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4 不肖の息子

ずいぶん間が開いてしまったのですが、振り返って、投稿するのに躊躇していました・・・。でも、腹をくくって続けてみます。お目汚しかもしれませんが、読んでいただけたら嬉しいです。

 「色事は一流の4男坊」


 という最近聞こえてくる評判に、コッソーレ議長は冷静な顔の下に、苦々しい思いを隠していた。末っ子のチェザーレを、学校の夏季期間中に文官の修行と称して三男に預けてみたが、社交界の噂をひろげるばかりで、人脈どころかひんしゅくばかり買っているらしい。


 「あいつらしくない・・・。」


 秘書から受け取った手紙には、外国からの大使の謁見で通訳の助手につけたところ、相手を烈火のごとく怒らせたかと思うと、連れて帰りたいと王の目前で泣きつかれた、社交界の女には片っ端から手をつけ、それどころか男同士でチェザーレを巡って喧嘩が起こりなぜか三男が大けがを負った等、王に気に入られるどころか三男の心臓が持たないので送り返すと、自分によく似た三男には似つかわしくない強い筆跡で綴られていた。


 飄々とした息子ではあったが、評判をとる程奔放ではなかったし、多少の遊びも要領よくかわすタイプだった。何事にも力技で自分の都合のよいように変えてしまうところはあったが、今ほど好きなように自分を見せることはなかった。


------------------


 母親は、行き摺りの娼婦だった。どこか暗い目をしていて、遠征途中の小さな町で出会った女だった。取り立てて美人ということもないが、絶望している表情をこちらに向けたいと、連れてきて小さな家に住まわせた。


 勘のよい妻は知っていたのだろうが、何も言わなかった。それまでも貴族の習いと称して、浮気をしたことはあったが大抵一夜限りの私が、何度もその家に通うにつれ、妻はいつのまにか笑わなくなった。

 

 女は子供を身ごもり、妻とは逆に私に笑いかけるようになった。暗い目は相変わらずだったが、日々大きくなる腹を大事そうに撫でていた。小さな家で過ごす時間は、職務や地位など、私がこれまで背負ってきた運命から解き放たれているような安堵感があり、これが幸せなのかと私は思っていた。己の義務や妻の苦悩を薄々察しながらも。


 子供が生まれた。男の子だという手紙を女から受け取り、私は小さな家に急いだ。しかしそこには誰も居なかった。家財道具などを全て残し、女は消えていた。何も言わずに。屋敷に戻った私が見たのは、赤ん坊を抱いた妻だった。周りを囲んだ息子たちが騒がしげに赤ん坊をあやしていた。10歳になる長男だけはうすうす様子を察していたのか、遠巻きに見ていた。


 妻は黙って、私に手紙を渡した。そこには息子を育ててほしいという女からの切実な願いが、ただ一文書かれていた。私は察した。妻の決意も。そして、生まれて初めて自分で欲したもの、あの女の願いを叶えることを決意した。


 チェザーレと名付けた息子は、他の子らと分け隔てなく育てたつもりだ。妻は複雑だっただろうが、こちらから見ると痛々しい程、自分の子らと平等に育てようとしていた。叱り、抱きしめ、貴族の母親としては珍しく自分から子育てに参加していた。妻の導くとおり、チェーザレは勉学に励み、馬術や剣の腕も家庭教師たちを驚かすほどで、王の側近にもなれる器だと評判になっていた。


 長男の報告によると、とんでもないことになりそうだが、のらりくらりとかわす王の真意は相変わらず分からない。息子は分かっているのだろうか。今は傍観を装おう。ただし、偽りの姿を王に見せつけるほどお前が望むものが、もしお前を不幸にするのなら、許すわけにはいかない。



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