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海を越えた破綻者  作者: パトラッシュ
汜水関の攻略
58/132

58話


 連合軍が汜水関を出て、また夜が訪れた。

 進軍速度からすれば早ければ明日、遅くても明後日には虎牢関に到着する予定である。


 その前に、攻城兵器の改良と不備の改善を実施したい一刀は『技術交流会』と称して急遽李典の招集を決行したのであった。


 公孫賛を通しての交渉は呆気ない程簡単にいき、“天の知識”には興味津々であると返事をしていたのだった。


 一刀としては、李典の技術力を貸してもらい兵器を改造することとは別に、もう一つの目的があった。

 それは、楽進らとの仲を取り持つことであった。

 そうすることで、李典を曹操軍に取り込もうという算段でもあったのだ。




――曹操陣営・北郷隊――


【北郷】


 しかし、想定外の事が起こった。


「なぁ、考え直さないか? せっかくの機会なんだし……」

「しかし……会の目的は兵器の改良にあります。我々が列席しては軸がブレるのではありませんか?」


 凪の言うことは分かる。

 でも、俺は心配し過ぎだと思う……親友だったんだし、きっと分かってくれるはずだ。


「会うとお話したくなっちゃうと思うのー。そしたら、本題が進まなくなっちゃうの」


 うーん……確かに、それは問題だな。

 華琳からは最低限の成果を示せって言われてるし、話し込んでて改良出来てませんなんかは論外だ……。


 なら、今回は俺だけが会って様子を探ってみるか……怒ってないようなら、虎牢関を落としてからでも会うのは遅くないよな。


「うん、分かった。今回は俺だけで会ってくるよ。ただ、2人が心配している事は伝えようと思う」

「……分かりました。隊長にお任せします」

「お任せするのー」


 期待と不安の入り混じった表情をする2人に一刀は強く頷くのだった。

 未だに会う決心がつかないのである。

 会いたいと思って李典の顔を思い浮かべると、別れ際の冷めた表情しか浮かばないのだ。

 そうなると、途端に会う気力が激減してしまうのである。


 彼女らは確証が欲しかったのだ。

 怒っているのなら怒っている、怒っていないのなら怒っていないという確証があれば、こちらの出方を決めれるからである。

 怒っていれば謝るし、怒っていなければ再会を喜び合いたいのだった。

 ズルイとは分かっていても、その役目を一刀に託したのであった。



 そして、辺りを闇が覆いつくし夜が訪れた。




――曹操軍・兵器庫――


 其処には曹操軍が持ち込んだ兵器がズラーッと並んでいた。


「ほほぉ、やっぱり資金力がちゃうなぁ。質のええ武具が揃とるでぇ」


 招集に応じてやって来た李典は感嘆の声を上げた。


 で……でかい……。

 なんて言う巨大な乳!

 どちらかと言うと小振り派に目覚めつつある俺にはNGかな……。


「他がどうかは俺も知らないけど、結構充実しているとは思ってるよ」


 一刀は笑顔で答えていた。


「こないして見たら、やっぱりウチんとこは貧乏所帯っちゅうことやな」


 おっ! 公孫賛の所はやっぱり軍事予算が少ないのかな?

 蛮族との争いが絶えないらしいし、きっと厳しい懐事情なんだろう……。


「それにしては立派な装着武具を開発してたじゃないか。あれは本当に凄いと思ったんだけど……」


 まずはご機嫌を伺うべく、誉めてみることにした一刀。


「ニッシッシッシッシ、せやろ! あれはウチの作品の中でも上位に入る力作なんや!」


 簡単に乗せられ気分を良くする李典。


「重過ぎると持ち運びに不便だし、開閉機構の絡繰にはかなり凝ってそうだよな」


 さらにヨイショする一刀。


「分かるか? そこがめっちゃ苦労した点やねん、伯雷は簡単に言い寄るけどな……ほな、自分でやってみいっちゅうねん」


 ……伯雷? 誰だっけ?

 ちょっと怒ってそうだし、方向を変えるか……。


「換装式で盾と弓を戦況に応じて使い分ける武具なんて、天才的発想だよ!」


 変えると言っても、誉める事に変わりは無かった。


「……それもウチの発案ちゃうわ!」


 うげっ、藪蛇だったかな……?


「で、でも、その発想を現実の物にしたのは君だろ?」

「……せやで」

「だったら、間違いなく天才だよ。考える事は誰にでも出来るけど、実現させるのは選ばれた一部の天才だけなんだから!」


 一刀は思い付く全ての誉め言葉を羅列して李典を讃えることにした。


「……天才……選ばれた……天才」

「うん、天の国でもこれだけの天才はいないかもしれないって!」


 ……ど、どうかな?


「ウッシッシッシッシ、やっぱりウチは天才なんやな。何とのう、そんな気はしとったんやけど、アンタが言うんで確信したわ!」


 パッと笑顔に戻る李典とホッとする一刀。


 その後は実際の兵器を見ながら、大幅な改良点と簡易的に出来る改良点をいくつも挙げていき有意義な時間を過ごすことが出来た2人だった。

 勿論、2人だけではなく周囲には曹操軍の兵器開発部の技術員が大勢いたわけだが……。


 一刀は驚愕に染まっていた。

 李典は明らかに現代物理学の基礎をマスターしているからだ。

 物を遠くに飛ばす場合、質量×速度×向き(指向性)で決まると理解しており、更に打ち出す角度は45度より少し低めであると言い放ったのだ。

 空気抵抗や重力加速度の理念まで考慮されたその説明を完璧に理解出来る技術員は居なかった。


 また、質量およびエネルギー保存則をも持ち出し、槍型の戦車はより重厚にして簡易の高台を組み、より高みから打ち出せと命じたのであった。


 たびたび出てくる『伯雷』という者に教わったと思われるが、そこに触れると機嫌が悪くなるのでタッチ出来ないでいた。


 夜も更け、そろそろ解散という雰囲気になってきたところで、一刀は隠れた本題を切り出す事にしたのだった。


「色々と助言してくれてありがとう。これなら明日中には改良出来そうだよ」

「ええて、ええて。連合におる内は持ちつ持たれつやで」


 手をヒラヒラ振る李典に一刀は思いきって勧誘の話を持ち出したのだ。


「あのさ、李典さえ良ければ曹操の下に来ないか? キミになら兵器開発部隊の全てを任せてもいいって華琳も言ってるんだ。予算だってかなり潤沢だと思ってくれていいよ」

「…………」


 沈黙は考えてる証拠だな……もう一押しかな?


「凪と沙和もキミの事をずっと心配してたんだよ。こっちに来ればまた3人でずっと一緒に暮らせるんだよ?」


 李典の肩がピクっと動いた。


 おっ! 脈ありだな……。

 でも焦っちゃダメだ、急いては事を仕損じるって言うしな。


「すぐに答えを貰おうとは思ってないよ。董卓を無事討つ事が出来たら、その時までに決めてくれればいいよ。どうかな?」

「そんな待たんでええよ」

「じゃ、じゃあ?」


 よし、案外簡単だったぞ!

 これでご褒美が……。


「話は断らしてもらうで。今おるとこ居心地ええねん」


 華琳の床で組んず解れつ……エヘヘヘヘ、へ?


「ちょ、ちょっと待って。今なんて?」

「せやから、断る言うたんやん」

「え? だ、だって……凪は? 沙和だって会いたがってるんだぞ?」


 2人とも本当に心配してたし、李典が戻ってくれば丸く収まるのに……。

 俺のご褒美だって確実になるのに!


「……ほんで?」


 …………ほんで? ほんでって何だ?

 ……それが何? ってことか?


「何言ってるんだよっ!? 2人がどれだけ心配して、どれだけ会いたがってるか……お前には分からないのかよ!?」


 他人の気持ちをちょっとは考えないのかよ、凪の友達だからって最低な女だな!

 あの2人の悲しそうな顔を知らないから、そんな事が言えるんだ!



 一刀は我慢できずに、突如として声を荒げた。

 周囲にいた技術員も吃驚して動向を窺っている。


「ほんなら、ウチがどんだけ会いたないか……アンタに分かるんか?」


「……えっ?」


 烈火の如く怒鳴っていた一刀の勢いが急速に低下した。


「そんなけ会いたい言うとる2人が何で今此処におらへんねん?」


「そ、それは……技術的な話の邪魔をしたくないって……」


「ウチは曹操軍に2人がおるんを前から知っとるんやで。せやのに、何の連絡もせんと今日まで会いにも行かへんかったっちゅうのは、何ぞ理由があるからとは考えへんかったんか?」


「うッ……」


 みるみる意気消沈する一刀。


「アンタ、つまらんわ。しかもや“天の知識”っちゅうから楽しみにしとったのに……目新しくもあらへん、伯雷から聞いた事あるような話ばっかしでホンマつまらんかったわ!」


「……伯……雷?」


 唱えるように呟く一刀。


「ほな、ウチは帰るさかい。さいなら!」


 膝から打ち崩れる一刀を他所に、李典は去って行ったのである。



 その後、楽進らと合流した一刀は期待を込めた表情を見て本当の事が言えず「李典も2人を気にしていたよ」と嘘をついてしまったのだった。





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