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海を越えた破綻者  作者: パトラッシュ
黄巾の乱
27/132

27話


 黄巾党の一団が一つ、また一つとある拠点に集まっていた。

 そこは楽進たちの村から馬で1日程の距離にある廃棄された砦と報告されたのだ。

 斥候の知らせでは敵の数は約3万、しかし、既に物資の移動の準備を始めているそうで撤退するもの時間の問題とされていた。


 迅速な行軍で駆け付けた曹操軍は今、黄巾賊殲滅の軍議を開いている。

 近頃の頑張りが正当に評価された結果、北郷一刀は街の警備隊や開発部隊のリーダー職に任命されていた。

 勿論、今回の遠征に参軍しており軍議の場にも顔を見せている。




――曹操軍の野営地――


【北郷】


 早駆けで移動したおかけで俺たちは山奥にぽつんと立つ、古ぼけた砦に予定よりもだいぶ早く辿り着く事が出来たんだ。

 黄巾党の連中は首魁が旅芸人というだけあって、これまでは拠点を持たず転々としていたんだけど……今回も発見が1日でも遅ければもぬけの殻となっていただろうって話だよ。

 そういう意味では皆頑張ったよな……でも、本番はこれからだ!

 気合いを入れ直さないとな!!


 思考を切り換えて軍議に集中する一刀。

 そこでは楽進が報告を行っている。


「どうやら本隊は敵本陣近くに現れた官軍を迎撃しに行っているようです。残る兵力は一万がせいぜいかと……しかも、逃げる準備をして我らの接近には気付いておりません」


 マジかよ!?

 ……呆れた、官軍が来たせいで砦を捨てるってのかよ!?


 唖然とする一刀を余所に曹操は次々に状況を確認していく。


「分かったわ。秋蘭、こちらの兵は?」

「はっ。こちらも1万です。向こうはこちらに気付いていませんし、荷物の搬出で手一杯のようです。今が絶好の機会かと」

「ええ、ならば、一気に攻め落としましょう」

「華琳さま。ひとつ、ご提案が」


 順調に進んでいた軍議の流れを止め、軍師の荀彧が声を上げた。

 周囲の者達は一斉に荀彧に注目し、曹操が尋ね返す。


「何?」

「戦闘終了後、全ての隊は手持ちの軍旗を全て砦に立ててから帰らせて下さい」

「え? どういうことですか?」


 荀彧の言に許緒が疑問の声を上げた。


 ……そういうことか。

 季衣は分からないみたいで聞いているけど、その顔も可愛いなぁ。

 本当なら俺が教えてあげたいけど、横から口出しすると桂花が怒るんだよな……いや、何もしなくても怒ることあるけど……。


 許緒には優しい荀彧が説明を始める。


「この砦を落としたのが、我々だと示す為よ」

「なるほど。黄巾の本隊と戦っているという官軍も、本当の狙いはおそらくココ……ならば、敵を一掃したこの城に曹旗が翻っていれば――」


 策を理解した夏候淵が噛み砕いて周囲の者達に説明すると、荀彧は激しく夏候淵を睨んだ。


 秋蘭は補足説明してるだけなのに……桂花の目がヤバいな。

 最近は春蘭だけじゃなくて、秋蘭にも噛み付くようになったみたいだけど……何があったんだ?


 顎に手をおき思案する曹操は、やがて手を放し不敵な笑みを浮かべて口を開く。


「……面白いわね。その案、採用しましょう。軍旗を持って帰った隊は、厳罰よ」


 目付きが変わり笑顔になる荀彧。


 華琳に採用されて一瞬で機嫌が直ったか……天才軍師だけど、単純なんだよな……。

 でも……何か、気持ちは分かるんだよなぁ。

 俺ももっともっと華琳の役に立って……やっぱ褒められたいもんな!


 自分の存在をアピールする為にも声を上げる一刀。


「作戦そのものに変更はないんだよな?」

「ええ、狙うは敵の守備隊の殲滅と、糧食を一つ残らず焼き尽くすことよ。いいわね」

「「はっ!」」


 良かった……。

 献策した時は誉められたけど、そのまま採用されてるか不安だったんよな。

 ふっふっふ……睨んでも怖くないぞ、桂花……むしろ、威嚇する子猫のような可愛さだ。


 安堵する一刀を横目に于禁が悩める表情で口を開く。


「あの…………華琳さま?」

「何? 沙和」

「その食料って……被害に遭った街に持って行っちゃ、ダメなの?」

「ダメよ。糧食は全て焼き尽くしなさい」


 于禁の提案を強い口調で却下する曹操。


 ああ、沙和はまだ納得してなかったのか……。

 沙和は優しいから仕方ない部分でもあるけど……。


 納得の言ってない表情で食い下がる于禁。


「どうしてなの……?」

「簡単な事。糧食を奪っては、華琳さまの風評は上がるどころか傷付くの。糧食も足りてないのに戦に出た曹操軍は、下賤な賊から食料を強奪して食べました、とね」


 荀彧が軍師として曹操に代わり答えた。

 それを聞いて一刀は思う。


 やっぱりだ……沙和や楽進、それに季衣に対しては厳しく言ったりはしないんだよな……。

 クソッ、嫉妬心の強い鬼嫁みたいな奴だな。


 説明を聞いても、それでも于禁はまだ納得していない。


「けど……!」

「……かといって奪った糧食を街に持って行けば、今度はその街が黄巾党の復讐の対象になる。今より、もっとね」

「…………あ」

「被害を受けた街には警護の隊と糧食を送っているわ。それで復興の準備は整うはず。華琳さまはちゃんと考えておられるのだから……安心なさい」


 漸く合点のいく于禁に優しく語り掛ける荀彧。


 ……やっぱりだ、態度が全然違う。

 俺にもその思いやりをちょっとだけでいいから向けてくれよ!


 内心で抗議する一刀を余所に曹操が話を締めくくる。


「そういうこと。糧食は全て焼くのよ。米一粒たりとも持ち帰ることは許さない。それが街を守るためだと知りなさい。いいわね?」

「分かったの……」

「なら、これで軍議は解散とします。先鋒は春蘭に任せるわ。いいわね? 春蘭」

「はっ! 前回の汚名を晴らしてみせます。お任せ下さい!」


 春蘭、気合入ってるな。

 前回の汚名……真名を穢して侮辱してしまったってやつか……?

 あの少年、春蘭と討ち合える程強かったなんて驚きだったよ。

 こっちの世界は女性ばかりが優れていると思ってたけど、運搬隊の部隊長もそうだし……男だってやってやれない事はないんだよな。

 俺だって大役を与えられたんだ、みんなに負けないようにもっともっと頑張らないとな!


 夏候惇同様、一刀も以前の汚名を払拭するべく今回の遠征には気合いが入っている。

 動機に若干不純なモノが混じっているが、根は優しい青年なのだ。


 軍議の終了を告げると共に曹操が兵隊を一喝する。


「なら、この戦をもって、大陸の全てに曹孟徳の名を響き渡らせるわよ。我が覇道はここより始まる! 各員、奮励努力せよ!」

「「「おおーっ!!」」」


 ……やっぱり華琳は可愛いけど、格好いいなぁ。

 いよいよ始まるんだ……知ってる歴史とはもう随分違うけど、俺が必ず華琳を王にしてやるぞ!

 そして…………一杯褒めてもらうんだ!!


 動機はかなり不純だが、民の為に立ち上がると決意した一刀であった。





☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



――巴郡のとある街道――


 李典は黙ったままの李鳳を不安そうな目で見ていた。

 かなりの時間お互い何も語らずに沈黙が続いていたのである。



【李典】


「…………」

「…………」


 ……うわぁ、怒ってはるのかな?

 …………伯雷さん、怒っとるよね、やっぱし?


「は、ははは……災難やったなぁ、伯雷がおらんかったら捕まってたかもしれんわ」

「………………」


 苦笑いで話しかけた李典であったが、李鳳からの反応はない。

 本気で怒っていると思った李典は耐え兼ねて謝罪を述べる。


「うぅ……悪かったって。ちょっと金属の補強が甘なってたみたいでな……また爆発してもてん。この通りや、堪忍したってんか」

「……ん? ああ、いえ、怒ってはいませんよ。なぜ、人力で動かしている絡繰が爆発するかの不可思議なメカニズムを考えていまして」

「めかにずむ?」


 首を傾げる李典。


 まァた、意味分からん言葉を使いよるなァ……。

 倭国っちゅうとこの方言らしいけど、分かる言葉で話して欲しいわ。


 李鳳も気付き失言を訂正する。


「ああ、すみません。こちらの事です。それにしても、危なく憲兵に取り囲まれるとこでしたね。クフフフフ……」

「ホンマやで。陳留やと大丈夫やってんけどなぁ……劉璋いうんは結構凄いお人なんか?」

「いえ、劉璋に関してはあまり良い噂は聞きませんでした。これは配下の将で巴郡の太守をやっている厳顔の手腕のようです」


 はぁぁ……この短い期間にもう調べたんかいな。

 ウチが爆発騒ぎで追い掛け回されとる間に、薬売り捌いて、情報収集も済ませてるて……あかん、ウチこのままやと養われてるだけのお子様になってまうやんか……。


 感心する李典が口を開く。


「そ、そうなんか。そ、それより疲れたやろ? ウチが馬操るさかい、伯雷は休んでてええよ」

「…………どうしたんですか? 何か悪い物でもつまみ食いしましたね? ダメですよ、ちゃんとご飯の時間まで我慢して下さい」

「するか! ウチどんなけお子様やねん。そうやのうて、これは、そや、今日頑張った伯雷へのご褒美やん。……それとも、伯雷はもっと大人のご褒美がええんか? ニシシシシ」


 まだ子供っぽい外見しとるけど、なんやかんやで伯雷かて女の体には興味あるやろ。


 自慢のバストをアピールする李典。

 しかし李鳳は冷たい視線を浴びせて一喝する。


「はぁ、まだ寝るには早い時間ですよ。寝言は寝てる時に言って下さい」

「な、何言うてんねん! ウチみたいなええ女はおるだけで目の保養になるやろ!」

「……くくく、もしかしなくても、ソレのことをおっしゃてますか?」


 李鳳は李典の胸を凝視し、指差して示した。


 そ、そんなに見んでもええやろっちゅう位、ウチの胸を直視してきよった……うぅ、これはこれで、……なんや恥ずかしいわ。


 少し気後れしつつも肯定する李典。


「そ、そやで。男なんぞ誰でも巨乳の虜に決まっとるやんか! ぺったんこよりもあった方がええやろ。そもそもぺったんこの女の魅力なんぞ知れとるからな」

「……浅い」

「へ?」


 李鳳はまたまた可哀相な子を見る目で李典に語りかけた。


「哀しいくらいに浅い知識ですねぇ。いいですか、今は人類がウホウホ言ってた時代とは違うんですよ。文明が発達し、衣服や装飾品、嗜好品などが多く生み出されています。

その過程で、男が女を見る感覚にも変化があったのですよ。ある者はお尻が、またある者は脚が、そして近年では、幼い外見にか興味を示さない男性が急増しているのです。その人達からしたら、マンセーの胸など脂肪の塊にすぎない」


 し、脂肪の塊……そ、そんなアホな……!?


 内心穏やかじゃなくなる李典を余所に、李鳳の解説は続く。


「クックック……また形などに拘る男性も増えています。いくら大きくても形が悪いと無意味。大きければ良いなんて、秦の始皇帝時代に終わった文化じゃないですか? 大きいと年取れば垂れてきますし、むしろ戦闘の際には槍を振るうのに邪魔じゃないんですか? まぁ、心臓を守る盾くらいには使えるかもしれませんねぇ」


 ……そ、そないな時代に突入しとったんか、凪や沙和はウチの胸が羨ましいて言うてたけど……それは同性の意見やもんな……。

 ううぅ……ウチの自慢が……。


 すっかり落ち込む李典を見て、李鳳は慰めの言葉を切り出した。


「いやぁ、それにしても……マンセーの事を見直しましたよ」

「へっ!? ……何のことや?」


 見直す……ウチを? なんでや!? 

 あっ!! やっぱり改めてウチの見て、魅力にやられてもうたんやな……。

 ウッシッシ……分かるで、伯雷。

 安心しい、アンタも立派な男やっちゅうこっちゃで!!


 自分なり考え、すぐに立ち直る素直な李典。


「先程の発言、あの曹孟徳殿を全否定する宣戦布告ですよね、クヒヒヒヒ……!」

「……ええーっ!?」


 予想外の返答に李典の絶叫がこだまするのだった。


最後まで読んでくれてありがとうございます。

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