28話
黄巾の乱、継続中。
――長社のとある城――
右中郎将・朱儁率いる官軍と黄巾党の将・波才が潁川郡にて激突したが、なんと波才が官軍を撃破してしまったのだ。
その後、朱儁は長社へと逃走して、左中郎将・皇甫嵩と連合軍を組み籠城したのである。
これに対し波才は逃げた朱儁を追いかけ、城の周囲を包囲して執拗に攻撃を続けていた。
【李鳳】
李典は隣に居る李鳳に声をかける。
「なぁ……また、見とるだけなんか?」
「ええ、今回は官軍に策がありそうですし、多分大丈夫じゃないですかねェ、前回の敗走はかなり笑えましたが、クックック……」
笑い声を噛み殺す李鳳。
と言うのも、距離にして約200m以上先で官軍と黄巾党の激しい戦闘が続いているからだ。
余程大きな音でも立てなければ気付かれないハズであるが、李鳳は慎重に慎重を期していた。
今回も木陰に隠れて覗き見ている状態である。
李鳳と李典はこれまで何度も戦場を渡り歩いては、高みの見物を決め込んでいた。
李鳳曰く、官軍や各地の群雄の戦力分析を行っているとのことだが、毎度毎度楽しそうな笑顔で見学しているのを横目にしてきた李典は多少の罪悪感を感じていたのである。
呆れた表情で李典が声を上げた。
「笑い事ちゃうで……確かに、あの官軍はへなちょこ過ぎて正直呆れてしもたけどな」
「我々が途中から参戦していたとしても、大勢に変化はありませんでしたよ。あの戦は負けるべくして負けたのです。それだけ今の官軍が脆弱だということですね……情けない漢王朝の支配下にある民には同情しますよ、クフフフフ!」
「そない他人事みたいに……」
李典は呆れ顔で呟いた。
ククク……実際他人事だしなァ。
王朝や天子様も俺にとっては外国人だし敬う気にはなれねーよ。
内心で不敬な事を考えていた李鳳が今度は口を開く。
「有象無象の集まりの中でも、波才という指揮官はそれなりに優秀みたいですね。侮った将軍に落ち度があるのは明白、しかし今回は前回を教訓として油断は無いでしょうし、皇甫嵩将軍のお手並み拝見といきましょう」
「せやなぁ……こっからやと、今は何もでけんしな。何とか巻き返してくれるとウチも信じたいで」
「それより、曹操軍の噂は聞きましたか? 黄巾党の物資の拠点を焼き払い、その後も連戦連勝している今一番勢いのある勢力だって話ですよ……流石はマンセーの宿敵・曹孟徳ですね、クヒヒヒヒ……」
「はぁ……誰が、誰の宿敵やねん!?」
溜め息を吐きつつも怒鳴る李典。
ライバルの活躍は素直に認めてあげましょう。
相対的にマンセーの評価も上がるんですから、クヒャヒャヒャヒャ!
李鳳は諭すように語る。
「謙遜することはありませんよ。マンセーのあの宣言に私は心を打たれました。貧乳すでに死す、巨乳まさに立つべし。この世に蔓延る貧乳や幼女趣味の信者共を一掃して、巨乳の巨乳による巨乳の為の政を為すべく立ち上がり漢王朝を打倒するんですよね!?」
「するか! ウチがいつ、そないな事言うてん!」
李鳳のでっち上げに怒る李典。
あれ? 少し違ったっけ?
少し勘違いだったと訂正する李鳳。
「ああ、そうでした。寛大なマンセーは貧乳の方にも手を差し伸べ、胸の豊かな女性へと導く豊胸の教祖となるって言ってたんでした。黄巾の乱が平定された後に、胸筋の乱でも起こしますか? クフフフフ……!」
「耳腐っとんのか! 第一、そんなんしたらウチの首が飛んでまうやろ!」
「大丈夫ですよ。私がいつも見てますから、首を刎ねられる瞬間も見逃しません!」
怒れる李典に強く断言してみせる李鳳。
カメラが無いのが残念だな……マンセーに作らせてみるか、よくよく考えたら前世の俺の必須アイテムじゃないか。
戦場カメラマン宜しくのパパラッチやってからなぁ……クッヒッヒッヒッヒ!
李典は冷たい視線を浴びせて口を開く。
「そんときは絶対アンタも道連れにしたるからな……首だけになっても噛み付いたるわ」
物騒な事を言う李典に、手を合わせて拝む李鳳。
おやおや、どこぞの山犬にでもなるんですか、クハハハハ!
くわばら、くわばら……。
その時、城の周囲に火が放たれた。
正確には、角に刀剣を、尻尾にたいまつを括り付けられた大量の牛が、尻尾を燃やされて怒り狂うままに敵陣に突進したのだった。
「ほらほら、戦況に変化がありましたよ。楽しい冗談はお終いです」
「…………」
「なるほど、火計ですか。クックック……波才の軍は大混乱ですよ。オーレーィ出来ずに跳ね飛ばされたり、突き殺されたり、ざまぁないですねぇ」
ぶすっとする李典を余所に李鳳は嘲り笑っていた。
命懸けの闘牛ごっこをやる猛者はいないのか……夏候惇なら、あの群れも正面から跳ね返すのかな?
……容易に想像出来てしまった、アホ毛魏牛のブランドは伊達じゃないな。
同族嫌悪で徹底的に蹴散らしそうだな、クヒャヒャヒャー!
散ってく、散ってく。回れ右して一目散に敗走しちゃってるなぁ。
生き延びる為の行動としては間違ってないぞ。
すると、李典が突如叫び声を上げた。
「うげっ!? 伯雷、あっち見てみい!」
おやおや、レディにあるまじき声を――ほほぅ。
「噂をすればってやつですね。ククク……運命的だと思いませんか、マンセー?」
「……そ、そんなん絶対イヤやァァ。1匹で苦労しとるのに、更に、もう1匹の鬼なんぞ相手にできるかいな!」
曹操軍もナイスなタイミングで登場したな。
先陣は夏候惇か……牛と牛での挟撃か、クッヒャッヒャッヒャッヒャ!
マンセーが現実逃避している間は、存分に見学させてもらいますかねェ。
呆然とする李典の隣では、笑い転げる李鳳がいた。
そういや総大将の何進はまだ一度も見た事ないんだよなァ。
あんまりイイ噂聞かないけど……有能ってワケじゃないのかな?
ってことは男の可能性も高いが、有名人は大抵女なんだよな……うーん、まっいっか。
李鳳は考えるのを止め、隣の李典を見た。
李典はまだ呆然としていたが、構わず李鳳は声をかける。
「そうそう、マンセーにまた新たなお願いがあったんですよ」
「…………」
李典の反応は無かった。
おお、まるで死んでいるかのようだ。クックック……。
屍のように反応の無い李典の脇腹をツンと突く李鳳。
「キャゥ……な、何すんねん!?」
少し頬を赤くして抗議する李典。
一方の李鳳は溜め息交じりで語る。
「ふぅ、漸く気付いてくれましたか。マンセーにまた作って貰いたいモノがあるんですよ」
「おっ、何や何や? アンタの提案するモンはオモロイんが多いから、ウチの絡繰魂に火がつくねんなァ……あっ、そんかし拷問器具っちゅうんはナシやで!」
「クックック……分かってますよ。そうそう、ジャマダハルの修繕ありがとうございました。以前より使い心地が良いですよ」
「ニッシッシ、せやろ! ウチが丹念に鍛え直したんやからな、そんじょそこらの鍛冶師には負けへん仕事しとるつもりやで!」
どや顔でアピールする李典。
そんな李典を見て微笑む李鳳。
「クフフフフ……頼りにしてますよ。今回お願いしたいのは“投擲”用の武器でして、何種類かあります」
「ほぉ、投擲用はまだ作った事あれへんねん。やっぱりアンタは目新しいモンを言うてくるなァ」
「少し注文が細かくなりますが……大丈夫ですか?」
「任しときィ! ウチを誰や思とるんや!」
自信満々に胸を叩いてみせる李典に笑う李鳳。
「クックック……御見それしました。では――」
官軍と黄巾賊の合戦など最早二の次となってしまい、2人は武具討論に華を咲かせてしまったのであった。
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