20 一転
「え、え、えっと・・・」
私はそれ以上声が出なかった。目を逸らして下を向くと、実は彼がニヤリと笑ったことに気が付かなかった。
「お前の考えそうなことだ。大方、荷物をまとめて辺境の地で教師でも続けようとか思っていたんだろう。それで密かに国に貢献しようとか。」
私は仰天した。図星だったからだ。私の部屋にはこの後出発するためにまとめた荷物が隠してある。仮面舞踏会に出席して、彼の黒子にキスをするというただ一つの望みを達成したら、私は王女という立場を捨て、王家を出ようと決意していた。児童院での役割も密かに後任に引き継いでいた。私はこの時初めて王女という立場で無理やりことを通していたのだ。
結局、考えたのは、私は誰でも替えがきくという結論だった。そして、だからこそそこに私の価値があるとも。「民を憂えず」というという言葉が、王女としての私が成せるとは思わなかった。皇太子に妹がなり彼が将軍として支えていく、それが国のためにも一番良いように思われた。妹は姉と言う立場から見ると性格は難があるが、確かに国のためになろうと努力して、冷静でもあった。父の傍で帝王学を学び、良くも悪くもいろいろな噂を操り、今の地位を作り出した。政治家としての手腕には長けている。私より、国母にふさわしい。
いや、それは言い訳かもしれない。先ほどとは違って困ったような顔で私を見つめる彼を、やっぱり死ぬほど愛しいと思う。掴まれた手首から彼の熱がつたわる。誰にも取られたくない。妹でもフローラル姫でも誰でも。結局、彼と誰かがいるのを見たくなかった。単純にそれだけなのかもしれない。
王女としても女としても、中途半端で。私は自分の出来ることに逃げることにしたのだ。
やぶれかぶれだった。言い訳もせず。全力で彼の手を振り払うと、私は駆け出そうとした。けれど、彼の手につかまって、彼と正面に向かされ二の腕がきしむほど抱きしめられた。
私は暴れた。けれど彼は離さず、私の頭を胸に抱え込むようにさらに抱きしめた。頬が胸にあたる。鼓動が聞こえるようだった。
「捨てられたんじゃない。」
頭上から彼の声が聞こえた。一瞬何のことだろうと思ったが、ハッと至り、私は固まった。長い沈黙があって、彼の手がゆるんだ。彼を見上げると、片目に涙が浮かんでいた。昂揚しているようなような、泣き出しそうなクシャクシャな顔をして私を見つめた。
「守られたんだ。俺たち。」
だから、行くな。そう言ってもう一度私を抱きしめた。私は涙がとまらず、しゃっくりをあげる位に可愛げもなく大泣きをしてしまった。案の上、彼のシャツは私の涙や鼻水で大変なことになり、洗うからと無理やり脱がせて気まずい雰囲気になってしまった。あぁ、本当に可愛げがない私。




