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海を越えた破綻者  作者: パトラッシュ
反董卓連合の結成
42/132

42話


 連合初の軍議が終了し、出発の為に解散となった。




――連合軍総本陣・天幕外――



 自陣に戻ろうとする一人の武将に声がかかった。


「孫策!」


 呼ばれ振り向いた先には夏候惇の姿があった。


「あら……久しぶりね。どうしたの?」


 夏候惇は黄巾の乱の折、孫策の主である袁術の領地に無許可で軍を進めたことがあり、その際に世話になったという経緯があったのだ。


「うむ。我が主が挨拶したいと……」

「……陳留の曹操が?」


 大物からの突然の挨拶要望に目を細める孫策。

 すると、夏候惇の後方より小さな影が近づいてきた。


「私の名、知ってくれているのね。光栄だわ」

「黄巾の首謀者を討った曹孟徳の名くらいは、流石に知ってるわよ」

「なら、話が早いわ。先日はうちの部下が随分と借りを作ってしまったようね」


 値踏みするように孫策を見据えて話しかける曹操。


「借りねぇ。……盗賊退治を手伝ってもらったし、楽させてもらったから別にいいんだけど」

「そうもいかないわ。この借りは折りを見て、必ず返させてもらうわ。よく覚えておいて」

「……この戦いで?」


 孫策も曹操の意を推し量るかのように言葉を選ぶ。


「さぁ。この戦いか、この先の別の機会か……」

「そ。まぁ、期待しないで待っておくわ」


 交差する2人の英雄の視線。

 そこに空気を読めない魏の大剣が切り込む。


「心配ない、期待して待つがいいぞ。華琳様も私も借りは必ず返すからな! あの李鳳にだって……必ず返してやる!」

「……李鳳?」


 夏候惇の口から衝いて出た名前に孫策が反応した。


「ああ。奴には気をつけた方がいいぞ」

「へぇ、知り合いなの? 何かあったって口ぶりだけど」


 孫策は興味津々で聞き返す。


「卑怯な男なんだ! 奴は――」

「孫策! 何をしておる! 早よう来やれ!」


 夏候惇が話そうとしたその時、袁術の苛立った声が聞こえてきた。


「ちっ……うるさいわねぇ……。……悪いんだけど、袁術が呼んでるから行くわ。夏候惇、話はまた今度聞かせてちょうだい。曹操もまたな」

「あ、ああ」

「ええ」


 そして、孫策は立ち去って行った。

 残された曹操と夏候惇は、と言うと。


「華琳様……」

「流石は江東の虎の娘ね。春蘭の言ったとおりの人物のようね。いい目をしている……。それにしても……貴女、自分から痴話を語る気なの?」

「へ?」


 恥の上塗りという言葉を教えてあげるか迷う曹操であった。






――劉備軍・本陣――



 劉備軍のとある天幕の中で、異常に激しく興奮する女性が居た。


 この軍の大将・劉備玄徳その人である。


 陣地に戻った劉備は仲間に軍議での出来事を順を追って最初から説明していたのだが、終盤に起こった袁紹と公孫賛のやりとりを語り始めた途端に豹変してしまったのだ。




「本当なんだよ! すーーーーっごく格好良かったんだから、白蓮ちゃん!」

「お、落ち着いて下さい、桃香様。誰も疑っているわけでは御座いませんから、少し驚いているだけですから」

「にゃはははー。お姉ちゃん、必死なのだー」


 身を乗り出して手をパタパタ振り皆に猛烈アピールする劉備を、関羽が何とか落ち着かせようと試みていた。

 それを見て張飛は大爆笑していた。


「ふぅむ……あの伯珪殿が……?」


 二ヶ月前までは公孫賛の所で客将を務めていた趙雲にとっては、俄かには信じられないことだった。


「うぅーー、ホントだよ! ねっ、ねっ! 朱里ちゃん! 見てたよね! ねっ!?」

「は、はひぃ……」

「あわわ……」


 劉備の鬼気迫る形相に小柄な諸葛亮と鳳統は抱き合って震えている。


「桃香様、二人が怯えております!」


 関羽の一喝に我を取り戻した劉備が周囲を見渡す。


「あ……、ごめんね。朱里ちゃん、雛里ちゃん」


 すっかり萎縮してしまった2人に陳謝する劉備だが、内なる情熱はまだ鎮火したわけではなかった。


「桃香様、少し落ち着かれよ。朱里、お前からもう一度状況を話してくれないか?」


 興奮した劉備の説明では埒が明かないと判断して、趙雲は諸葛亮に説明を求めた。


 諸葛亮は皆の注目が集まり緊張する中で、カミカミながらも詳細を話したのだった。

 しかし、劉備にも諸葛亮にも共通して皆に伝えていない事実があった。


 李鳳の存在だ。


 劉備の場合、一刀とは逆で公孫賛のインパクトが強烈過ぎた為に李鳳が印象に残っていなかっただけである。

 しかし、諸葛亮は敢えて語ろうとしなかったのだ。李鳳の言動を故意に伏せたのである。


 そして、この場で鳳統だけが何かを隠している事に気付いており、心配そうに諸葛亮を見詰めていた。



 諸葛亮の説明を受けて、関羽が概要をまとめた発言をした。

 これは主に張飛の為にやっている行為である。


「我らだけで汜水関を攻略せよという無理難題を袁紹殿に押し付けられそうになった所、公孫賛殿が蛮勇を奮ったわけですな」

「そうなんだよ! 白蓮ちゃん、堂々として素敵だったなぁ」

「よく分からないけど、公孫賛のおねーちゃんもなかなかやるのだ!」



 目を閉じて腕を組み黙って聞いていた趙雲が、話が一段落するや否や劉備にある提案をした。


「桃香様。百聞は一見にしかずと申しますし、時機を見て伯珪殿との接見の場を設けて頂きたい」

「うん、いいよー。白蓮ちゃん、軍議終わったらすぐ飛び出しちゃったから……私もゆっくりお話ししたいんだ! ねっ、朱里ちゃん」

「はい。でも、まずは此処を発つ準備を始めませんと……」


 はしゃぎ過ぎて肝心な事を忘れていた劉備が慌てて指示を出す。


「そ、そうだったね。愛紗ちゃん、鈴々ちゃん、それに星ちゃん、部隊の指揮をお願いね」

「はっ!」

「おう、なのだ!」

「承知」


 そのまま天幕を出て行く3人を見送って、劉備が思いついた事を口にした。


「行軍中に一度白蓮ちゃんを訪ねて関所攻略の策を練ろうよ。呼び出すのは失礼かもしれないけど、孫策さんにも声かけておいた方がいいかな?」

「そうですね。……使いは送った方がいいと思います」


 思う所もあるようだが、劉備の提案を支持した諸葛亮。

 そして、終始黙って流れを見ていた内気な鳳統。


 蜀が誇る2大軍師はそれぞれ何を思い、何を考えているのだろうか。



亀展開が続きます。

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