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海を越えた破綻者  作者: パトラッシュ
反董卓連合の結成
43/132

43話

――汜水関手前のとある街道――



 公孫賛の元に劉備軍の主要な武将が足を運び、先鋒を務める者同士での軍議が開かれていた。

 事前に使者を送っておいた為に李鳳や李典も揃っていたが、孫策陣営の姿は無かった。



【趙雲】


 ふむ、これが今の伯珪殿でござるか。……確かに以前とは雰囲気が違っておられるようだが……。


「白蓮ちゃーん、来ったよー!」

「公孫賛のおねーちゃん、久しぶりなのだー!」

「ハハ、待ってたぞ。わざわざ来てもらってすまないな」


 劉備と張飛の元気の良さに、思わず公孫賛の表情が緩む。

 戦を前にリラックスできるのは悪いことではない。


「孫策は来ないと聞いたが……?」

「……うん。袁術さんに色々言われたみたいで、……作戦が決まったら知らせてくれればいいって。異論がなければ従うけど、それじゃなければ独自に動くからって」

「まぁ、仕方ないな」


 勝手なようにも見えるが、この連合においては普通のことなのだ。

 盟主にして総大将である袁紹から出た指示は一つだけである。


『華麗に、優雅に、美しく、そして雄雄しく、進軍せよ』


 それだけだった。

 多くの諸侯が耳を疑ったが、これが覆ることは無かった。

 だからこそ、公孫賛も劉備も何も言えることは無いのだ。



「ご無沙汰でござった、伯珪殿。壮健そうで何よりですぞ」

「……ああ、星も元気そうだな……」


 おや? 何やら私を見る目が以前と変わられたような……。

 まぁ、見限るように出て行ってしまったのだからな……已む無いか。


「姐さん、久しぶりやん。新しい職場はどないなん?」

「フフ、久しいな、真桜。なかなかに楽しんでおるよ、お前も頑張っているのか?」


 真桜は然程変わったようには見えんな……。


「ウチはボチボチやで。立場が上がってもうたさかい、忙しゅうて絡繰やっとる暇がのうなったんが問題やけどな」


 フフフ、このやりとり……なんだか懐かしいのに、新鮮だな。

 伯珪殿の変化について問いたいところではあるが、……しばし様子を見るとするか。



 李典と趙雲が談笑していたが、公孫賛は複雑な心境で見守っていた。

 頭をよぎるのは二ヶ月前に発覚した予算不正流用に関する趙雲がとった一連の不審な行動の数々である。状況証拠のみで何の確証を得たわけでもないが、民の血税が不正に使用されたことに公孫賛はずっと心を痛めていたのだ。


「白蓮ちゃん、……白蓮ちゃん? もしもーし、聞いてる?」

「……え? ああ、すなまい。聞こえてるぞ」


 劉備の呼びかけに当初気付かなかった公孫賛が、慌てて反応する。


「えっとね、朱里ちゃんと雛里ちゃんが考えてくれた策があるみたいなの。まずはそれを聞いてもらえないかな?」

「ああ、積極的に献策してもらえるなら助かるよ」

「じゃぁ朱里ちゃん、お願いね~」


 まだ劉備もその内容を聞かされていないのだが、さっきからニコニコしっ放しであった。


「はい。まず最初に汜水関の状況について説明します。我が軍の斥候からの情報以外に……曹操軍から届けられた情報があります」

「私の所にも送られてきたな。……あの曹操のことだ、裏はあるだろうが情報自体は信じていいと思うぞ」


 曹操から送られてきた使者は、こちらで掴んだ情報を補填し裏付けるものであった。


「私もそう思います。恐らく、こちらに貸しを作っておきたいのと……我々の実力を測りたいのだと」

「桃香達は新参だし、黄巾の一件での実績は耳にしてるだろうからな……どの程度の実力があるのかは気になるってもんさ」

「にゃはははー。鈴々たちは注目されてるのだー」

「ならば、我らの力……存分に見せ付けてやりましょうぞ」


 フフフ、まだまだ青いでござるが……しかし、私も腕が鳴ると言うもの。

 桃香様の傘下に入って初めての大きな戦とあっては、気合でついつい力が入ってしまう……私もまだまだ……か。



 話が途切れたのを見計らって、諸葛亮は説明を再開する。


「当面の作戦は、曹操さんの情報が正しいことを前提に立てています。ただ……念の為、偵察も送っておきます。違いが出たらその都度修正しますの……それで宜しいですか?」

「ああ、構わない。作戦の説明を続けてくれ」

「うん。白蓮ちゃんも良いって言ってるし、それでいこうよ」


 各軍の大将からの同意を得て、一瞬他の人物に目を向けた諸葛亮が、すぐに視線を外して話を再開した。


「情報によると汜水関を守る将は華雄一人ということです。現在は籠城の構えを見せており、敵に動きはありません」

「ふむ、籠城となると持久戦を覚悟せねばならんのか……?」

「むー、チマチマ突付くのは得意じゃないのだ」


 汜水関は堅牢な砦……正攻法では落とすにしても時間がかかり過ぎてしまうであろうな。

 朱里と雛里で考えた策とやらに期待したいところだな。



「この華雄という敵将は武人としての矜持を持っており、それを咎められると激昂して暴走すると聞いています。私達はそこをついて砦外から華雄将軍を罵倒・挑発し、自ら門を開いて飛び出させるように仕向けます。中央に劉備軍、右翼に公孫賛軍、そして左翼に孫策軍を配置して華雄将軍が出てきたら一当てして下がり中央が惹きつけます。そして、素早く華雄将軍を討ち取り、混乱した敵軍の両側から城門に駆け込んで制圧しましゅ……はぅ」

「あわわ、だ、大丈夫? 朱里ちゃん」


 順調に喋っていたが、最後に舌を噛んでしまう諸葛亮とそれを心配する鳳統。

 しかし、そんな微笑ましい光景を冷ややかな目で見ている人物が一人いた。

 そして、2人はその存在を最初から意識していたのだ。いや、意識していたからこそ、その人物の視線に気付けたと言った方が正しい。



「しかし、……そう簡単に行くのだろうか?」


 関羽が疑問に思ったことを口にした。

 関羽自身も武に自信があり、誇りを持っている。しかし、だからと言って挑発されたからとノコノコ出ていくような真似を仮にも将軍の立場でするとは思えない部分があったのだ。


「愛紗さんの言うとおり、この作戦は確実に成功するとは言えません。華雄の人物像が情報と異なれば論外……ですが、私と雛里ちゃんはコレが現時点で最善と判断しました。……ど、どう思いますか、李鳳さん?」


 諸葛亮は関羽に話していたが、突然、件の人物に顔を向けて訪ねたのだ。


「……私……ですか?」

「はい。同じ軍師として意見を聞かせて欲しいのです」

「そうだぞ、お前は我が軍の軍師なんだからな。思うことは何でも言ってやれ」


 皆の視線が一斉に集まったが、李鳳の表情は変わらない。

 初めて見る蜀の面々を興味深く観察して独自の世界に浸っていたのは……言うまでもない。



【李鳳】


 おやおや、あの孔明からご指名されるとは……指名料はいただけるんですかね? 私は安くありませんよ、クックック。


「策自体は悪くないと思いますよ。ちなみに、華雄には誰をぶつけるおつもりですか?」

「それは……うちの愛紗さんにお願いします」

「うむ。この関雲長に任せられよ!」


 策には少々不安を感じているが、大役を任された関羽は上機嫌に応えた。劉備も頼もしい義妹の身を案じるものの、実際はそれ以上に期待が大きかった。


「人選も問題ないですね。関羽殿も華雄に似た武人ではあるでしょうが、実力で遅れを取ることは無いでしょう。……ただし、配置に関しては些か賛成し兼ねます」

「どうしてなのだー?」


 クハハ、こういう時に素直に聞けるのは馬鹿の特権だな。

 中途半端に頭の回る奴や裏を読もうとする者じゃ、こうも簡単に聞き返せないだろうしな……。燕人・張飛、なかなかどうして……。


「理由はいくつかありますが、最大の問題は劉備軍の兵種にあります」

「お主、我が軍の力を見縊っているのか!? 我が軍はそんな軟弱ではないわ!」

「……軟弱? そうなのだ、鈴々たちは弱くないのだ!」


 問題があるイコール弱いと思った関羽が怒りを顕にし、李鳳を睨む。

 怒る関羽を見て、勢いで叫ぶ張飛。


「ええ、弱いなんて思っていませんよ。むしろ、歩兵隊に関しては我が軍よりはるかに精強だと見受けました」

「お、おいおい……」

「なんや伯雷、ウチの部隊に難癖つけるっちゅうんか?」


 宥める為か、あるいは本心なのか、李鳳の発した言葉に当軍の大将と将軍の2人が反応を見せた。

 一方の関羽達は精強だと誉められて張飛は素直に喜んでいるが、関羽は公孫賛と李典の手前複雑な表情である。まさか君主の目の前で、自軍を卑下するような発言をする軍師が存在するとは思ってもいなかったからだ。


「まぁまぁ、落ち着いて下さい。我が軍が弱いわけではなく、あくまでも歩兵部隊の統率力や個々の錬度に関しては劉備軍の方が優っていると判断したまでです。念の為に言いますが、マンセーの部隊も強いですから自信を持って下さい。……それにしても、武将の皆さんは案外熱し易いことが証明されましたね。これなら華雄将軍もあっさり釣れるんじゃないですか、クックック」


 示し合わせたわけではないが、皆の視線が関羽に向いた。


「な、なぜ私を見るのですか!? わ、私は別に猪武者のような振舞いは致しませぬぞ」

「フフフ、自分の事というのは存外見えにくいものだな、愛紗」

「にゃはははー、愛紗はよくカッとなって暴走することが多いのだ!」

「せ、星、鈴々! い、いい加減な事を言うな!」


 反論する関羽であったが、本人以外の劉備軍の将達は苦笑いしか出来ないのであった。


「ククク、ならば試してみますか? 華雄同様、武に矜持を持つ関羽殿に少しだけ挑発してみたいと思います。勿論全て冗談の戯言ですが、それでもし関羽殿が自制し切れずに暴れるような事があれば……この作戦は間違いなく成功するでしょう。如何ですか?」


「……ちょっと待て。私が耐え切ったならば、この策は成功しないということじゃないか!?」


 もっともな事を言う関羽に李鳳は不敵な笑みで返した。


「実は……もっと凄い作戦を思いついていまして、そっちなら楽に砦を落とせるかと、クックック」


「なっ、なんだと!? そんな策が?」

「本当なのか、李鳳?」

「ええー、李鳳さんホント? どんな作戦なの? 教えて下さい」

「あの顔……ま~た、始まりよった……。ウチ知らんで」


 クックック、えらい喰い付きっぷりだな……。

 ……チビッコ軍師は薄いリアクションでちょっと寂しいな。


「クフフ、関羽殿が耐え切れたならお話しましょう。少しの間罵声に耐えれば終了です。それとも自信がありませんか? ご自身で猪武者だと認めることになりますが……」

「くっ、よかろう。耐えてみせる! その代わり、……分かっておろうな?」


 仇を見るような目で睨む関羽に、李鳳は一歩下がる。


「怖い、怖い……クヒヒヒヒ。趙雲殿、張飛殿、万一の際は抑え役をお願いします」

「フフ、承知」

「分かったのだー」

「では、始めます。……武で名を馳せていると勘違いする関雲長よ、貴女は自分が本当に強いと思っているのですか? だとしたらお笑い種だ。貴女の二つ名は賊徒によって広められたもので『美髪公』でしたか? クックック、思い違いも甚だしい、本当は『微薄幸』と書きます。自分は強いと勘違いした頭の可哀想な女武将を慰める為に付けたそうですよ」


 ピクッと眉間が反応した関羽だが、まだ我慢している。


「黄巾の一件で功を上げたと言っても、……弱い雑兵を斬り殺しただけでしょ。黄巾本隊や名のある武将を次々と討った魏の大剣・夏候惇に比べ遥かに劣り、天下の飛将軍・呂布の足元にも及ばない。せいぜい、華雄相手に何とか勝てるだけの凡将というのが実態なんですよ。身の程を知って下さい、クフフフフ」

「なんだとっ!?」

「愛紗ちゃん!」


 激昂しかけた関羽を劉備が何とか落ち着けるが、青筋が脈々と浮かび上がり鼻息も荒くなっている。

 さらに李鳳の追撃は止まらない。


「自分より弱い者だけを相手にしてきた腰抜け将軍で、その弱い賊に同情されて良い二つ名貰ったんでしたっけ、ククク。民の為と大義名分を掲げては弱い者イジメに励む外道。だいたい、その髪の長さは戦闘に不向きでしょう。混戦で捕まれたら一溜まりも無い……ああ、接近するが怖いから柄の長い槍を使ってるんでしたね。済みません、腰抜けなのを忘れてました。いっそ弓矢にしてみて「黙れー!!」は」


「もう許さん! 斬る!!」


 あっさりと我慢の臨界点を超えてしまった関羽が暴れ始めた。


「お、落ち着け。愛紗」

「にゃはははー。やっぱりこうなったのだ」


 宥める趙雲と、笑る張飛が2人がかりで押さえつける。


「切るのは私じゃなくてご自分の髪にして下さい、クックック」


 目論見は成功しているにも関わらず、おちょくるのを止めない李鳳。


「あ、愛紗ちゃん。落ち着いて、李鳳さんだって本気で言ってるんじゃないんだから」

「は、はわわ……」

「あわわ……」


 自棄になっている関羽を何とかあやそうとする劉備と隅っこでブルブル震える2大軍師。


「こうなるやろなって思てたで……。自分、ホンマ悪いやっちゃな」

「そこまでだ、李鳳。冗談にしても悪質過ぎるぞ、関羽に詫びるんだ」

「おやおや、確かに心にも無い罵声で怒らせてしまったかと思うと……胸が痛みますね。クックック」


 この期に及んで笑い続ける李鳳に呆れながらも、公孫賛は李鳳と共に謝罪することで関羽の怒りもようやく収まった。



「部下が済まなかったな、関羽」

「申し訳ありませんでした。冗談が過ぎましたね……お許し下さい、関羽将軍」


 殊勝に頭を下げる李鳳と公孫賛の顔に免じて関羽もしぶしぶ引き下がった。


「本来であれば、その頸刎ねているところだがな!」


 肩で息をしながらも、李鳳に脅し文句を伝える。


「肝に銘じます。……しかし、これでお分かり頂けましたよね?」

「は?」


 関羽が疑問符も声をあげる。


「……もしや、お忘れになったわけではありますまい……?」

「……あっ! も、勿論、覚えておったぞ。ふ、ふむ。これならば、きっと華雄も飛び出してくるに違いあるまい。流石は朱里と雛里の考えた策だ」


 その場の張飛以外の全員から哀れみにも似た視線を受ける関羽であった。


「ふむ、策が有効なのは合点いったが……我が軍の兵種が問題とは一体何なのだ?」


 とんだ災難に遭ったが、当初の疑問を思い出して趙雲が訪ねる。


「騎馬隊……ですね?」

「……雛里?」


 半身を諸葛亮の背後に隠したままで鳳統が答えた。


「ええ、その通りです。今回の作戦で一番大事な事は何だと思いますか、劉備殿?」


「えっ、私? う~ん……団結力、かな?」


 クックック、なかなかHAPPYな答えだな。



「鳳統殿はお分かりですよね?」

「……疾さ、です」


 That's right! ガキンチョだけど、やっぱり頭脳レベルが半端じゃないのかねぇ……?


「まさしく。疾風のような速さ、早さが今回の作戦において最も重要なのです。持久戦になれば兵が疲弊するだけでなく、状況がどんどん不利になります。軍議でもご覧になったでしょう……あの総大将の指揮下では諸侯の団結など望めるはずも無い。……更に糧食の残量も異なってくれば余計な争いが生まれる懸念もあります。だからこそ、兵の消耗・被害を最小限に留めて最短で最大の戦果を得るのに、本当に中央が劉備軍でいいのですか?」

「…………」


 鳳統は何も言わず、帽子で顔を隠し俯いてしまった。


「雛里ちゃん?」

「どういうことだ、李鳳?」


 劉備が鳳統を心配し、公孫賛が李鳳に問う。


「劉備軍の主力は歩兵隊ですよね。いくら鍛錬を積んだとは言え、その移動速度が馬に勝てるはずありません。華雄軍の騎馬隊を惹きつける際に少なくない犠牲が出るでしょう」

「……それは覚悟の上です。愛紗さんが華雄将軍を討ってくれれば、その見返りは十分だと判断します」


 鳳統に代わって諸葛亮が返答した。


「華雄を惹き付け軍団を分断することに成功したとして、逃げ場を失った敵兵は死兵と化す可能性が高い。そうなれば、武将の方々はともかく……兵士の被害は増えるのではないですか? その犠牲も覚悟の上ですか、劉備殿?」

「…………」


 鳳統が俯いた理由をようやく理解した劉備だったが、李鳳の問いに答えることが出来ないでいた。



「よし、ならば我が軍が中央に布陣する」


 沈黙の劉備に向かって公孫賛がそう告げた。


「……え?」

「私の騎馬隊なら敵を上手く牽制しながら被害を最小限にして撤退出来るさ。だから、桃香達が右翼に入れ」

「ぱ、白蓮ちゃん?」

「公孫賛殿! 華雄めの相手は私が致しますぞ!」


 突然の配置変更の要求に、手柄を奪われると思った関羽が声を荒げた。

 しかし、当の公孫賛からの返事は予想外のものであった。


「華雄の相手は関羽がやればいい。私達はお前が一騎打ち出来るように周りで勝手に動いてるさ。桃香、そういうことだから汜水関落とすまで関羽を借りるぞ」

「へ?」

「な!?」


 泥に塗れる役は自分達がやるから、戦場の華はお前が飾れと言ってるに等しい発言に皆が驚く。

 その公孫賛の言を李鳳が紡ぐ。


「では、劉備軍と孫策軍には分断後に敵の横っ腹目掛けて挟撃をかけてもらいましょう。孫策は嗅覚に優れているので、突入の時機を誤ることは無いでしょう。我が軍には新たに採用した新型の強固な盾がありますので、他の軍に比べても防御面では抜け出ていると自負します」

「開発したんはウチやで」

「そうだな。あと……出来れば砦への一番乗りは孫策軍に譲ってやってくれないか? 参戦を買って出てくれた恩義があるんだ。桃香達は華雄の首で我慢してくれ」


 関羽は耳を疑った。

 劉備は感動していた。

 李典は呆れ、張飛は笑っていた。


 しかし、諸葛亮と鳳統は李鳳を見詰めていた。

 その李鳳は諸葛亮と鳳統を見詰め返していた。



【趙雲】


 お人好し、ここに極まれり……でござるな。

 フフフ、変わった変わったと思っていたが……本質は何も変わっておられぬな……。

 やれやれ……つくづく王には向いておられん御人だ。

 ……しかし、また仕えるのも悪くないと思ったのは、初めてだな。




【李鳳】


 クヒャヒャヒャヒャ、流石は我が主君。

 笑わせてくれるじゃないか……楽しくなってきたよ。



「李鳳さん」


 ん? ガン見してきたお二人さんか……。


「どうされました?」

「……どこまで、気付いていたのですか?」


 かなりの小声で周囲には聞かれたくないようだ。


「おやおや、何のことでしょうか……私には分かり兼ねますが」

「…………では、私達の策以上に楽に攻略出来る作戦とは何だったのですか?」

「おっ! それはウチも知りたかったんや。何やったんや? ……って言うか、そんなんあるんやったらそっちやろうや!」


 しれっと聞き耳を立てていた李典が会話に割り込み、周囲も注目し出した。


「……あれは関羽殿を釣る為の餌でして、特別何かあるわけじゃないですよ」

「な~んや……期待して損したわ」


 ガックリ肩を落とす李典とは対照的に、諸葛亮と鳳統は疑いの目を向けていた。


「ククク、強いて挙げれば……どんなに温厚な人間でも激昂させられる話術、ですかね」

「伯雷の口の悪さは幽州一やからなぁ」

「照れるじゃないですか。クックック」

「誉めてへん、誉めてへん」


 そうだ! 良い事を閃いたぞ。


「さぁ、関羽将軍!」


「なっ、なんだ?」


 突然、名を呼ばれた関羽は少し慌てた様子である。

 李鳳はご機嫌な様子で話を続ける。


「これから開戦までの間に華雄でなくても正気を失うような罵声の数々を伝授しますので、発声訓練をしましょう!」

「ちょ、ちょっと待て。別に私はそんなこと頼ん――」


 ぐいぐい関羽の手を引っ張る李鳳。


「さぁさぁ。これで明日から関羽将軍の名声が更に轟くこと間違い無しですゥ」


「こ、こら! 引っ張るな! と、桃香様~」

「あ、あらぁ……。が、頑張ってね、愛紗ちゃん。応援してるから……ハ、ハハハ」

「ご愁傷様やで。ウチを恨まんといてな~」



お読み頂き、ありがとうございます。

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