21話
今回突然サッカーの話が出来てきます。
唐突です。
テレビでヤングなでしこの試合を見てたら……
――南側の戦線――
朝になるまで夜通し奮闘していた街の守備隊であったが、疲労困憊で動きが鈍くなった箇所から崩されて防柵は残り1つとなってしまっていた。
南側の守備を任せられた楽進は、曹操の援軍が到着するまで何としてでも耐え切らねばという思いが強かったのである。
その為、于禁の制止を振り切って賊の群れへと突貫したのだった。
【楽進】
氣弾と体術の組み合わせで敵を次々となぎ倒していく楽進。
「はぁぁぁぁぁ!」
個の武力では圧倒的に上であるが、それでも焼け石に水のような状態なのである。
倒しても倒して次から次へと襲って来る賊は、今度は間合いの差が大きい槍兵ばかりを当ててくるようになったのだ。
くっ、敵の指揮官も侮れん……。
体力の消耗が激しい氣弾はあまり多用出来ないのだが……そうも言っておれぬか。
接近戦が無理ならと氣弾を放って敵を屠る楽進。
疲労や発汗で体は鉛のように重くなっていた。
しかし、楽進は自らを鼓舞するのだった。
「まだまだ……!」
気持ちで負けてしまえば、それが他の兵にも伝わってしまうのだ。
そんなコトになれば、耐えれるモノも耐えれなくなるのである。
不甲斐無い姿など見せれないと奮い立つ楽進であったが、動きのキレは確実に悪くなっていた。
そんな楽進の耳に、戦場には不似合いな程可愛らしい友人の声が届いたのである。
「助太刀するのー!」
「沙和っ!?」
「凪ちゃん一人に無理はさせられないのぉ」
于禁は両手に持つ双剣で、敵を切り倒しながら接近してきたのだった。
攻勢に出るのをあれだけ反対していた于禁の援護に驚きを隠せない楽進。
「ど、どうして……?」
「私だってぇ、皆を助けたい気持ちは同じなのぉ。黄巾党のブタは粛清してるやるのー!」
「ふふ……そうだな。誰一人ここから先へは行かせん」
優しい友人の言葉に励まされ、まだまだ頑張れそうだと気合を入れ直す楽進であった。
しかし、何十人という賊を倒した頃、とうとう限界に達したのだ。
楽進は肩で息をしていた。
「はぁ……はぁ、ぐっ……氣弾はしばらく打てそうにないな……」
無理がたたり氣弾を放てなくなった楽進は、体術のみでの戦闘を余儀なくされたのだった。
于禁も悲鳴に近い雄叫びを上げていた。
「もう、倒しても倒してもキリがないのー」
1度に複数を相手にし、それが延々と続くのである。
当然疲労は蓄積し、このままでは本隊到着を前にして防壁が突破される恐れが高まってきたのだ。
不安と焦りから注意力が散漫となり、于禁は賊に囲まれてしまった。
「きゃっ」
腕を斬り付けられ悲鳴を上げる于禁。
「沙和っ!?」
楽進が振り返ると、賊に囲まれ身動きの取れない于禁が見えた。
「よし、囲め囲め!」
「近寄ると斬られるぞ、槍で突くんだ!」
「お、おし!」
「くらえ!」
賊共は于禁の武力を警戒して不用意には近付かず、槍で一斉に突こうとしている。
楽進が慌てて駆け出した。
「間に合え!」
しかし、行く手を遮る4人の賊。
「へへへ、行かせると思うか?」
「あっちの姉ちゃん同様、ここで死んでもらうぜ」
「やられた仲間の分も、たっぷり返してやるからよ」
「けけけ、死ねや!」
槍を構えた賊が楽進に迫る。
くっ……下衆共め。
すぐにでも沙和の下に向かいたいが……すでに少なくない傷を受け、氣も満足に練れない状態だ……どうする!?
目の前の賊を相手取るだけで精一杯の楽進に、于禁の援護は不可能であった。
于禁を囲んでいた賊が口を開き、今まさに槍を突き出したのである。
「じゃーな、ねーちゃん。あの世で死んだ仲間達に可愛がってもらいな」
「沙和ーっ!!」
楽進の叫びと重なるように、賊の一人が嗚咽を上げた。
「ぐふっ……」
そしてドサリと倒れ、そのまま動かなくなったのである。
倒れた賊の背中には、螺旋槍が突き刺さっていた。
「ふぃぃ、なんとか間におうたなぁ」
「真桜!?」
現れたの李典であった。
「凪ぃ、ちぃーと無理し過ぎなんちゃうか? よっと」
楽進に声をかけながら槍を抜き、別の賊を貫く。
突然現れた李典に楽進を遮っていた賊の意識も逸れたのだった。
「はぁぁぁ! はっ、はっ、はっ、は!!」
手足の連打で賊共を吹き飛ばす楽進。
李典も残りを一掃していた。
「真桜ちゃん、助けてくれてありがとなのぉ」
「真桜、助かった……が、どうしてここに?」
「ええんよ。夏候淵様から南の援護に向こうて欲しいっちゅう伝令があってん」
「そうだったのか……しかし、東は良いのか?」
李典の説明を聞いて納得する2人だったが、離れた東の現場を心配する楽進であった。
しかし李典が心配ないと笑い飛ばしたのである。
「構へん、構へん。あっちは意外と善戦しとるから、一人くらい抜けても問題ないで。ホンマは李鳳が応援に行きたい言うてたんやけどな……指揮押し付けて、ウチが来たったんや。ウッシッシッシ……」
今までの仕返しが出来た李典はご機嫌だった。
指揮官命令を発動して李鳳に居残りを言い渡した時に最高の爽快感を味わったのである。
しかし未だ楽進は心配な様子で訊ねる。
「……本当に大丈夫なのだろうか?」
「心配いらんて……まぁ、アカンかったらウチらに泣きついてきよるやろ。ニシシシシ」
「ま、真桜ちゃん、何か黒いのぉ……でも、楽しそうなのぉ」
いつもとは違った雰囲気の李典を見て、若干引く于禁。
そこまで言うならと李典の言葉を信じた楽進。
そして自らと2人を再び激励するのだった。
「では、我ら大梁義勇軍の力、改めて思い知らせてやるぞ!」
「おう、なのー!」
「任しときィ!」
三羽烏の奮闘により、一時は破られそうになっていた戦線は持ち返したのだった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
――東側の戦線――
【李鳳】
指揮を押し付けられた李鳳は、表面上はそれらしく指示を飛ばしていたのだった。
「はーい皆さん、決して無理はせず、そして陣を崩さずに迎撃に徹して下さいね。抜かれても私が対処しますので……まずは、慌てないように」
それらしくは振舞っているが、李鳳の内心は荒れていたのである。
ふぅ、慣れない事はしたくないのに……クソ、李典め……。
立候補した俺を指揮官権限で無効にするとは職権乱用もいいとこだ……。
クソ、クソ、氣弾見たかったのに……なんで急にヒステリー起こすかなぁ、カルシウム足りてないんじゃないか!?
胸だけは……牛みたいなのにな、クックック……。
それにしても、曹魏を代表する5人の武将に一度に会えるとは……嬉しい誤算だったな。
夏候淵に比べると他の4人はまだ見劣りしているが、今後の成長が楽しみってところか……?
ククク……人材登用マニアの曹操が集めた連中だ、世界だって十分狙えるチームでしょ。
夏候淵は冷静な判断力と精確無比の弓矢の名手だし……ウイングバックといったところか。
監督である曹操の戦略を正確に理解し、戦況に応じた判断を下せる数少ない人物だろうな。
平時はサイドバックとして後方で守備に徹しているが、好機と見れば迷うことなく果敢に攻め上がり精確なクロスで獲物を仕留めるハンターってやつだな……クフフ。
許緒は曹操の親衛隊でもあるし、ゴールを守るスイーパーかな……。
普段は守備が主な役割だが、コーナーキックやフリーキックなどの特殊な環境下においては持ち前の攻撃力を活かす為に上がるタイプだろう、うん、多分そうだ……。
頭は良さそうに見えないからオフサイドトラップのような戦術を仕掛けるのは無理だろうけど、1対1には強そうだ。
楽進は間違いなく中盤のダイナモだろ……ククク。
奇抜さは無いが、与えられた仕事を忠実に確実にこなそうとするはずだ。
守備的ミッドフィールダーとして、敵の攻撃の起点を潰し、たまに自身も攻め上がりミドルレンジでゴールを狙うんだろうな。
愚直さが良くも悪くも影響しそうな甘さがまだ残ってるみたいだけど、クフフフ……。
李典は楽進とは逆に、奇抜さが売りのトリックスターってとこだろ。
サイドハーフとして攻めも守りも兼任しているが、フリーキックにこそ真骨頂がありそうだ。
成長次第では……ファンタジスタも夢じゃない異色の天才だろうな。
ヒステリックは治した方がいいと思うが……個人的にはイチオシだ。
于禁…………この子は、正直よく分からん。
攻めって感じがあまりしないから、ディフェンダーでしょ……?
楽進とセットのダブルボランチかもしれんが……よく分からん。
とにかく……よく分からん。
うんうん、なかなかの人物評じゃないか?
クックック……そうだ、チーム孫呉のあの2人も考えてみるか……。
孫策、コイツは王だけど呉の監督じゃないな……。
監督は孫権だろうな……会ったことないけど。
ククク……目の上のたんこぶが実の姉とは、まだ見ぬ孫権には同情するよ。
コイツの印象はまさしくファンタジスタだ。
ポジションなんか無いだろうが、強いて言えば……リベロかな。
点取り屋のくせに、相手のセットプレーをしれっと止めそうなんだよな……マジこいつ苦手だ。
黄蓋は……夏候淵に近いけど、こっちは生粋のフォワードだな。
サイドから敵陣に切り込んでピンポイントクロスを上げる老獪なウイングでしょ。
戦術面にも長けてそうだから、マーク外すと大変な目に遭うだろうな……。
李鳳がそんな戦況とは全く関係無い事を神妙な顔つきで考えていた時、多くの人が待ち望んでいた報告が入ったのである。
「報告します。曹操様の本隊が到着、夏候淵将軍より攻勢に打って出よ、と指示がありました」
クックック……なるほどね、内と外からの挟撃か……。
流石は、名サイドバックだよ……!
流れを把握した上でオーバーラップし、絶妙のセンタリングを上げたってとこか。
あとは本隊の方にそれなりのフォワードが居れば、間違いなく得点しちゃうでしょ。
クヒヒヒ……あとは、曹操軍の一方的な蹂躙ショーでも見学しましょうかね♪
報告を聞いた李鳳は口元を歪めて笑うのであった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
――西側の戦線――
【夏候淵】
曹操の本隊が到着したコトで、夏候淵はついに攻勢に打って出たのである。
「残りの矢をここで全て使い切るのだ。九番、十番、構え…………放て!」
一斉に放たれる弓矢。
曹操軍に浮き足立った黄巾賊は更に混乱し、瓦解していったのだった。
ふぅ……今頃は、姉者や華琳様が敵本陣を蹴散らしておるだろう……。
季衣や楽進達が見事に保ち堪えてくれたおかげで、何とか撃退に成功したのだから……彼女達には出来る限りの礼を尽くさねばならんな。
望みがあるならば叶えてやりたいが……ここは季衣に任せてみるとするか。
仲良くしておったし、何か聞き出してくれるやもしれん……。
今後の対応などを考えていると、伝令が報告にやってきた。
「夏候淵将軍。黄巾党の一団は壊滅し、生き残った者も散り散りに逃げて行ったとのことです」
「念の為に追撃隊を出せ。ただし、深追いは無用だ」
「は!」
さて、今のうちに街と各部隊の損害を確認しておかねば……な。
戦闘が終わっても夏候淵の仕事は終わらないのであった。
夏候淵が街の中心部に近付くと、許緒、楽進、于禁の3名が話しているのが見えた。
夏候淵の接近に気付いた許緒は手を振って出迎える。
「あっ、秋蘭さまー」
「皆無事だったようで何よりだ。特に楽進、報を聞いた時にはヒヤリとしたぞ」
苦笑する夏候淵。
咎めたつもりはなかったのだが、真面目な楽進は頭を下げたのである。
「申し訳ありません。相手の力量を見誤り、こちらの損害を拡げてしまいました」
「ふふ、この程度で済んだのだのは義勇軍のおかげだ」
「いえ、夏侯淵様がいなければ、我々だけではここまで耐えることは出来ませんでした。ありがとうございます」
夏候淵は楽進に好感を持っていた。
出来れば曹操軍の傘下に入って欲しいと思っていたのである。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
【李鳳】
李鳳は街外れで曹操軍に駆逐される黄巾賊を見物していた。
「クックック……絶景かな、絶景かな。まるで象に踏み潰される蟻んコのようじゃないか」
でもなぁ、賊も意地見せてもっと頑張れよな……弱者が踏ん張った方が面白いのに……。
まぁ……これはこれで面白いけどね、クヒヒヒヒ……。
李鳳が笑っていると、一人の女性が近寄って来たのである。
「何や? 何ぞオモロイ事でもあったんか!?」
その人物とは、李典であった。
かなりの驚いた李鳳だったが、平然を装って訊ねる。
「おやおや……どうして、ココに?」
「アンタが外に出てったって聞いてな。いやぁ、お疲れさん……お互い無事やったし、街も守れてホンマに良かったなぁ」
…………ん? それだけ!? そんなコトを言いに来たの?
わざわざ……? こんな街外れまで……?
李鳳には李典が何を考えているのか分からなかった。
「はぁ、お疲れ様でした。それより……東の守備隊長が、こんな所に居てイイんですか?」
あっち行け!
せっかくの楽しい時間を邪魔する奴は……馬に蹴られて飛んで行け!!
あからさまに邪険にする李鳳。
「……アンタかて隊長代理なんやで?」
「ちゃんと代理の代理を立てて、何かあれば連絡が来ることになって……ますよ!?」
「ニシシシシ……ほんなら、ウチかて此処におっても問題ないやん」
しかし、李典にはどこ吹く風であった。
…………ファンタジスタもどきめ、ピンクのようになるなら二度と近寄らんぞ。
「勝手にどうぞ」
ふん、もう無視だ……無視無視。
隣にいるのはおっぱいのデカいだけのタダの虫だ……ククククク。
李鳳が内心で悪態をついて笑っていると、李典が口を開いた。
「ほな、改めて。ウチは李典、字は曼成。真名は真桜や。好きに呼んだってや」
「…………」
李鳳は無言。
無反応に戸惑う李典。
「な、なんやねん!? 呆けた顔しおってからに」
「…………」
李鳳は絶句していたのだ。
少し心配になる李典。
「ホンマどないしたん? なんやマズい事でも言うてもうたか?」
「あ、い、いえ……」
言葉に詰まる李鳳。
「ちょ……ホンマに、大丈夫なんか!?」
心底心配する李典。
対して、李鳳はまさに思考停止状態であった。
本当にワケが分からず、素直に聞くコトにしたのである。
「え、ええ……その、どうして、自己紹介を……?」
「へっ? なんでって……命助けてもろたし、一緒に戦うた仲やんか。せやから真名交換、エエやろ?」
…………真名、交換……!?
再び絶句する李鳳。
再び焦る李典。
「ちょう、ホンマにどないしたん?」
「ああ……すみません。実は……真名の交換なんて、生まれて此の方やったコトがないんですよ」
「はぁ!?」
李鳳の告白に大声を上げる李典。
「ですから……真名交換するのは、“初めて”なんです」
「な、なんやて……!?」
ビックリしたのか李典が身を乗り出して李鳳に接近する。
近い近い……それでなくてもデッカイ胸が当たるだろうが、離れろよ……!
黙って李典を押し離すと、李鳳は語る。
「色々と……事情がありまして、私は自分の真名を授かってからまだ2年しか経ってないんですよ」
「へっ? そ、そうなんか……。まぁ、事情は人それぞれやし、ウチは気にせェへんで。せやけど……1年以上は、経ってんねやろ? その間もあれへんかったんや?」
「………………」
「ウシシシシ……アンタ、友達少なそうやもんな」
無言の李鳳を笑う李典。
クソ……図星だよ。
前世でも友と呼べる人物は希少だったし……その数少ない友は、変人ばっかだったな。
遠い目をする李鳳だったが、悪戯を思いつき口元を緩めたのである。
「クックック……では、李典殿が記念すべき私の……“初体験”の相手となりますね」
「なぁぁぁぁっ!?」
顔を赤らめて絶叫する李典だった。
読んで下さり、ありがとうございます。




