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21 真実

 守られていた、という彼の言葉は、母のことを言っているのだと私は分かった。


 イーストの国と国境を接した町で、母は、去年亡くなっていたそうだ。流行りの風邪をこじらして、ひと月床についたのち眠るように息を引き取ったと。夫と名乗る人が言ったそうだ。娘が3人いたということは妹たちがいたんだなぁと私は不思議な心地がした。


 伝えたから。と彼は池を見て小さくつぶやいた。


 「ありがとう。」


 同じ言葉をきっと母の眠る場所に向かって言ってくれたのだろう。忙しい訓練の間に、半分人質のような立場で行った身で、抜け出すことは難しかっただろう。それを思うと、恋愛云々で頭に血が上っていた自分が恥ずかしくなり下を向いた。


 「ようやく頭が冷えたか。」


 頭上から、からかうような調子が続いた。


 「それとこれとは別だからな。まぁ、後でということで。」

 「・・・」


 しばらく沈黙が続く。私は下を向いたままだ。


 「毎日こっちに向かって祈っておられたんだと、最後まで。」

 

 私は彼の目を見た。真剣な顔だった。

 「それってさ、そういうことだろう?」

 私の手を掴む。


 彼は私に厳しいくせに、肝心な時ははっきりしたことを言ってくれない。言葉を紡ぐのが苦手だと知っているのに私に言わそうとする。


 「私を愛していた。だけど、何か事情があって置いていかざるを得なかった。」

 

 彼は頷いた。私は涙が止まらず、彼が私の頭を引き寄せて、私はベンチから転がり落ちて彼に抱きこまれた。胸を叩いて離してと叫びながら、これでは昨日と同じではないかと思いながら、寝転がっている状態に尚悪いと焦りながら、どうでもよくなって彼に身を任せた。


 私たちは知っている。人の噂や評判がどれだけあてにならなくて、誰かの思惑にからんでいることを。けれど最後には始めた人すら気づかない形で、どこかへ広がって行ってしまう。それは、本人だけでなく始めた人すらを危うくさせてしまうことだってあることに。


 「俺さ、兄貴の話しを思い出したらさ、なんか兄貴に申し訳なくなってきたよ。今さら。もしかしたら兄貴  なりに俺を自由にさせたくて、守るからって言いたかったんじゃないかってね。」


 「あのブリザードのような目をしたお兄さんが、意外に優しいとはねぇ。」


 「よく考えたら俺には甘いなぁ、あの人。」


 ハハ、と彼がいつもの乾いた笑いをした。


 本当を言うと、母に会いたかった。一度でいい、生きている母に。でも、きっと私が苦しんでいる時、泣いている時、遠いあの国でそれでも一番私に近い街で、私のことを案じてくれている人がいたんだってこと、昔の私に教えてあげたかった。

 


 



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