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海を越えた破綻者  作者: パトラッシュ
反董卓連合の結成
40/132

40話

――反董卓連合・陣地付近の川辺――




 一夜明け切ってない翌日、李鳳の朝は闇夜から始まる。


 母親から受けた加護の影響は睡眠時間にも大きく及んでいた。

 余程のことが無い限り、三時間も眠れば李鳳の肉体は心身共にすっかり疲労を回復してしまうのである。


 今朝も誰よりも早く起きた李鳳は日課の鍛錬を開始していた。




【李鳳】


 ふぅ……精神統一には瞑想が一番だな。

 俺の場合は妄想で代用だがな、クックック。


 前世での途方に暮れるしかなかった20代のあの頃に、この瞑想でのリラックス法を覚えていたら……あそこまで壊れることもなかったのかな……?

 せっかく今世を楽しんでいるのに気付くとフラッシュバックのように脳裏をよぎる前世の悪夢……、記憶を引き継いだ恩恵に対するあまりにも大きな代償……。

 ゆっくりと、時間をかけて、丹精に破壊することで、形成された俺の人格は、受け継いだ記憶によって再構築された。

 ククク、毎朝欠かさず反吐が出そうな記憶を飽きもせず再生することから俺の1日は始まる。



 座禅組んでソレっぽくやってるが、効果有るのやら無いのやら……。

 百度の訓練より命を賭けた一度の実戦で得る経験値の方がやっぱ半端ないな、あの戦闘中に成長していく感覚は一種の麻薬だろ。もう二年以上感じてないがな、ククク。



 愛用の刀剣であるジャマダハル・那覇を両手に構える李鳳は閉じていた目をカッと見開いた。

 そのまま脳内で何百、何千回とシュミレートを繰り返した動きの再現を図る。理想の動きに近づける為に、気脈を開き肉体強化も併用していた。

 この1年半、李鳳は氣の研究とその応用に何よりも情熱を注いできた。


 空が白み始めてきた頃、汗だくになった李鳳がいた。

 用意しておいた水桶に手拭いを浸し、全身の汗を拭って荒れた息を整え、ようやく朝の鍛錬が終了する。



 この世界に再誕して、興味を惹かれて止まない存在との出逢い……それが氣だ。

 氣は実に面白く、奥も深い。

 黄蓋、華佗、楽進……これまでに会った氣の使い手はわずか三人のみ。そこから推測にするに、この不可思議世界においても氣は特別な存在ということだ。


 だが、実際には氣は誰にでも宿っている。

 生気、殺気、怒気、覇気、士気、笑気、鬼気……人は皆千差万別、状況に応じて様々な氣をその身に纏って日々を過ごしているのだ。

 それを無意識下で身体能力強化に充てているのが世間で猛将と呼ばれる人物であり、この世界では大半が女性となっている。

 俺は彼女らの氣の活用レベルを零段と仮称することにした。普通の一般人は無段である。


 それに対して黄蓋のように、意識的に氣の出力を調整し局所に集中させることが出来るレベルを初段とした。

 次に師匠のように鍼などの己の肉体以外の物質にも氣を纏わせられるレベルが弐段、楽進のように氣を凝縮し媒介を必要とせずに放出可能となれば参段である。


 段位の格差は扱いの難度でもあるが、それだけで優劣は決しない。

 それだけ氣は非常に奥が深いのだ。

 人体には経絡と気脈という氣の通り道が内蔵されているが、無段・有段者問わず普段は閉じている状態である。丹田で発生させた氣を気脈を開いて全身に廻し練り上げる事は有段者でも容易ではなく、この気功法は小周天と呼ばれる。更に上級の大周天と呼ばれる技法も存在している。


 また、応用技術と一言で言ってもその幅は広い。硬気功、軽気功、軟気功、発勁、化勁、合気、他にも多種多様の操氣法があるはずだ。同じ初段でも前者3つを扱えるか否かで技巧レベルに大きな差が生まれる。


 確かに参段と認定した楽進は氣のスペシャリストと言えるだろう。しかし、俺が目指すのは氣のエキスパートだ。

 極めるというよりは氣の深遠を見たいだけかもしれんが、クックック。


 でも、実は氣に関して今一番やってみたいことが出来ない日々が続いていて……正直欲求不満気味だ。

 ちょこちょこ李典をイジってガス抜きしてはいるが、ベクトルが違うので気分転換にはなっても問題解決にはならない。

 今一番やってみたいこと、それは――。




「軍師殿、こんな所におられたのですか……ずっと公孫賛将軍がお探しでしたよ」


 ふむ、妄想に浸っていると時間が過ぎるのは早いな。……すっかり汗もひいたし、急ぎ戻って着替えるか。

 流石に、この格好で会うのは……な。



 呼びに来た衛兵の後を追うように、桶を持って李鳳も天幕に戻って行ったのであった。






――公孫賛軍・本陣――



 天幕の中では主要な武官が集まって公孫賛から連合の状況と今後の指示を受けていた。

 今日は反董卓を掲げる有力諸侯が一堂に会する日である。賛同を表明した諸侯の中では比較的地位の低い公孫賛陣営は、共闘する大物との対面にやや緊張した面持ちであった。


「報告は以上だ。では各自部隊に戻ってくれ。午後は合同の軍議が開かれる予定だ。留守は……李典、任せたぞ」


「はいな、任しときぃ」


 手をヒラヒラと振って応える李典と天幕を後にする武官一同。

 李典から李鳳に公孫賛向き直ったは少しふくれっ面をしている。


「李鳳、今朝どこに居たんだ? お前がいないから私一人で袁家の面々に会いに行ってきたのだぞ」


 ……ああ、すっかり忘れてたな。鍛錬自体を秘密にするつもりもないが……まさかずっと妄想してました、なんて言えないしな。



「なんやなんや? 昨日行ったのに、また行ったんかいな?」

「いや、昨夜はもう休んでたようでな……結局会えなかったんだ」


「済みませんでした。兵士・軍馬の疲弊具合や糧食の残量を再確認にするのに時間を取られてしまいました」


 苦しいとは理解しているが、李鳳はとりあえず言い訳してみた。


「むぅ……そういう事はもっと正確に伝えておいてくれないと困るぞ。“ちょっと出てくる”だけでは、すぐ戻ってくると思うじゃないか」

「せやせや、ホンマはどっかで隠れて二度寝しとったんとちゃうか? ニシシシシ」


 公孫賛の苦言に便乗して、李典が茶々を入れる。


「大変申し訳御座いませんでした。以後注意致しますので、何卒ご容赦を」


 平謝りしてくる李鳳に、公孫賛はあまり強く言えなくなってしまった。

 しかし、李典は違った。むしろ水を得た魚のようである。


「アカンなぁ。悪い思てんねやったら罰受けてもらわんとな、ウシシ」

「お、おい。手荒なことは駄目だぞ、今怪我されると困るからな」

「ちゃうちゃう。それに今やのうて、都の件が片付いてから決めるっちゅうんでどないや?」


「…………」


 おのれマンセー……日頃の恩を仇で返すとは……。巨乳にして小賢しいとは……ガッカリだぞ! 俺以外にそうであれよ!!



「まぁ、今回は約束してたわけでもないし……私としては大目に見てもいいんだが……」

「アカンで! 甘やかしたら調子に乗るだけや。ウチがちゃんと考えるさかい、それも任せたってんか?」

「むぅ……分かった。城に戻ってから再度検討するとしよう、此度の働き次第では温情を与えるので励めよ」


「は。肝に銘じ、死力を尽くします」


 優しい君主は嫌いじゃないよ。頑張っちゃおうかな、クックック。

 しかし、袁家との対面は午後に持ち越しか……。無能と揶揄されているようだが、彼女らの性別は女だ。この世界の女は総じて男より秀でている傾向が顕著だ…………敢えて馬鹿なフリをしてるだけかもしれんな。クフフ、早く会いたいもんだ。




 馬超軍、次いで劉備軍が到着し、最後の曹操軍がやって来たのは昼であった。


 参加者が全員揃ったことで、ようやく連合軍として最初の軍議が開かれた。

 それは茶番染みていて、それでも波乱に満ちていた。



展開遅いですが、今後もしばらくゆっくり進行します。

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