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海を越えた破綻者  作者: パトラッシュ
反董卓連合の結成
41/132

41話


――連合軍・総本陣――



 最後に到着した曹操軍以外の諸侯は皆、一つの天幕に勢ぞろいしていた。



【北郷】


「おーっほっほっほ! おーっほっほっほ!」


 な、何だ……!? もしかして、これが例の……?



 無駄とも思える程豪華な装飾が施された一際大きい天幕に入ると、最奥から女性の笑い声が聞こえてきた。


「……久しぶりに聞いたわね。その耳障りな笑い声……麗羽」

「華琳さん、よく来てくださいましたわ」

「……」

「さーて、これで主要な諸侯は揃ったようですわね。華琳さんがびりっけつですわよ、びりっけつ」

「……はいはい。それより時間が惜しいわ、軍議を始めてちょうだい」


 なるほど……事前に秋蘭に聞いておいて良かったよ。

 初見だったら絶対肝を冷やしただろうな……言われっ放しで黙ってる華琳もそうだけど、あの春蘭が何もしないのにも吃驚だよ。


 それに……びりっけつなのは半分以上は袁紹のせいじゃないか。明らかに他の諸侯よりわざと遅く使者を送っておいて、華琳に対する嫌がらせだろ。

 強行軍のせいで俺のお尻がどれほどのダメージを受けたか……。


 ここまで案内してくれた顔良は袁紹の側に移る際に、控えていた衛兵に椅子を持ってくるよう伝えてくれていた。

 とてもありがたいけど……クッションの無い椅子は現在のお尻にとっては拷問に等しいな。いや、気持ちはすごく嬉しいよ。


 ……って思ってたんだけど、華琳の分だけなんだな。

 ……なんかすっごく恥ずかしい。

 一番最後だったから数が足りないだけかもしれないけど、これ自体も嫌がらせじゃないかって思っちゃうよ……。


 それにしても……有力諸侯って女性ばっかなんだな。男って、俺だけじゃないよな……?



 腰に手を当てたまま、甲高い笑い声をあげる袁紹。

 特に気にした様子もなく流している曹操。

 同じ髪型をした2人のやりとりを黙って見守る両配下。

 静観する馬超と公孫賛。

 傍観する袁術とオロオロする劉備陣営。



「それでは最初の軍議を始めますわ。知らない顔も多いでしょうから、まずそちらから名乗っていただけますこと? ああ、華琳さんはびりっけつですから、当然一番最後ですわよ。おーっほっほっほ!」

「……はいはい、それでいいから早く進めてくれるかしら」


 見た目は大人だけど、中身は子供みたいで…………華琳とは正反対だな。女性版のピーターパン症候群みたいなものかな?

 華琳のような威厳や風格は今のところ感じないけど、あれでも英傑の一人……なんだよな……。



「なぁ、袁紹も華琳と同じ西園八校尉ってやつなんだよな……? 何か上からの物言いに聞こえるんだよな……」


「そうだろうな、袁紹は司隷校尉でもある。恐らく……集まった諸侯の中では一番地位が高いだろう」


 周りの顔ぶれを見回して秋蘭が教えてくれた。

 ……パワハラに近い行為じゃないかよ。華琳が黙ってるから俺も何か言うつもりはないけど……腹立つなぁ。



 自己紹介は袁紹の左隣から反時計周りに進められた。


「袁術じゃ。河南を治めておる。まぁ、皆知っておろうがの! ほっほっほ!」


 ……従姉妹だけあって袁紹によく似てるな。こっちは見た目も子供だから、微笑ましいな。なんか応援したくなっちゃうよ。



「私は美羽様の補佐をさせて頂いてます、張勲と申しますー。こちらは客将の孫策さん」


 張勲に紹介された孫策は立ち上がり、黙礼を一つしただけで座ってしまった。


 あれが春蘭の言ってた孫策か……。

 リアクション薄かったけど、何か持ってるって感じの風貌してるなぁ。



「涼州の馬超だ。今日は馬騰の名代としてここに参加することになった」

「あら、馬騰さんはいらっしゃいませんの?」

「最近、西方の五胡の動きが活発でね。袁紹殿にはくれぐれも宜しくと言付かってるよ」


 また知ってる名前の武将だ……錦馬超。後の劉備軍が誇る五虎大将軍が一人って記憶してるけど……やっぱり女の子なんだな。



「あらあら。あちらの野蛮な連中を相手にしていてはなかなか落ち着く暇がありませんわねぇ……」

「……ああ。すまないが、よろしく頼む」


 五胡か……そっち関係はあんまり知らないんだよなぁ。西方ってことはチベット系か?



「平原郡から来た劉備です。こちらは私の軍師の諸葛亮」

「よ、よろしくお願いします」


 あの2人もか。この時期はまだ三顧の礼は済んでないはずだけど……やっぱり俺の知ってる歴史とはちょっとずつ変わってるんだな。そうなると時系列予測はますます難しくなるな……なんとか華琳に有益なアドバイスをしてあげたいんだけどな……。

 それよりも……だ、この世界の伏竜は萌えるなぁ。なんて言うのかな……兄性本能をくすぐられるよ。季衣と言い、流流と言い……この世界は俺を萌え殺す気なのか。



「幽州の公孫賛だ。こっちが軍師の李鳳。よろしく頼む」

「……どうも」


 公孫賛の脇から顔だけ出し、一礼して再び座る李鳳。


「あっ! あいつって確か凪達と同じ街に居た……?」


 俺以外の男の声が珍しくて反応してみたら、なんか見覚えのある顔だった。慌てて春蘭と秋蘭に確認する。



「間違いない! あのダサい服装と受けた屈辱だけは一生忘れん!! よもや公孫賛の所に身を置いていたとはな、董卓軍であれば思う存分相手してやれたものを……」


「いや、あれは迷彩服って言って…………まぁ、いいか」


「姉者、くれぐれも軽はずみな行動は慎むように。会いに行きたいなら私か華琳様に相談してからにしてくれ」

「むぅ……分かっている」


 春蘭は搦め手に極端に弱いからなぁ……猪武者の宿命みたいなもんか。ジャンケンで言ったらグーしか出さないもんな……チョキや同じグーが相手なら大抵は粉砕するだろうけど、パーには成す術無しって感じだよな。



「次、びりっけつの華琳さん、お願いしますわ」

「……典軍校尉の曹操よ。こちらは我が軍の夏候惇、夏候淵……それから、北郷」

「「「「っ!?」」」」


 な、何だ……?

 何で俺の所で、場がざわつくんだ……?



 天幕内で起きたどよめきを聞いて一刀は内心ビクついていた。

 何かをやった覚えは無い。しかし、以前にも自覚無くやらかした実績があった為、一刀はまた曹操に怒られるのではないかと恐れていたのである。


「あーら。その貧相なのが、天からの遣いとかいう輩ですの? どこの下男かと思いましたわ」


 ……は? 天から……!?



「か、華琳?」


 意味がよく理解出来ずに一刀は曹操に助け舟を求めた。


「適当に噂を流しておいたのよ。まさか、皆が知っているとは思わなかったけれど」


 そう名乗るようには聞いてたけど、広がり過ぎだろ……。それだけ救世主のような存在を民衆が渇望してるってことだろうな。

 うわっ! あの李鳳って迷彩服の子すんごい見てくるよ。前に会った時は名乗れなかったし、ビックリさせちゃったのかな……。まさか、俺なんかが天の御使いだなんて思いもしなかっただろうからな。俺も救世主って柄じゃないけど、少なくても目の届く範囲の人達には幸せに暮らして欲しいよな。




「ゴホンッ! さて、それでは……最後はこのわたくし、袁本初ですわね!」


 咳払いをして場を静まらせ、満を持してと言った風に名乗りをあげようとした、その時――。


「それは皆しっているから、いいのではなくて?」


 妨げるように曹操から放たれた一言。


「だな。今回の主催者にして有名人だから、みんな知ってるだろ」


 曹操に続き、二の矢を放つ公孫賛。


「そ、それはそうですけど……っ!」


 そして、瀕死の袁紹に止めの一矢が馬超から射られた。


「軍議を円滑に進めるための名乗りだろ? なら、いらないんじゃないか?」

「うぅ……三日三晩考えた名乗りですのに……。まぁ、仕方ありませんわね。有名人なのですもの、わたくしの事は皆、とっくに熟知しているということで」


 何だ、この人……。

 ある意味では本当に凄い人な気がしてきたな。こんな上司を持った顔良は凄いな……それに比べて俺の職場は恵まれ過ぎてるんじゃないか……?





「では、軍議を始めさせて頂きますわ! 僭越ながら、進行はこのわたくし! このわ、た、く、し、袁本初が行わせて頂きますわ! おーーーっほっほっほ!」


 呆れていた大半の諸侯も軍議が開始されて目の色が変わった。


 議題となったのは『現状と目的の確認』『都までの経路』『総大将の決定』であった。


 最初の議題について、都で暴政を働いている董卓の討伐というのは共通認識であったが、董卓という人物の詳細について情報を持っている者は居なかった。唯一領地の近かった馬超が何か知っているかもと思われたが、彼女が語ることは無かった。


 次に経路についてだが、大軍である為に街道に沿って移動することになった。行軍の順番は公平にクジで決定される。

 また、途中に存在する汜水関と虎牢関の大きな関所での戦闘が予想された。汜水関は華雄、虎牢関は呂布と張遼がそれぞれの関所を守っていると報告されていたが、それは連合結成前の情報であった。

 そこで、間者を放って改めて調べる必要があるという意見が挙がった。


 それに食い付いたのが劉備陣営と公孫賛である。

 劉備は一刻も早く都の民を救いたいという想いで諸葛亮に相談し、公孫賛を通して汜水関の調査の任を買って出たのだった。


 それが火種となり予想外の結果を生んだのである。


 なんと袁紹が調査ついでにそのまま汜水関を劉備と公孫賛らだけで攻め落とせと言い出したのだ。

 とんでもない横暴な発言だが、袁紹をよく知る諸侯は“またか”と呆れながら静観していた。


 しかし、黙っていられない者達もいた。

 当人である劉備達だ。

 劉備は袁紹へ抗議すべく勢い良く立ち上がった。


「そ、そんな……私達だけなんて、無茶ですよ……!」

「どうしてですの? 都で苦しむ民の為にも、ご自分達で頑張ろうとはお思いになりませんの?」

「そ、それは……思いますけど……でも……」


 しかし、無茶苦茶な言動を続ける袁紹に対して抗議そのものは勢いなく……実に弱弱しいものだった。

 家柄はともかく、地位は集まった諸侯の中では最低位である劉備が、最も地位の高い袁紹に不当とは言え強く出れない現実を表しているようにも見えた。

 劉備の場合は、その誰にでも優しい性格が大きく影響していたのだろうが。


「それに、白馬長史の白馬軍団は、砦一つも満足に落とせないとおっしゃいますの?」


 劉備のことをよく知らない袁紹は、その矛先を今度は公孫賛に向けたのだ。


「所詮、蛮族を相手に野原を駆け回るのが精一杯なのですわねぇ……。雪が降れば犬だって庭を駆け回りますのに。おーっほっほっほ!」


 分かり易い挑発に慌てて劉備が公孫賛を宥めようとした、まさにその時――。



「クックック、雪が降って駆け回る犬は単に状況の変化に興奮しているだけで、豪雪地域に生きる犬は雪に何の関心も示しませんがね」


 天幕内に響いていた甲高い笑い声が突如止んだ。

 その原因は公孫賛の隣に座っていた李鳳の静かな発言だった。


「な、なんですの……いきなり……?」

「犬というのは非常に利口で優秀なんですよね。古くからキツネ狩りなどでも重宝され、主人の意向に沿って忠実に働きます。時に殺さず、獲物を追い詰める為に統率の取れた集団行動をやってのけます。非常に頭の良い動物なんですよね、馬鹿みたいに突撃しか指示しない無能な大将なんかよりよっぽど使えるとは思いませんか? ククククク」

「な、何を言ってますの……?」


 あまりに突然な言動に驚き、更に言ってる意味がよく分からない袁紹は戸惑う。

 多くの諸侯が、劉備や諸葛亮さえも驚いて制止を忘れてしまっていた。


「フフフ、それは言えてるわね」

「ぷっ、あははははははははは」


 そんな中、曹操と孫策が笑い始めたのだ。

 ある意味全く空気を読めていない李鳳の皮肉と袁紹の間の抜けた表情がツボなのである。


 しかし、曹操にだけは負けたくない袁紹は、独自の解釈で曹操を更に上回る笑い声をあげた。


「おーっほっほっほ! 華麗な突撃を指揮するわたくしはそこいらの犬など比べようもない程に優秀ということですわね。分かってるじゃありませんの。やはり先鋒は白蓮さん達に任せてあげますわね、犬には負けたくありませんでしょ? これは決定ですわ」


 袁紹をよく知る人物でなくとも、これまでのやりとりを見てきたのだから皆分かっていた。

 この袁紹という女性がどれだけ自分勝手で我が侭なのかを……。


 無理が通れば道理が引っ込むという生活を幼少より送ってきた袁紹は、最終的に自分の意見は通ると信じて疑わない。

 逆に、周囲の多くが諦めてしまうからだ。 


 あるいは曹操であれば対抗出来たかもしれないが、標的にされたのは温和な劉備と公孫賛である。

 その性格を少しでも知る者ならば胸を痛める状況だろう、彼女達は頼まれると断れない性分だったのだ。


 誰もがこの決定通達を呆れと哀れみの感情で仕方ないと飲み込んでいた……2人を除いては――。



「断る!」


 公孫賛は強い拒絶を表す異議を申し立てたのである。


「……白蓮さん、今、なんとおっしゃいましたの?」

「我らの軍だけで先鋒は出来ない、だから断ると言ったんだよ。麗羽」


 これには袁紹だけでなく、他の諸侯も驚いていた。

 李鳳だけは真名で呼び合ってる関係に驚いていた。


「なっ! 白蓮さん、この期に及んで臆病風に吹かれましたの?」

「麗羽。私の軍には戦うことを恐れる兵などいない。だがな、無謀な戦いで死なせていい兵だって一人もいないんだよ! 私自身は臆病で結構、罵声や嘲笑ならばいくらでも受けよう。だからこそ、助力を請うことに恥など無い!」


 公孫賛の剣幕に、袁紹もたじろぐばかりである。


「そもそも連合を作ったお前が桃香に言ってる事自体おかしいんだ! 自分達の力で出来るんなら連合になんか参加せずやってるさ、桃香はそういう奴なんだ。それが出来ないから、彼女も、私も、ここに居る全員が集まったんじゃないのか? 都の民は当然救うさ、だけど、その為に他の民が不必要に犠牲になったら意味ないだろ! 兵だって同じ民なんだぞ! 協力を惜しむつもりはないが、無茶な命令を押し付ける気なら……それなりの対応を取らせてもらおう。……我が軍が犬と同じかどうか思い知ることになるぞ」


 断言する公孫賛に流石の袁紹もここに来て、ついに沈黙してしまった。

 そして、そんな状況だからこそ、火を見ると迷わず油を注ぐ男が黙っているはずがなかった。


「文字通り、犬死だけは御免ですからね。クックック、おっしゃる通り……我々は犬ではありませんし、理不尽な行いをされたって色々流布することも可能ですね……誰かさんみたいに。クヒヒヒヒ」


 立場を弁えない物言いに、周囲の者がヒヤリとしていた。



「……私の軍が加勢するわ。いいわよね、袁術ちゃん?」


 しばらくの静寂の後、申し出たのは孫策だった。


「ふぅむ。そうじゃのぉ、孫策の軍だけなら構わんぞ。妾の強さを皆に見せ付けてやるのも一興よの。どう思う、七乃?」

「いいんじゃないですかー、お嬢様。自軍は一兵も動かさないのに手柄だけ頂いちゃうつもりなんて、悪辣過ぎますよ。よっ、この鬼畜君主!」

「にょほほほほ。もっと褒めてたも」


 見慣れた光景なのか、表面上は孫策に気にした様子はない。


「……と言うわけよ。そっちも納得かしら?」

「ああ。申し出に感謝する」


 公孫賛は姿勢を正して孫策に一礼した。


「いいわよ、別に」


 気にするな、と手を振る孫策だったが、その目は隣に座る李鳳を捉えていた。

 そして、李鳳もそれを感じていた。



 なんだなんだ、内部抗争勃発か!? と心配して強張っていた一刀に安堵の表情が戻った。


 ビックリしたなぁ……大人しそうに見えた李鳳が突然あんな挑発的なこと言い出すなんて……。

 うちにも春蘭や桂花がいるから、とやかく言えた立場じゃないけど……主君差し置いて発言しちゃって大丈夫なのかな……?



「……意外だったわね」


 華琳のつぶやきが聞こえた。


「そうだよな。ホント李鳳には驚かされたよ」


「いえ、私が驚いたのは公孫賛の方よ」


 ……公孫賛?

 すごく堂々とした態度で理不尽を跳ね除けてたし、流石は英傑の一人だと思ったんだけどな……。



「どうしてだ? 李鳳の言動や公孫賛に仕えていたってのも滅茶苦茶意外だったんだけど」


「……ええ、……確かにそれも、意外だったわね……」


 あれ、華琳にしては珍しく奥歯に物が挟まったような歯切れの悪い言い方だな……?



「李鳳に関してはああいう奴だと覚えておけ。私と姉者も以前、手痛い目を見たのだからな……そこまで意外とは思わんさ」


 へぇ、詳細は聞いてなかったから知らなかったけど……案外怖い奴なのかもな……。



「それは分かったけど、公孫賛が意外ってのはどういう意味なんだ? とても立派だったじゃないか」


「ええ、その通りよ」


「じゃあ、意外でも何でもないだろ……?」


「いえ、今の公孫賛からは以前には無かった、王の気概を感じたわ。ふふふ、とても興味深いわね。……恐らく、孫策もそれを感じ取ったはずよ」


 ああ、だから助力を申し出たのかな……?

 俺だって以前感じたのとは違う李鳳のギャップにビックリして、他のことは全然感じなかったなぁ……。

 公孫賛が変わったのも……案外、李鳳の影響だったりしてな。






「……ならこれで決定ですわね。白蓮さん、孫策さん、せいぜい頑張ってちょうだいな。というか、そんなことなんてどうでもいいんですわ」


 思い通りにならずご機嫌斜めだった袁紹が気持ちを切り替えて、本題はこれからだ、と軍議を再開させた。


「……で、何」


 華琳が眉をしかめて聞き返す。


「決まってますわ。この連合を誰がとりまとめ、仕切るかですわ!」


「「「「…………」」」」


 うわぁ、どうでも良いじゃん。むしろ……このバラバラな一団を率いるとかって誰もしたくないんじゃ……?



「わたしくはする気はないのですけれど……ただ、家柄と地位を考えた場合、候補はおのずと絞られるのではないかしら、と想ったりしなくもないのですけれど……でも、わーたーくーしーは、あくまでも……」


 分かります……超やりたいんだな……。

 小学生の時にいたなぁ……クラス委員長をホントはやりたいくせに、やりたくないけどどうしてもって言うならって引き受けたがる奴……。

 今まで散々揉めてた直後なのに、このメンタリティーは尊敬ものだな。



「なら、妾が……っ!」


 おお、勇者の降臨だ。俺は断然、袁術を応援するぞ! ファイトだ!



「はいはい、麗羽でいいわよ」

「私は誰でもいいぞ。他にやりたい奴はいるのか?」


 華琳がどうでも良さそうに袁紹を推薦し、馬超が先を促す。


「妾が……っ!」


 いいぞ、それでこそ村一番の勇者だ! 頑張るんだ!!

 拳を握り締めて熱いエールを送っていると、袁術の補佐を務めていると言っていた張勲と目が合った。

 そして、その目が語っていた。同志よ、と。分かるぞ、君の考えていること、感じていることが、ハッキリと分かる!

 俺達は言葉を発することなく、想いを同じくして心の中で叫び続けた。

 『フレー、フレー、え、ん、じゅ、つ!』『ガンバレ、ガンバレ、お嬢様!』と。



「なら決まりね。麗羽、貴女がやれば?」

「い……いいんですの……っ?」

「わら……」


 勇者ぁぁぁぁ……萌えたよ……。萌え尽きたよ……真っ白にな……。

 袁術、君は最高だ。それは俺が認めるよ、あとで季衣の為に用意した飴ちゃんをあげるからね。



「な、なら……仕方ありませんわね。皆がそこまでいうのであれば、不肖この袁本初めがお引き受けさせて頂きますわ! おーっほっほっほ!」


 こうして重要な議題を話し合った軍議は馬鹿馬鹿しく終了し、解散となったのであった。





最後まで読んでくれて、ありがとうございます。

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