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海を越えた破綻者  作者: パトラッシュ
汜水関の攻略
49/132

49話


 反董卓連合、その緒戦は見事な大勝利で幕を閉じた。


 戦場の華として一騎打ちで敵の大将を倒した関羽の名は瞬く間に広まり、今や連合でその名を知らぬ者は居ない程である。あちこちで『黒髪の軍神』などと讃えられ、董卓軍最強である呂布の対抗馬として武名が一人歩きを始めていた。

 華雄煽動の為に発した数々の過激で奇天烈な罵声ですら『荒神の吐息』と美化されて評価を高める一因となっていたのだ。


 実際の功績は拠点を落とした孫策の方が大きいので、関羽らは勲功第二位となる。

 勢力別に見ると一位が孫策軍、二位が劉備軍、そして三位は曹操軍であった。曹操軍は華雄が破れ混乱した敵本隊に迅速な追撃を加え、大打撃を与えたのである。


 これに対して勲功第四位である公孫賛軍の敵討伐数は、上位3勢力とは比べ物にならない程の少なかった。李槍のお披露目や、敵の牽制、惹き付け役を見事に果たした為、各勢力の将校以上の間では公孫賛軍に対する評価はとても高かった。


 しかし、その評価が兵士の目や耳に届くことは無かったのだ。


 目に見える功績を上げれなかった一部の血気盛んな公孫賛軍の兵士は、この結果に納得出来ず、不満を抱いたままである。

 大将の公孫賛がこの事実に気付くことは無かった。それが、後に――――。




――連合軍本部――


 夕刻、各諸侯と主要な人物が一堂に会して二回目の軍議が開かれていた。

 初回とは違って皆の表情は明るいものであった、一人を除いて。

 その一人である総大将の袁紹は怒っていた。


「いったいどう言うことですの、白蓮さん!?」


 そして、その怒りの矛先はなぜか公孫賛に向いていた。


「はぁ……、いきなり何なんだよ……? 私にはお前が何を聞きたいのか、さっぱり分からないんだが」

「決まってますわ! わたくしが動く前にどうして汜水関が落ちてしまったのかと訪ねているんですわ!」


 袁紹の怒鳴り声は全員の時を止めた。

 そして、再びゆっくりと流れ出す。


「……そりゃ先陣の私と劉備、それに孫策が奮闘したからに決まってるだろ。曹操が上手く後詰めしてくれたから被害も少なくて済んだしな」

「くぅぅぅぅ、か、華琳さんはどうして勝手に動いたんですの?」


 流石に先鋒を押し付けた相手を責めるのは分が悪いと感じた袁紹は標的を曹操へと変えた。


「愚問ね。あれだけの疾い流れに乗らない手はないでしょう? だからこの短時間で攻略出来たんじゃない」

「これ、麗羽や。終わった事をあれこれ言うても仕方ないぞよ。まぁ、妾の軍は一番乗りじゃったがの、ほっほっほ!」

「キーッ、美羽さん、わたくしは別にそんな事は――」

「ま、まぁまぁ、結果的に私達も助かりましたし……。こ、今回は総大将の袁紹さんがわざわざ出なくても勝てて良かったと言うことで……次こそ出番がありますよ」


 袁術の勝ち誇った笑みに怒りのボルテージが上がる袁紹を劉備が何とか宥めようと奮闘していた。


「ぐぬぬぬぬぬぬぬ…………!」

「なら、次の虎牢関攻略は私達が指揮を取るわ。ただ……追撃は、誰かに引き受けてもらえると助かるわね」


 への字口の袁紹に曹操が申し出た。

 他の諸侯は空気を読んで黙っている。


「仕方ありませんわね、追撃はわたくしが引き受けますわ! 虎牢関の一番乗りは譲ってもらいますからね!」

「……分かったわ。なら、それでいいわね」


 駄々っ子に確認を取ると、曹操はすぐに出て行く。

 その後に袁術や孫策、馬超などが続いて天幕を後にして行った。



 公孫賛と劉備陣営は合戦以上の精神的疲労を感じて、その場に腰を下ろして一息ついていた。


 その中で、李鳳だけが精神的昂りを抑えようとしていた。



【李鳳】


 知らざるを知らずと為す是知るなり……か。

 これまで俺は俺自身の事をよく分かってなかったと痛感したよ、ククク。


 人を殺したのは初めてではない。

 戦争を見たのも数え切れない程だ。


 だが、戦争に参加したのは……。

 クックック、あの臨場感! あの高揚感!! あの愉悦感!!!

 童貞を卒業した気分だよ、クヒャヒャヒャヒャ!



 初めて参加した戦争、初めての馬上での戦闘、初めて観た視点で、敵を斬り殺し、味方が斬り殺される状況の中で、李鳳はずっと勃起していたのである。


 李鳳は前世から異常性欲者であった。

 それは性欲が異常に強いというものでは無く、質的異常を示す。李鳳は異性に対して興奮することはあまり無い。勿論、同性に対しては有り得ない。


 李鳳は今回発現した性欲に歓喜していたのだ。




「――――だしな。李鳳があそこまで戦えるなんて思ってなかったぞ」


 いつの間にか公孫賛が話しかけてきていた。

 思考を中断されたのは不快だが、相手は主君なので嫌な顔を見せない。


「……日頃、マンセーに鍛えてもらっていますから。ククク」


 鍛錬しているのは嘘じゃないしな……。



「ねぇねぇ、白蓮ちゃん! せっかく今回上手く連携して戦えたんだから、次の虎牢関でも一緒にどうかな? 白蓮ちゃん、すっごく頼りになるもん!」

「と、桃香さまっ!?」


 劉備の無邪気な提案を聞いて諸葛亮が驚いた声を上げた。


「ハハハ、次の指揮官は曹操だからな……。私は構わないが、彼女の意向も聞いてみないとな」


 公孫賛の回答にホッと胸を撫で下ろす諸葛亮と笑顔の劉備を李鳳は眺めていた。


 ……ナチュラルピンク、恐るべし。

 ここでお前からその提案が出るなんて……悪意の無い天然の破壊力を改めて思い知らされたよ、クックック。

 聞く人が聞けば喧嘩売ってると思うだろうな。


 今回の戦を野球に例えるなら、勝利投手は孫策。

 抑えでセーブがついたのが曹操。

 MVPはホームランで試合を決めた関羽。

 一発打たれた華雄軍は総崩れで、あとは打者の成績稼ぎみたいなもんだろ。


 先発した公孫賛が失点しながらも踏ん張って孫策に繋いのに、勝ち星もセーブも付かず……むしろ失点だけ増えて防御率はガタ落ちってとこか。

 切り札の変化球も使っちゃったしね……まぁ、あれは主君の望みだったけど。


 打ちたい放題打った劉備にしたら美味しくて気分良い試合だっただろうな、ククク。大量得点で圧勝したように見えるけど……完封じゃねーんだよね。

 肩を酷使したピッチャーに連投希望とは……劉備玄徳、侮れない。



 それが分かってる諸葛亮は冷や汗もんの百面相してるじゃないか……可哀相に、全部俺の想定した範疇だよ。クヒャヒャヒャヒャ。

 関羽があれほどまで美化されてるのは想定外だがな、クックック。



「あ、あの……後でお時間取って頂けませんか? お話したいことがあるんです」


 動揺から立ち直った諸葛亮が真面目な顔で口を開いた。


「…………」

「…………」

「…………」


 ……ん?


「だ、駄目でしゅか!? はぅ……」

「李鳳、答えてやらないか」


 ……俺だったのか。てっきり大将に言ってるのかと思ったよ。


「失礼、私は構いませんよ。今この場では適さない内容でしょうか?」

「雛……鳳統も同席させて欲しいのです。……た、ただ、お願いしておいて……こんな事言うのは申し訳ないのですが、男の方と3人きりと言うのは……ご、ごめんなさい!」


 大胆に誘っておきながらも初心さをアピールか……諸葛亮も侮れないな、クックック!


 主は抜きで3人だけでも困るような対談をご希望……ってか。

 うーん……名軍師が俺なんぞにどんな用件か興味はそそられるが……。


 っ!? ま、まさか……暗殺じゃないよな!?

 油断させといてグサッとかは勘弁して欲しいぞ!

 しかし、相手はあの策士孔明だ……死因も上手く偽装されて……マズいぞ。



「だったら私も同席するよ~?」

「ああ、私も大丈夫だぞ?」


 劉備と公孫賛が善意で申し出た。


「えっ!? いえ、その、今回は軍師同士で軍略について語り合おうかと……」

「でもなぁ、うちには李鳳しか居ないし……桃香の所もお前ら2人だけだろ?」

「はわわ、ぁぅぁぅ……」


 絵に描いたような慌てっぷり……演技か!?

 やはり暗殺の可能性は否定出来ないな。

 ここは一つ相手側の人数が増える前に先手を打つのが得策だろ、困った時のマンセー頼みだ!


「うちの李典将軍を同席させます」

「ちょっと待て、李典は軍師じゃないだろ。それに李典でいいなら私だって――」

「いえいえ、君主には聞かれたくない愚痴でも聞いてもらおうかと思いましてね。クックック」


 李鳳の不敵な物言いに劉備と諸葛亮はギョッとする。

 李鳳としてみれば、ここは強引にでも承諾を得たいところである。


「……ったく、仕方ない奴だな。程々にしてくれよ」


 流石は我が主……器が違うな、クックック。

 これで一安心だ。


 いざとなったら……マンセー、お前は良い奴だったと主に伝えるよ。




またしばらく幕間の話が続きます。


更新自体はかなり先になると思います。

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