3 トノートという国
ご多分にもれず、この国にも階級というものがある。貴族と平民。平民は税金を納め、貴族は騎士や政治家となってこの国を治める。
それが良いのか悪いのか、一概には言えない。割り切れないものが政治や組織というものだろう。トノートの場合、貴族と言えど、税金でのうのうと暮らしていけるという制度にはなっていない。
今から90年前、現王アロンソの祖父で改革の賢帝と呼ばれるプレート王の治世下、今よりも戦乱というものが身近で、近隣国との間柄も不安定にも関わらず、王に集中していた権力を議会と対峙することでバランスを与える仕組みが出来た。その時代に成しえたことは、プレート王の手腕と彼を取り巻く大臣達が天才的に優秀だったからに他ならない。
貴族ならば、国の組織に属し、争いがあれば率先して駆り出される。税金は毎年国の情勢にあわせて決める。それを決断するのは議会であり、貴族も平民も議員として参加している。もちろん割合は平等とは言えず、権力闘争も多々あるが、王と議会はプレート王の時代から今までバランスを保ってきた。王政だが、絶対王政ではないところがこの国の特徴である。
とは言え、王はお飾りではない。議会に対して拒否権を持つのは王だけだからだ。だから王と議会は非常にデリケートな間柄でもあり、天敵とも言える。
現議長で有力な貴族出身の元財務大臣、アルベール・ドン・コッソーレには4人の息子がいた。私欲に走るでもなく、冷静沈着で王の信頼を得ていた。財政に長けたバランサーとして、議会や大臣連中のなかでも抜きんでた存在である。
長男は王を警備する近衛隊長、二男は海軍要職におり、三男は文官のトップに登りつめるだろうと評判だった。
ただ一つ、彼を悩ませていたのは、末っ子の四男だった。