしているかと言うと、金目のモノを物色しているのだ。



 ロクなモンがねェ、どんだけ貧乏所帯だったんだっつゥ話だよ。

 私財を投げ売ったってのは本当らしいな……まっ、お宝は諦めて武具の素材になりそうなモンだけでも回収しておくか……マンセーが喜びそうなモンを……。

 相談せずに関羽の施術したコト怒ってんだろうなァ……しかも、黙って居なくなったのも俺のせいとか思ってスネてんだろうなァ。

 マンセーはアレでなかなか根に持つタイプだし、言い掛かりは激しいし、理不尽な八つ当たりも多いんだよなァ。

 このまま普通に戻ったらチクチクチクチク俺をイビるに決まってる!

 マンセーはそういう器の小さい胸だけデカい人間なんだ……べ、別にビビってるワケじゃないぞ。


 マンセーには正攻法が通用しない時があるんだよ、その時のコトを俺はヒステリックモードと呼んでいる。

 ヒステリックモードのマンセーのイビりは尋常じゃない……酷い時は一晩中続くし、イビる為だけに発明した試作品を投入するクレイジーな一面がある女なんだよ。

 俺の安眠を邪魔する危険人物だからスレさせるのは拙いんだ……怒らせるのはイイけど、スネさせるのはダメな難しい性格をしている女なんだよ。

 だからと言ってビビってるワケじゃないぞ、今探しているのは発明の役に立ちそうな素材を提供する為であって……ご機嫌取りの貢物では決してないぞ。


 しかし女性のヒステリックほど不可解なモノはない、アレをやられると俺には『困る』というコマンドしか表示されなくり、ひたすら“それ”を連打するしかないんだ。

 だからね、穏便に済ませるのが一番……うん、コレ間違いない!!


 李鳳は屋敷内だけではなく、武器庫の物色も行っていた。


 さ~て……マンセーへの捧げ物を探しますかねェ。

 そうそう、マンセーの特性の一つに『オゴリ』と『贈り物』に驚くほど弱いというモノがある。

 嘘だろ!? ……ってスピードで機嫌が直るんだ!

 あの遼来来に貫禄勝ちする程のポテンシャルを秘めた愛らしい人材を、見す見す手放したくはないからな……気に入りそうなモノを厳選せねば!

 おっ、この甲冑はアリだな……むむっ、こ……これは……!?


 李鳳は壷に保管されていたあるモノを発見した。


 ラッキー、欲しかったんだよコレ!

 いやァ神のクソッタレめ、と思ってたけど……俺にも運が向いてきたのかなァ。

 いや、神はクソッタレのまんまだな……ここは、仏様に感謝しとくか、クヒャヒャヒャヒャ!


 神罰をも恐れぬ李鳳は高々に笑う。


 クックック……コレらを見せれば、きっとマンセーも……チョロいぜ!



 責任を取るとは懲りるコトだと少し前に語っていた男は、責任を取る気が一切無かったのである。

 それどころか何とか誤魔化して無かったコトにし、また宜しくやっちゃおうという魂胆なのだった。



 李鳳が屋敷中を物色していた頃、張遼が捕縛され、呂布も苦戦を強いられていた。

 そして洛陽にある4つの門のうち、一つが今まさに突破されようとしていたのである。






最後まで読んで下さり、ありがとうございます。

感想やご指摘がありましたら、宜しくお願いします。


Special Thanks:ウルヴァリン様

オリキャラ真名の名付け親になってくれました。

多大な感謝を贈りたいと思います。

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