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17 下手なかけひき

「僕と踊ってくださいますか?」


 震えながら顔を上げると、見知った瞳がこちらを見ていた。懐かしい声。ニヒルな微笑み。彼は変わっていなかった。


 どうか素直に出て声、と祈りながら私は答えた。いつもより甲高い声で。


 「はい。喜んで。」


 曲はゆったりとしたテンポに変わり、皆相手に体を預けるようにして踊っている。彼はつないだ手をさらにぎゅっと握り返してから、私の腰に手を置いて引き寄せる。身体の半分が彼にふれている状態だった。体温が伝わってくる。あったかい…頭がボウッとした。飲んでいないのに、酒に酔っているようだった。彼は首をかしげうながす。


 私はもう言葉が出ない。ただ縦にうなずき、どうとでもして下さいという意思表示を見せたつもりだった。多分、今の私の顔の赤みは夜でなければ、笑ってしまうほどあからさまだっただろう。


 彼のリードは巧みだった。ダンスに慣れていない私でもついていけるように、ささやくように耳元で声をかけながら。くるくる回るたび、酔いがさらに私の体を廻る。踊りながら溶けていくみたい。


 頭上で彼が笑う気配がした。曲が一端止まった。夢心地な私に次の相手を断ってから、耳元で彼がささやく。


 「会いたい人には会えましたか。」


 「・・・。」


 耳にふれる位近くで吐息がかかり私は震える。分かってしまったのだろうか。私だという事が。それでもいいと私は思った。一度でいい。流されたい。すべてのしがらみを解き放ってしまいたい。


 私はうなずき、そして首を振った。彼は笑いながらまた首をかしげた。そして、近くのウエイターからグラスを受け取ると私に促した。


 私は首を振る。彼はふっと笑うとグラスの中身を一気に飲み干した。そして私に近づいて来ようとした。その時、左耳のあたりで紐がほどける気配がした。

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