32話
短いです。
――李典の私室――
【李鳳】
「お疲れ様でした。いやぁ、見事なやられっぷりですね。くっくっく」
「イタタタタ、うっさいわ。今日はよう粘ったて誉められたんやで」
マンセーを訪ねてみると、痛めた腰を摩りながら寝台に寝そべっていた。
「聞きましたよ、いきなり歩兵部隊の部隊長候補に抜擢されるなんて驚きです」
「……せやろ。まぁ、ウチの実力からしたら軽いもんやで。ウッシッシ、もっと尊敬してええで」
勿論、大いに尊敬して活躍を期待してるよ。マンセーには俺の分も頑張ってもらわないと……。
「ほんで、今回は何を企んどるんや?」
「おやおや、心外ですね。私は公孫賛様と幽州の民草の平穏と繁栄のために」
「やめやめぇ。ウチがそんな寝言信じる思うとるんか?」
う~ん、腰と一緒に神経も擦れてきちゃったな、くっくっく。
この数ヶ月で李典は李鳳の性格の一端を嫌という程、理解させられていた。それは頼りになる反面、多大な迷惑も被ってきたからだ。火に油を注ぐのは当たり前で、燻っている火種を見つけると薪をくべるような男との旅は李典の精神を徐々に強靭なものへと変えようとしていた。
「それよりも先日の真名の件、先にバラすなんて酷くないですか?」
「なんでやねん、余計な諍いを避けようとしたウチの気遣いやないか。曹操さまの時の二の舞は御免やで」
「それが楽しかったりするんですが。くくく」
問答無用で斬り捨て御免の免罪符をゲットできる少ないチャンスなんだから、相方としては空気読んでもらわないと困るぞ。
「……ほんで、話逸らしたかったみたいやけど何企んどるねん?」
「……胸以外も成長されていたんですね。まぁ、太守様や民草の為ってのは嘘っぱちで、当然、自分の為ですよ。ですから、私の見たいものが見れて満足したら去るつもりです。マンセーは自由にどうぞ。此処が気に入れば私に遠慮せず残って下さい」
「相変わらず自分勝手な都合やなぁ。せやけど、今回はそれを許した太守はんが凄いで。星姐さんは王の器やないって言うてたけど、それでもでっかい器やとウチは思うけどなぁ」
確かにあっさり認められるとは意外だったな。・・・ある意味では大物なのかもな。まぁ、どう贔屓目に見ても遅かれ早かれ袁紹か曹操に潰される勢力だから先が無いのに変わりはないがな。武将が一人二人増えたくらいでひっくり返せるはずないでしょ、くふふふふ。
「趙雲殿が抜ける穴はマンセーが埋めてくれると期待してますよ。くくくくく」
「ウチに代わりが出来るわけないやん。……なぁ、姐さん説得すんの手伝うてぇや」
……個人的には、趙雲に早めに去ってもらいたいんだよなぁ……。少し話しただけで厄介そうなタイプだと感じたけど、初日の試合見て確信した。怖い相手はどっかに消えてちょうだい。
「趙雲殿にも志や夢があるみたいですからね、快く旅立ちを見送ってあげてはどうですか?」
「うーん……、せやけどなぁ……。姐さんの手解きでウチ強うなっとるんを実感してんねん。せやから、もうちっと……な?」
「ふむ、自身の為にという考えは気に入りました。趙雲殿は厄介で好きになれるか微妙ですが、いいでしょう。協力しますよ」
「へっ? ああ……まぁ、手伝うてくれるんやったら……ええか。頼りにしとるさかい、気張ってや」
これまでの旅で分かったけど、この世界の秀でた人物には女性が多いことは間違いない。女尊男卑の傾向が非常に強いが、権力者の全てが女性というわけでもなかった。劉表や劉璋は男だったし、他にも県令や相で男がいた……評判は良くも悪くもだったけどな。
宦官も男女入り混じってると聞いたけど……まぁ、どっちにしろ『玉無し』だから問題ないのかな、くっくっく。天子や宦官にも多少興味はあるけど、あんまり面白そうなイメージはないんだよな……。ただ、董卓の所業は是非とも見たいよな。三国志の中でもトップクラスを誇る極悪非道っぷり……ああ、見てみたい。多分、女だろうな……血気盛んで理不尽な暴力を楽しむ戦闘狂か、他人をゴミのように扱う冷血ドS女か――想像するだけで楽しくなってくるな。
おっと、いけない。それは今後のお楽しみで、今は公孫賛と趙雲でしたね。趙雲は……出てくまで観察と警戒はしておこう。公孫賛には踊る阿呆として存分に舞ってもらわないといけないからな、くふふふふ。献策や進言を聞き入れてもらえる位には信用度を高めておかないと、後々に楽しめない。……まぁ、無理そうだったら諦めよう。それで劉備の所にGOだな。そう考えると、趙雲とある程度仲良くしておいた方が良さそうだな。
公孫賛が期待以上の人物で本当に助かるな。有名な袁家と迷ったけど、こっちに来て正解だったな。ここが第二のスタートだ。記憶にある歴史上の劉備が意図せずに成立させてしまった最高に愉快な因果律、それを模倣させてもらおう、くははははは。
「では、行きましょうか。マンセー」
「あいよ」
くっくっく、俺のフィナーレはマンセーに突き殺されて完結するかもな。
寝台から飛び起きた相方の李典に微笑みながら、李鳳は今後の展開に胸躍らせ、自身の想像した最期を嘲笑した。しかし、それも悪くないかもと考え直して、また笑ったのだった。
最後まで読んでくれて、ありがとうございます。
しばらく更新出来ません。




