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16 仮面舞踏会

 王妃である義母の(悪)趣味らしい。年に1度の割合で開かれる仮面舞踏会。入城から退城まで仮面をつけていること、踊る相手の名前を決して聞かないというルールを守ることが、招待状と引き換えらしい。会場の退廃的な雰囲気から、招待状の倍率(母のお眼鏡に叶う相手かということ)はとんでもないと。


 全ては、マリーからの受け売りである。私に苦手な社交関係、まして義母からの招待状が来るなんてありえない。

 

 マリーは学校を卒業後、念願の平民向けの学校進学のための塾を始めた。少数精鋭と丁寧なカリキュラムで話題を呼び、この5年で驚くべき平民合格者を出し、始めは自宅の一角だった塾は今では大きな建物になっている。でもその場所が、町の中心部ではなく、周りは田ばかりというところに建てたのは天邪鬼のマリーらしい。


 そんな青年実業家のマリーのもとへは、当たり前のように招待状が届いていた。大至急で届けた手紙の内容を見て、マリーはすぐ駆けつけてくれた。大きなトランクを持って。その中にはもちろん招待状も入っていた。



 どこか不思議な気分だ。見慣れた城の中を、仮面をつけて歩いている自分。同じく仮面をつけて城に向かう、着飾った周りの紳士淑女。ざわめき。それらがフワフワと現実離れしていないような、酔いのようにクラクラと頭を廻る。


 探さなきゃ。彼を。


 管弦楽団が奏でる音楽が、退廃的な雰囲気を醸し出している。お酒を口にする人々も、仮面をつけて表情が分からないからか、どこか浮足立っているように見える。隠している分、口の動きや、目の表情など、やや落とした照明のなかでお互い探り探り合いながら自然と近づくことになる。

 

 ひときわ人が集まっているのは上座の王と王妃のあたりだ。横にいるカップルは、オーリアと…エスコートしているのはやはり、チェザーレのようだった。


 遠くからでも5年ぶりでも分かる。胸が痛い。少し背が伸びたようだった。もともと高い方ではあったけれど、同盟国とはいえ王政ではない連邦制の国で色々と苦労したのだろうななど思いを馳せていたら、陽気な音楽が始まり人々は最初のカドレールに参加するため大きな輪になり始めた。

 

 仮面を落とさないように踊るのはなかなか難しい。滑りそうになる耳元の紐を元に戻しながら、慣れないダンスを踊った。学校で習ったおかげだ。私は学校に感謝した。


 そして、もう一人の恩人、マリーに思いを馳せた。招待状、ドレス、鬘、アクセサリーに至るまで全てマリーの持ち物である。いや、もしかしたらマリーのことだからこのために求めに店を廻ってくれたのかもしれない。


 きのこカットだった学生時代からすると、5年分髪を伸ばした自分は少しは女性らしくなったのかもしれないが、教師になってから子供を追いかけられるよういつでもズボンで過ごすうち、城の行事以外には新しいスカートを作っていないことに気づいた。化粧もしたことがなかった。


 今の私は、城下一、人気の美容師に化粧をしてもらい、髪は地毛の黒の真逆のようなクリーム色のかつらをまとい、着たことがないくらいぴっちりと体の線が出るようなドレスを着ている。流行なんて、関係ないと思っていたけれど、決して見かけで馬鹿にされないと、誰かに保障された格好をしているってなんて頼もしいんだろう。違う人間としてここにいる。私は自分に言い聞かせた。


 どうか巡り合えますように。祈りながら振り向いて次の男性の手を取ろうとしたとき。


 顔をあげなくても分かった。指先だけで彼だって。


 

 

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