8 変化
目立つグループの一員チェザーレとは犬猿の仲とクラスでは見られているし、16歳になったのに社交界にデビューする訳でもなく学校に通う私は女と見られていないのか、学校での私の立場は、城での私の立場と似たようなものだった。
いるようで、いない。迷惑をかけられるのは困る。だから近づくまい。
「民のことも憂えず」
チェザーレに言われた言葉は、私の胸から消えなかった。恥ずかしながらそれまで、城の中で生き抜くことしか考えていなかった私は、初めて自分の置かれた環境を鑑みることになった。
治める者は何をすべきか。
なぜ民は国を支えるのか。
貴族のあり方は何か。
授業やディベートでは、うまく自分の意見を自分の言葉として伝えられない。だから、どんなに学んで知りたくても声を挙げられなかった。だから、授業以外に先生方についてまわり個別に質問してみることにした。それまで自分の殻に閉じこもっていた私には、自分でも信じられない変化だった。
「影の皇太子」と呼ばれる私に近づくことが、自分の立場を危うくすると思われるので困るのだろう、応じてくださらない先生が多かったので、分け隔てなく接してくれるアローン先生について回るしかない臆病者だったけれど。先生はいつも、抽象的な答えを返して更に自分で考えるようにと導いてくれていた。
答えは自分の中にある。
先生は、焦らないようにと言い、答えにならない微笑みをいつも浮かべるのだった。
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その頃、すでに早々に社交界デビューし、社交界の華として近隣諸国にまで評判をとっていた妹オーレリアに、西の国の皇太子との縁談が持ち上がった。次期皇太子、すなわち国母になるのは妹のオーレリアだと城下ではもっぱらの評判らしいと学校でも噂になっていた。
私に対する周りの評価、特に先生方からは腫れ物にあたるように避けられるようになった。アローン先生は急に引退され、私の質問に答えてくれる人は学内にいなくなってしまった。
影の皇太子に関わるのは身の破滅。
そんな陰口を耳にした。ディベートでも私が当たることはなくなった。誰からも無視されて、唯一の拠り所だった学校さえ、私のいるところはないように思えた。
その日、マリーも帰りに待っていてはくれなかった。