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海を越えた破綻者  作者: パトラッシュ
虎牢関の攻略
61/132

61話

軍議の回想フェイズです


 時は諸葛亮から虎牢関攻略の作戦が告げられた時まで遡る。



「――――して、混戦に乗じて城門を攻め落とします」

「なるほど、また無茶を押し付けてきた袁紹軍にも少々痛い目を見て貰おうというわけでござるな」

「へぇ、さっすが朱里ちゃん!」


 策の中身を理解し趙雲が頷き、劉備も我が軍師を褒め称えた。


「問題なのは呂布将軍と張遼将軍をどう「待ってくれ!」……はい?」


 諸葛亮が策の続きを説明しようとした時、公孫賛が待ったをかけたのである。


「ど、どうしたの、白蓮ちゃん?」

「確かに、作戦としてはとても良い案だと思う。……だけど、これを実行するなら私は麗羽にもこの作戦内容を伝える」

「「「えっ!?」」」

「クックック……」

「あっちゃぁぁ……」


 劉備陣営は張飛以外の皆が目を見開いた。

 一方、李鳳は笑い、李典は呆れていた。


「ど、どうしてっ?」

「そりゃぁ、私だって麗羽には腹が立ってるさ。……だけど、それを袁紹軍の兵士達にぶつけるのは変じゃないか? ぶつけるなら麗羽本人か……董卓軍にしなくっちゃな……だろ?」


 自分で言っておいて恥ずかしくなり、照れ笑いする公孫賛。


 そんな公孫賛の発言を聞いて、劉備と関羽は憧憬の眼差しを強めた。

 張飛は照れる公孫賛を見て笑っている。

 趙雲も口元に笑みを浮かべていた。

 諸葛亮と鳳統も感銘を受け、ヒソヒソと策を練り直すのであった。



「……では、袁紹軍をも巻き込んでこの奇策を鬼策としましょう!」


 整ったようで、諸葛亮が説明を再開した。

 その表情は自身に溢れていた。余談だが、鳳統も隣で気持ち胸を張っていた。


 そうして今回の策が為されたのであった。

 通常の伝令以外にも李鳳は丁奉を通じて陳登に指示を送っていた。


 しかし、どうしても最終段階の詰めで最大の難関が待っている。

 董卓軍の2大将軍である呂布と張遼だ。


「天下の飛将軍の名は伊達ではありません。彼女は単独行動を好むようですが……もし対峙すれば、おそらく……愛紗さん、鈴々ちゃん、星さんの3人で共闘してもらっても……倒せるかどうか……。背後を突き、常時2人以上での攻撃を続けるのが良策かと思います」

「そ、そんなに強いんだ……?」


 諸葛亮の冷静な戦力分析を聞いて、劉備は顔色を曇らせる。


「大丈夫なのだ! 鈴々がどんな奴でもやっつけるのだ!」

「そうです、私とて正面からの一騎打ちで遅れなど決して取りません!」

「ふむ、私も背後からと言うのは……な。どれ程の強者か、手合わせが楽しみでござる」


 3人の猛将は頼もしい言葉を吐いて君主を安心される。

 しかし、それを笑い飛ばす人物がいた。


「クックック……、実に頼もしく……そして、愚かしい御言葉ですね」


 李鳳である。


「何がおかしいのでござるか?」


 普段冷静なはずの趙雲でもカチンッときたのか、声には怒気が含まれているのを李鳳は感じ取っていた。


「質問です。貴女は“将軍”ですか? それとも“武人”ですか?」


 何が可笑しいかを尋ねたら、逆に訊ねられて更に気分を害する趙雲だった。


「……両方、でござるよ」


「マンセー、貴女はどうですか?」

「ウチ? ウチは将軍に決まっとるやん」


 渋々答える趙雲と突如振られても堂々と言い切る李典。


「ククク、関羽殿と張飛殿は如何ですか?」


「わ、私か? 私は……私も両方だな、立場は将軍でも心は武人だ」

「鈴々もなのだ!」


 晴れやかな表情で答える関羽と元気一杯の張飛。


「そうですか……では、御三方は即刻将軍職を辞して下さい。今回の作戦の邪魔になりますので、剣客としてでも雇い直してもらって下さい」


 李鳳は3人を冷たくバッサリ斬り捨てた。


「なっ!?」

「にゃっ!?」

「……どういう了見だ?」


 関羽と張飛、それに他の面子も驚いた様子である。

 趙雲は静かな怒りを込めて李鳳に真意を問いかけた。


「言葉通りの意味です。天下の飛将軍と称される呂布を倒す為の作戦に……貴女方は邪魔だ、と言ったのですよ」


「我らの武を侮蔑する気でござるかっ!」


 李鳳の返答に趙雲の怒気が爆ぜた。

 諸葛亮と鳳統は怯えて李典の背後に隠れた。


「貴女方の武は充分認めていますよ。貴女こそ……諸葛亮殿の、“軍師”の献策を侮辱しておられるとなぜ気付かないのですか?」


「っ!?」


 李鳳の指摘に趙雲は次の言葉を飲んだ。


「ね、ねぇ、李鳳さん。わ、私にも分かるように説明してくれないかな?」


 劉備がおっかなびっくりに李鳳にお願いした。


「天下無双と名高い呂布との一騎打ち、“武人”であれば誰しも少なからず胸躍ることでしょう。……そうですよね、趙雲殿?」


「……無論、そうでござる」


 劉備に了承の旨を伝えることもせずに話し続ける李鳳のターゲットは趙雲である。


「最強の相手に己が鍛え上げてきた武がどの程度通用するのか、あるいはその相手を超えたい……そう考えるのは武に携わる者として当然の事だと思います」


「ではっ!?」


 愚かしいとまで言っておきながら、当然だとも言い放つ李鳳に激しく憤りを感じる趙雲。


「しかし、“将軍”ならば話は別です。策としての一騎打ちなら構いませんが、個人の感情や矜持を優先した一騎打ちであれば言語道断です。極端な話、ただの剣客であれば、いつ、どこで、誰とでも死合い、結果敗れて、野垂れ死んでも一向に構いません」


 皆思う事はあっても、言葉には出さずに今は聞き入っていた。


「しかし、“将軍”ならば話は別です。先の汜水関で起きた華雄将軍の一件が良い実例です。彼女が独断で暴走し、敗れた結果……どうなりました? 黄巾党よりは精強なはずの華雄軍があっさりと瓦解しました。我が軍では同じ事は起こらない……と断言出来ますか?」


「…………」


「“将軍”とはその部隊の顔であり、頭なんですよ。それを失えば……うまく動けないどころの騒ぎではありませんよね?」


 言葉を選び、劉備達にも分かるように説明する李鳳。

 しかし、錬武に費やした年月に絶対の自信を持つ者は簡単には引き下がれなかった。


「お主は我らが一騎打ちを挑めば、華雄の二の舞になると言いたいのだな?」


「いいえ、たとえ3人で挑んでとしても……正面からまともにぶつかれば、華雄と同じ道を辿ると言いたいんですよ」


「なんだとっ!?」

「鈴々達はそんなに弱くないのだ!」


 この李鳳の発言には関羽や張飛も黙っていられなかったようだ。


「クックック、お山の大将を気取る犬っコロ1匹が冬眠明けの腹を空かせた巨大なヒグマにどうやって勝つお積りで? あの華雄の技量や性質を正確に見抜いた諸葛亮殿が3人でも厳しいと言っている事実を、貴女方は頭から否定されるのですか? 関羽殿の武勇を信頼していたからこそ、汜水関で全てを託した諸葛亮殿の智謀を……今度は貴女方が疑うのですか?」


「そ、それは……」


 仲間を引き合いに出されて言いよどむ。

 そこに、ずっと静観していた人物が口を挿んだ。


「ちょっといいか?」


「……どうぞ」


 その人物は公孫賛伯珪であった。


「連合の総大将は麗羽だけど、この共闘軍の大将は私ってことでいいのか?」


 突如、劉備に向かって公孫賛が投げかけた質問はこれまでの流れと無関係に思えるもので、皆が戸惑いを見せていた。


「うん、そうだよ! 私、白蓮ちゃんをとっても頼りにしてるんだから!」


 重い空気になり始めていたのを感じていた劉備は努めて明るく元気に答えた。


「そうか……なら、関羽、張飛、それに星。大将としてお前達に命じる事は一つだけだ……“死ぬな”、以上だ!」


「「「っ!?」」」


 先の汜水関で檄を飛ばした際には兵士達に“死んでくれ”と言っていた公孫賛から、矛盾する真逆の命令が出て驚きを隠せない面々。

 なぜ今そんな事を言うのか、という疑念が彼女らの頭を埋め尽くしていた。


 そんな彼女らの顔を見詰めて公孫賛は訊ね始めた。


「関羽、3対1で相手するのは卑怯だと思うか?」


「……正直に申せば、是と」


「張飛、賊が100人で襲ってくる。こちらは30人だ、勝てないと思うか? 賊を卑怯だと思うか?」


「思わないのだ! 皆、蹴散らしてやるのだ!」


「李典、今度は賊が10人だけで襲ってくる。こちらは30人だ、我らは卑怯か?」


「んなワケあるかいな。遠慮のう衝いたるで!」


「星、一騎打ちなら例え敗れても本望か?」


「……死力を尽くしたのであれば」


「桃香、自分の信じた武将が勝手な一騎打ちで敗れたなら潔く死を受け入れて降服するか?」


「……できないよ」


「鳳統、敵将が一騎打ちでの決着を提案してきた。我らは応じなければならないか?」


「状況によりますが……その限りではありません」


「諸葛亮、提案に応じた一騎打ちで敵は敗れたのにも関わらず、約定を反故して反撃してきた。これは卑怯か?」


「いえ、予測の範疇です。その場合の策も事前に講じて対処します」


「李鳳、卑怯とは何だ?」


「ククク、最高の褒め言葉にして……糞程の価値も無い戯言です」


 笑う李鳳に公孫賛は満足そうに頷いた。


「そうだ、卑怯なんてのは所詮ただの言葉だ。見方や立場によって意味合いや受け取り方が変化する、ただの言葉なんだ! 関羽、華雄を倒したお前の武勇を恐れて敵兵が3人同時に攻撃してきたら……お前は卑怯だと文句を言うつもりか?」


「……言いませぬ」


「星、死力を尽くした一騎打ちに敗れたら、後は自軍の兵や大将がどうなろうが知ったことではない……結果、民が理不尽な目に遭っても本望か?」


「…………いえ」


「李鳳が言っていたが、ただの“武人”であればそれも許されよう。でも、お前達は“将軍”なんだ。お前達を頼りに思う私達が居て、お前達を信じる部下が居るんだ! そして、お前達を慕う民が居るんだぞっ!!」


 公孫賛の一言一言が彼女らの心を打った。


「お前達は我が共闘軍の主柱だ。関羽、お前はすでに連合軍の顔でもあるんだ! だからこそ、お前達は死ねないんだぞ! 私が絶対にそれを許さないっ!!」


 公孫賛の隣で劉備も黙ってしきりに頷いている。

 その劉備に声がかかった。


「桃香、お前から見てこの3人はどうだ? 最高か? 最強か? 誇りに思うか?」


「勿論だよ! 3人は最高で最強で、私の誇りだよ!」


 公孫賛の問い掛けに今まで一番強く答える劉備であった。


「……聞いたか? 天下無双などもまた所詮はただの言葉だ、そもそもそれは個人だけに与えられるものなのか? 私はそうは思わない、お前達で天下無双になってこい。お前達の武は桃香と私が認めている、その上で、3人で天下無双をもぎ取ってこい! 文句や誹謗などは言いたいだけ言わせてやれ! 私が認めているんだ……星、不満はあるか?」


「フフフ、ござらん」


 目と目を合わせて笑いあう2人。

 そして公孫賛は表情を改めて再度叫んだ。


「今一度命じる、死ぬな!」


「はっ!」

「おう、なのだ!」

「承知!」


 3人とも片膝をつき、公孫賛と劉備に対して臣下の礼を取る。



「クックック、相手は現・天下無双です。犬とヒグマの例えは大袈裟では無いと肝に銘じて下さい。まず、ヒグマの強さを感じ、認めることが大切です。孫子の兵法にもあるように、敵を知ることは勝つ上で欠かせないのですよ。……犬も意外とやるものですから、何とかなるかもしれませんね」


 言いたかった事の半分は公孫賛に言われてしまったので李鳳なりのアドバイスを送る。


「熊肉はご馳走なのだ! 思いっきり噛み付いてやるのだ!!」

「ハハハ、鈴々らしいな。朱里、済まぬがもう一度呂布について教えてくれんか」

「張遼についても、頼むでござるよ」



 虎牢関攻略前の軍議での一幕であった。



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