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海を越えた破綻者  作者: パトラッシュ
虎牢関の攻略
60/132

60話

――虎牢関――


 攻略を開始してから数刻。

 現在、関所の中からはモクモクと煙が上がっている。

 曹操と諸葛亮らの連立献策による作戦は見事に成功していた。


 邪魔をしそうな連中が後方で大人しくしていてくれたという理由も大きいが、実は董卓陣営にも事情があったのだ。

 当初予想していたよりも抵抗がかなり弱ったのである。


 しかし、まんまと焙り出されてしまったのは事実であった。

 董卓軍の兵士達は涙を流しながら城門から溢れ出てきたのである。


 特製煙玉の催涙効果は抜群であった。



 ゾロゾロと飛び出てくる董卓軍と連合軍の前線が激しくぶつかる。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「にゃにゃにゃにゃにゃぁ!」

「せいっ、せいっ、せいっ!」


 関羽が青龍偃月刀を左に振ると敵兵が数人吹き飛んだ。

 張飛が丈八蛇矛を右に振ると同じく敵兵が数人吹き飛んだ。

 趙雲が龍牙で素早く突くと同じく敵兵が数人絶命した。


 一瞬で数名を屠る武力はまさに豪将と呼ぶに相応しい蜀の勇将達が敵軍の兵を次々に斬り伏せていく。

 その勢いはまさに烈火であった。


 しかし、落ち着きを取り戻した董卓軍は陣形を立て直し、盛り返してきたのである。

 その為、蜀と公孫賛の軍団の勢いも止まり、徐々に後退し始めたのだ。




――曹操陣営――


「華琳さま、予想した通りの展開になりましたね」


 側に控える荀彧が嬉しそうに曹操に話しかけた。


「諸葛亮達なら、当然気付くと思っていたわ」


 不敵な笑みを浮かべたまま戦況を見守る曹操。

 自軍の攻砦兵器は想定以上の成果を上げた、敵軍も中央に集中するように押し込めている。


 そして眼前では今、劉備軍と公孫賛軍が敵軍に圧され後退しながら袁紹軍本隊に向かっていた。

 このまま油断し切っている袁紹軍に董卓軍をぶつける、それが曹操や諸葛亮の考えた意趣返しであった。

 そして、その混戦の隙を突いて城門へと突撃するはずだったのだ。


 曹操自身もそうなると思って疑っていなかった、目の前の光景を見るまでは――。




――袁紹陣営――


「来た、来た、来た! 斗詩、準備はいいか?」

「うん。文ちゃんこそ焦っちゃダメだよ!」

「ふふふ、相変わらず御二人は御美しい……」

「おい、陳登! あたいの斗詩に手ェ出したら殺すぞ!」

「……ふふふ、心得てますよ」

「おーっほっほっほ! 華麗に殲滅なさい!」


 敵勢が迫っているというのに驚いた様子を見せていない袁紹軍、むしろ待っていた、という雰囲気を漂わせていた。

 そして、袁紹軍の双璧とスパイのはずの陳登がなぜか仲良し小好しで会話している。

 さらに、袁紹が高笑いを上げているその時、ある合図を告げる銅鑼が鳴り響いたのであった。


「よし、2軍に別れて挟撃を仕掛けろ! 董卓軍は根絶やしにしちまえ!」


 文醜が雄叫びを上げた。


「「「「おおぉぉっ!」」」」


 文醜、顔良の2大将軍は二手に別れ、文醜は正面からぶつかった。

 一方の顔良は敵団の左舷から、そして後退していたはずの劉備・公孫賛軍は弧を描いて反転し敵団右舷に再度噛み付いたのである。





――曹操陣営――


「なっ、どうして?」


 荀彧は驚きのあまり声が大きくなっていた。

 そして、曹操も声や表情にこそ出さないが内心ではかなり驚いていたのだったが、自身の予想とは異なる展開を目にすることが出来て笑みがこぼれた。


「フ、フフフ、フハハハハハハ」

「か、華琳さま……?」


 堪え切れなくなって曹操は大笑いを始めたのである。

 気でも触れたのかと心配げに名を呼ぶ荀彧。


「馬鹿だ、馬鹿だとは思っていたけれど……想像以上に大馬鹿だったようね、桂花!」

「は、はい」

「面白くなってきたわ。公孫賛、劉備、我が覇道に対して大きな障害となるかもしれないわね……フフフフフ」


 なぜか嬉しそうに笑う曹操にどう答えて良いか分からぬ荀彧であった。




――虎牢関・城門付近――


 劉備・公孫賛共闘軍の精鋭揃いである一個中隊が単独で城門に迫っていた。

 策が成功し董卓軍が再び隊列が乱れ始め、城門周辺は混乱状態にあったからである。


 そこにはすでに連合、董卓軍が入り乱れて混戦していた。

 連合軍の兵士達が我先にと城門を抜けようとした、その瞬間である。


 人が宙を舞ったのだ。


 それも一人や二人ではなく、十人以上の人間が一度に飛んだのである。

 宙を舞う人はもはや人の形をしておらず、頭や手足、胴体が切断されていた。


 人間に為せる行いでは無いが、成しているのは人であった。 


 天下の飛将軍、天下無双、董卓軍最強という名を欲しいままにする将軍――呂布奉先その人である。

 人智を超えた膂力を魅せ、次々に連合軍を吹き飛ばして行った。


「ば、化け物だ……」

「噂は本当だったのかよっ!?」


 押せ押せムードだった勢いは消沈し、畏怖の念が連合軍を覆おうとしていた。

 手足などの肉片が空から降ってくるという経験をした者など、そうそう居ないのだから当然である。


「……関羽、どこ?」


 無言、且つ無表情で人をひき肉に変えてきた鬼神が、初めて発した言葉を聞いた連合の兵士らは皆が同じ方向を見たのだった。


「そ、そうだ! 俺達には関羽将軍がいるじゃないか!」

「ああ、関羽将軍が何とかして下さるさ!」


 連合軍の英雄、黒髪の軍神と崇めている関羽雲長である。


「お前達は下がっていろ」


 関羽はゆっくりと黒馬を進め、呂布に近寄った。

 すでに呂布の周りには屍骸しか転がっておらず、立っている兵は存在しなかったのである。


 青龍偃月刀を片手に構え、悠然と近付く関羽が呂布に問い掛ける。


「お前が、呂奉先だな?」


 戦場でありながらも、その美声は高く響いた。


「……恋が呂布。……お前は、関羽?」


「いかにも! 私が関雲長だ!」


 青龍偃月刀を横一閃し、名乗りを上げる関羽。

 その風圧が呂布にまで届き、髪を掻き立てる。


「……関羽、殺す!」


 ブンッと方天画戟を前方に突き出し、関羽を指す。

 その動作だけで舞い上がっていた土埃が割れた。


 互いの視線がぶつかり合う。

 強者同士であることは疑う余地も無かった。


 周りの兵士達は一言も発することが出来ないでいた。

 空気に飲まれていたのである。


 対峙して改めて呂布という鬼神の力量を感じた関羽の額に汗がにじみ出た。

 額だけではない、偃月刀を握る手にも汗が滴っていた。


 過去に出会った猛者の中でも、間違いなく最強だと確信したからである。

 勝てないかもしれない、という戦況は幾度となく経験してきた。

 だからと言って、逃げ出した事など一度も無かった。

 強敵であればある程嬉しかったのだ。

 困難などを乗り越えた時、強敵に打ち勝った時の快感は言い表せない程だった。


 関羽自身、初めてだった。

 敵の、呂布の、その武とは呼べない単なる暴力を、圧倒的な力を、何者にも屈さない力を美しいと感じたのは、初めての経験だったのである。

 また、仲間すら寄せ付けないその力を哀しいと感じたのも、初めての事だった。


 それは同時に、現時点ではどう足掻いても勝てないと本能と肉体が覚っている自分が居る事に気付いたのである。


 気付いてしまった関羽は笑った。

 この素晴らしい完璧な武人に出逢えた事に感謝し、一将軍として全力でその武に応えたいと思ったからだ。


 だからこそ、こう告げたのだった。


「お前は哀しいな……呂布」


 呂布は小首を傾げて返答した。


「……恋、哀しくない」


「孤高なる最強よ……永久に、眠れ!」


 関羽は言い終わると畏敬の念と共に殺気を開放し、全力全開の闘気をぶつけたのだった。

 それは華雄と対峙した時以上の氣である、それが関羽を満たしていたのである。

 その氣を感じた呂布の本能が戟を両腕で構えさせたのだった。


 次の瞬間、呂布の死角から矛が突き出された。


「にゃー!」


 関羽に集中するあまり、周囲の警戒が疎かになっていた隙を突かれた呂布であったが、馬上で身体を捻り何とか掠り傷で回避することが出来た。

 張飛も関羽の殺気に自身の気を上手く紛れさせて抑えた結果、全力までは出せなかったのだ。

 そして、軽く振った呂布の一撃に後退させられてしまった。


「おおー、流石はヒグマなのだ。とんでもなく強いのだ!」


 渾身の不意打ち攻撃をかわされた張飛だったが、本物の強さを目にして逆に喜んでいた。


 一方、呂布は関羽との一騎打ちを邪魔してきた張飛を睨み迎撃しようと再度方天画戟を振り上げた瞬間、今度は関羽が接近し偃月刀を振り抜いてきたのだった。


「はぁぁぁ!!」

「……くッ!」


 完全に意の外からの攻撃に腕力のみで戟戻し応戦する呂布。

 関羽は全身の力を込めた一撃だった為、呂布は馬ごと後方に圧された。

 そして、応じた腕には激しい痺れが走ったのだ。


 更に悪い事に、痺れが残っていたのは呂布の馬の足も同じであった。

 馬が動けず、関羽と張飛の追撃に防戦一方となる呂布。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「うにゃにゃにゃにゃぁ!」

「…………くッ」


 上手く力を込めれず痺れの残る両腕で何とか耐える呂布だったが、静かに、それでいて疾く、生者を死地へと誘う『神槍』がすぐ背後まで忍び寄っていたのである。


「せいッ!!」


 極限まで意を殺し、神速を持って突き出された龍牙は確かに呂布を貫いた。

 関羽にはまるでスローモーションにように、突き出された槍と呂布の鮮血が見えたのだった。






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