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海を越えた破綻者  作者: パトラッシュ
反董卓連合の結成
39/132

39話


――反董卓連合・集合予定地――




 集合日の前夜。


 すでに数名の諸侯が自慢の軍団を率いて参集していた。

 そして、その中には公孫賛の姿もあった。


 他の諸侯からは少し離れた場所に陣幕を張り、兵や馬を休ませるように指示を出した公孫賛は李鳳を伴って主催である袁紹のもとを訪れていた。




「申し訳ありません。袁紹様はもうお休みになられてしまい、面会はお断りしております」


「……そうか、それじゃ仕方ないな。また明日の朝出直すとするよ」


 公孫賛は袁紹配下の衛兵にそう告げて、踵を返した。

 そして、小さく呟くような声で李鳳に話しかける。


「なぁ、寝るには早くないか?」


 現在の時刻は戌時(20時)。

 日はすっかり落ちているが、就寝には少し早い時間帯であった。


「そうですね。よっぽどお疲れだったのか、はたまたお肌の美容を気にされたのか……クックック」


「あぁ~、後者の可能性が高いな」


「ククク、太い神経の持ち主で頼もしいじゃないですか」


「アイツの場合、図太いのもあるけど、無神経って方が正しいかもな。ハハハ」


 公孫賛の少し後ろを付かず離れず歩いていた李鳳があることに気付いた。


「おや、自陣はあちらですよ?」


 進む先とは逆の方向を指差して告げた。


「どうやら袁術もすでに到着しているらしくてな。……一応、挨拶だけしておく」


「……袁術、ですか」


 一瞬眼光が鋭くなった李鳳だが、公孫賛は気付いていない。


「袁家は名門なんだが、袁紹と袁術の仲はあまり良くなくてな……。袁紹に挨拶行って、袁術には行かなかったと知れると色々面倒なんだよ」


「……そう、ですか」




 その後は無言で歩を進め、今度は袁術軍の衛兵に面会を求める旨を伝えた。

 しばらくして、一人の女官がやってきた。


「こんばんは、私は張勲と申します。わざわざ訪ねて頂いて申し訳ありませんが、お嬢様はすでにご就寝されております」


「袁術もか!? ……はぁ、袁家は皆早寝の一族なのか?」


「袁家の皆様がどうかは存じませんが、お嬢様はいつもこの時間には寝てらっしゃいますよ」


 然も当然と言い切る張勲に軽く引く公孫賛。


「そ、そうか……。分かった、明日出直すとするよ。じゃーな」


「ええ、では」


 張勲に見送られて袁術陣地を後にした。


 自陣に戻ってきて李鳳が口を開く。


「クックック、袁家侮り難し……と言ったところですかね?」


「ハハハ、そうだな。まっ、これで文句は言われないだろ」


 疲れを隠せない様子の公孫賛は乾いた笑い声をあげる。


「見習うわけではありませんが、公孫賛様もお休みになった方がいいですね。行軍を急いだせいで疲労が蓄積しているはずですので……」


「……そうだな。半日早く着いたのだし、今夜はゆっくりするか。あとはお前と李典に任せるから何かあったら起こしてくれ、宜しく頼む」


「御意」




 公孫賛と別れ、自分用に準備された天幕に戻った李鳳は各部隊からの報告を一人でまとめていた。

 兵も皆疲れて休んでいる為、周囲は静かで虫の鳴く音が響いていた。



 静寂が続く中、突如李鳳が声を発した。


「どうぞ、周囲の人払いは済ませてありますので」


「……くそっ、なんで気付くんだよっ?」


 愚痴と共に姿を現したのは黒装束に身を包んだ丁奉だった。




【丁奉】


 ……糞野郎のくせに。

 この1年実戦で鍛え続けてきたオレが、軟弱な文官共と城に篭って宜しくやってたようなコイツにまだ気付かれちまうってのかよ!?



「クックック、たまたまですよ。積もる話もあるかと思いますが、まず報告を」


「……おらよ」


 ぶっきらぼうに竹簡を投げつける丁奉。

 それを受け取り、しばらく黙って目を通す李鳳。


 クソッタレ、結構本気で投げたのに焦りもしやがらねーか……。

 華佗様と筋肉達磨に鍛えられたからこその強さだと思ってたのに……陳登のダンナが言ってた通りってワケかよ。



「なるほど、流石は陳登。欲しかった情報はほとんど網羅されてますね。……ところで、その陳登は今どこに?」


「糞麗しい顔良将軍様のお側に控えたいってオレに報告書渡して出てたっきり会ってねーよ、探すのも糞アホらしい」


「は? ……ああ、また例の病気ですね。しかし、顔良と言えば袁紹軍の双璧……。ふむ、あるいは好都合か……流石は陳登です。クックック」


「糞キメェよ、意味分かんねーし」


 コイツの考えてることは何一つ理解できねーし、したくもねーな。



「ところで……貴女から見て気になる将はいましたか?」


「……なんでオレに聞くんだよ。人物評ならダンナの報告書に載ってただろ?」


「ええ、そうなんですがね……陳登はあくまでも文官視点なんですよ。武人の貴女の目にはどう映ったのか、気になるじゃないですか」


 気になる武将っつってもなぁ……オレが興味あるのは強さのみだ。



「夏侯惇、夏侯淵、文醜、顔良、それに曹操と孫策……」


 李鳳の眉がピクリと動いた。


「実際にこの眼で見た奴の中で、今のオレが一騎打ちで勝てねーかもしんねー相手だよ」


「おやおや、これは意外でした。ご自分の実力を正確に把握されているとは、クックック」


「ちっ、ダンナに教わったんだよ。彼を知り己を知れば百戦して殆うからず、ってな。今挙げた連中は10回やったら少なくとも7回は負けるだろうな……」


「孫子の兵法ですね。なるほど……武術だけでなく兵法を吸収し、知恵を磨くことは戦いの幅を更に広げますよね。ここ数ヶ月での急成長も頷けますね、クフフフフ」


 糞ムカツク野郎だぜ、何様のつもりだってんだよ。



「もう行くぜ。気ぃ進まねーが、ダンナ探さねーとな……あれでも糞護衛の対象だからよ」


「では、見つけたらコレを渡して下さい」


 そう言って、李鳳は丁奉に今しがた書き留めた竹簡を手渡した。

 その後、丁奉はそのまま何も言わず再び姿を消したのであった。





【李鳳】


 クックック、いよいよ明日から『反董卓連合 vs 董卓軍』という舞台公演が始まるわけですか。

 この世界の神に嫌われている俺は、てっきり公演前の舞台挨拶でピンクに遭遇するんじゃないかと思ってたが……杞憂だったな。一応プラン練って、脳内シュミレーション繰り返して、万全の準備は整えたんだ。


 来るなら来い、孫伯符!

 どうせ絡まれるのが運命なら、徹底的に相手してやるよ。


 黄蓋公覆、お前にはボコられた思い出しかないからな……今度は全て俺のターンだ、クヒヒヒヒ。


 曹操、劉備、孫権、袁紹、そして董卓よ。

 三国志を代表する英傑らよ、この舞台で踊る演者達よ。ストーリーは悲劇でも活劇でも構わない、剣劇で舞うのもいいだろう。駄作なら……俺が面白おかしく喜劇に変えてやろう、クヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ。



 こうして開演前日の夜は更けていったのだった。

誤字脱字などありましたら、指摘お願いします。

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