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海を越えた破綻者  作者: パトラッシュ
汜水関の攻略
47/132

47話


――汜水関・華雄陣営――


 地鳴りの治まった直後、斥候が華雄の下に駆け込んできた。


「将軍、敵大隊から突出して騎兵の一個中隊が接近してきております!」

「どこの能無し軍だ、その騎馬隊は?」


 華雄は斥候からの報告を聞いて鼻で笑った。


「はっ。旗印から幽州の公孫賛軍と思われます!」

「白馬長史などと囃されているが、所詮優れておるのは馬だけなんだろ! ハッハッハッハ!」

「しかし、何か企みがあってという事も……? 先程の大喝もその公孫賛らしいですし……」


 華雄軍の良心として兵からの信が篤い副官が意見を述べた。

 あの大怒号から烈火の勢いで突撃してくると思いきや、突如として速度を緩め、一師団のみが先行してくるのは怪しいと指摘したのである。


「ワハハハハ、だとしても近付けさせなければ良いだけだ! そうだな……見せしめとして、徹底的に射殺せ! 全弓兵、構え!!」

「はっ!」


 華雄は敵の腹案など些細な事と笑い飛ばし、弓兵隊に命令を出した。


 城壁の上と関所の内、弓を持つ全ての兵が斉射の合図を待ち構えていた。

 そして、とうとう公孫賛軍が射程距離に入って来たのである。


「打てば当たるぞ! 放てぇぇ!」


 号令と共に空に向かって無数の矢が放たれた。

 矢は弧を描いて公孫賛軍に襲い掛かるのだった。




――先陣中央・公孫賛軍騎兵隊第一師団――


 無人の野を悠然と、そして、ゆっくりと進む騎兵隊の面々に気負いは感じられなかった。

 敵を煽る為にわざと速度を落として進軍しているのだが、関羽が自分の世界に埋没したので公孫賛は李鳳に話しかけていた。


「お前、その鎧の下に着てる服……ちゃんと洗っているのか?」

「ええ、こう見えても綺麗好きなんですよ」

「……でもなぁ、初めて見た時にも思ったけどシミだらけじゃないか」


 李鳳は普段文官として輪を乱さないように、質素な服を着用していた。

 せっかく特注した迷彩服はタンスの肥やしとなっていたのだ。それが今回日の目を見たのである。


「敢えて染めてあるんですよ。この良さが分からないとは……まだまだ修行が足りませんよ、クックック」

「うーん、そういうものなのか……。おっ! 見えてきたな……やはり弓兵が盛大にお迎えしてくれるようだな」


 弓を構える兵が視認できる距離まで近付き、公孫賛は武者震いした。

 珍しく李鳳もかなりテンションが上がっている。

 そして、関羽も城門の内側に居るであろう華雄を見据えていた。


「全隊止まれ! 李式装着槍『矛盾(むじゅん)』構え! これから敵の射程距離に突入する。程なくして一斉射撃が開始されるであろう……皆の者、開閉の操作に集中せよ。敵軍が炙り出されたら装具を換装して牽制と撤退に備えよ! 『弩涛(どとう)』を使う時機を見誤るなよ!」

「「「おぅ!!」」」


 公孫賛の指示に耳だけを傾け、視線は関所を睨む騎兵達が呼応する。


 第一師団は屈強な騎馬隊の中でも最精鋭の集まりである。

 別名『白馬隊』と呼ばれ、馬術・馬上戦闘に長けた者だけが選ばれるのだ。


 今回の戦いから導入された李典と李鳳の合同開発品である“李式装着槍”は数に限りがある為、この第一師団にのみ配備されていた。

 取り扱いがピーキーで、まだまだ量産移行の目処は立っていない試作型である。こちらも本邦初公開だが、李鳳の服と違って公孫賛は大いに期待していたのである。



 再び馬の歩を進める公孫賛軍第一師団白馬隊。

 そして、とうとう華雄軍から弓矢が放たれたのだった。


 空を覆いつくす程の矢が、豪雨のように白馬隊に降り注ごうとしていた。


「今だ! 開いて固まれ!!」


 公孫賛の号令と共にバサッという音が鳴り響いた。




――華雄陣営――


「なっ!? どうなってるんだ……?」


 何万本という数の矢が射られ、全身串刺しの無残な死で良い見せしめになるだろうと考えていた華雄が戦場に目を向けて驚愕の声を発した。


「分かりません……突然、無数の盾が現れて……防がれました」


 斥候の報告では公孫賛の騎馬隊は盾も持たずに、馬鹿みたいにノコノコやってきたと聞いていた。

 しかし、目の前には大きな盾を並べ合わせ巨大な亀のようになって身を守っている公孫賛軍がまんまと生存していたのだ。


 李式装着槍『矛盾』――それは着脱可能な開閉式のパラソルを模した盾型の装具であった。耐久度、重量、操作性に改良の余地を残すが、今回はその真価を充分発揮して皆軽傷程度で凌ぎきったのである。


 これを見て、華雄が怒声を上げた。


「斥候は何を見ておったのだ、馬鹿者!」


 斥候らは見た通り報告しただけである。

 自身の知識に無い絡繰品の説明など出来るはずが無かったのだ。


 それを責めるのは、あまりに酷と言うものであった。




――公孫賛陣営――


「皆、無事か!?」

「はっ。大きな傷を負った者はおりません!」


 公孫賛が被害状況を確認して確信した。


「よし! 流石の性能だな、李槍は! 戻ったら開発費予算の増加を検討しよう」

「では予定通り、今後は開発部主任と工作部隊長をマンセーに兼務してもらいましょうか。クックック」


 発明品の出来栄えに感心して公孫賛は李典への評価を更に高めた。

 調練終わりに何かと仕事を邪魔してくる李典への嫌がらせで李鳳は彼女の職務を増やそうと画策していた。


 当初の予定では敵の弓矢の射程外から挑発を行うつもりだったのが、李槍のお披露目で相手の度肝を抜きたいと思っていた公孫賛が李鳳と李典に相談した結果であった。


 このちょっとした予定の変更は劉備軍も知らされていなかったのだ。

 関羽も直前に聞いて驚いていたが、「私を信じろ!」と言う公孫賛を疑うことは無かった。すでに関羽の中で、公孫賛の存在は劉備に比肩しつつあったのである。


 結果は大成功。

 華雄軍はおろか、味方の諸侯らや劉備達でさえ仰天していた。


 そして、関羽の出番となった。


 関羽はフワリと下馬し、手に持った青龍偃月刀を横薙ぎに一振りした。

 すると、前方の地面に突き刺さっていた矢を全て吹き飛ばしたのである。


 拓けた大地を踏みしめ、一歩、また一歩と前に出る。

 その後方では李鳳が軍師として働いていた。


「四番隊、敵の第二射に警戒。絶対、関羽殿を死なせてはいけませんよ」

「はっ!」


 予定と違って距離が近い分射撃が再開されると危険である為、警戒しを促し、いざとなったら守るように指示を出す。


 敵味方両軍からの注目が関羽に集まり、立ち止まると豪快に偃月刀の柄を地面に突き付けたのである。


 関羽は汜水関から受ける数多の敵兵の視線を物ともせずに睨み返していた。

 そして、黒髪の美しい外見からは想像もしなかった腹の底からの発せられた蛮声が轟いたのだった。


「腐れ董卓に飼われし下種な愚物共よ、我が名は関雲長!」


 李槍での驚きで静まり返っていた戦場に関羽の罵声がこだまする。

 汜水関から放たれる殺気が一段と膨れ上がったが、関羽の心胆寒からしめるものではない。


「汜水関に隠れし耄将、華……華……華なんたらよ! 己が武勇に少しでも誇りがあるのならば、見事この首刎ねてみせよ!」




――華雄陣営――


「白馬から跳ね出た馬の骨が、何をほざきよるか!!」


 豪勇を誇る華雄は侮辱されたまま黙っていられる人物ではなかった。

 瞬間的に怒りが沸点を超え、怒声を発した。


「落ち着いて下され! これは罠です!」


 副官と側近の衛兵が華雄を宥めにかかる。

 その間も関羽からの罵倒は続けられていた。


「どうした、華……華なんたら! 犬ですら主人を害する者には咬み付くぞ! お前には忠誠心も誇りもないのか!?」

「おのれぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


 激怒した華雄が戦斧を手に出陣しようと軍馬に向かう。


「ご辛抱を!」

「堪えて下さい!」


 必死に抑えようとする副官らだが、怒りで膂力の増した華雄はズンズン進んでいく。

 副官らは引き摺られながらも離されないように必死でしがみ付いていた。


「仕方ない! 臆病な負け犬ということなら勘弁してやろう! 吠えることも出来ないなら、せめて啼いてみせろ! ほら、どうした!? 聞こえないぞ!? 華なんたら!!」


 キャンキャン鳴いてみろ、という関羽の最後の挑発にとうとう華雄軍の色々なモノがブチ切れてしまったのだった。


「私の! 名前は!! 華雄だぁぁぁぁ!!!!」


 関所の内外に華雄の遠吠えが響いた。

 それと同時に抑えであった副官と衛兵らは拘束が引き千切られ吹き飛ばされてしまう。



 ゴゴゴゴゴッという轟音を鳴らし汜水関の城門は開かれたのであった。





展開遅いですが、ご容赦を。

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