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14 離れ離れ

 聞きたくないことに限って、風の便りが耳に入るものである。


 城のはずれの公園までの遠足の帰り、子供たちをつれて歩いていると、文官の格好をした学校時代の旧友に偶然出会い、珍しそうに私を見た後、同窓会をしようを声をかけた。後日、招待状が届いた。場所は学校。意外だった。


 久しぶりに会った仲間たちは、髪を伸ばしてスカートをはいた私を珍しげに見た。21歳、男性たちはそろそろ縁談が持ち込まれる頃であるが、女性ならば家庭に入っていることが多い。縁談が一つもない私をからかう皆をよそ目に、私は初めて飲む酒の味に魅了されていた。頭がボーっとなる。この感覚どこかであったなぁと思い出していると、私は初めて池でチェザーレに会ったことを思い出していた。


 そう言えばと、誰かがチェザーレのことを話し出した。私はビクッとして、耳を澄ませた。忘れようと思うのに、忘れられない。


 イースタラント連邦のドーロンドル州の知事付き文官として活躍しているらしい、と言った。連邦の代表である知事長からも信頼が厚く、娘婿にならないかと強くアプローチされているらしいとも。


 国にいるときでも、彼は社交界で人気だと聞いた。もちろん私は華やかな場所は苦手で、友人のマリーの人脈からの又聞きだけど、女の人の影を話の節々に感じていた。


 騒ぎを遠くに私は思いにふけった。5年後国に帰ったとしても、彼には縁談が山ほど来るだろう、もしくは…。とにかく私には関係ない人だ。そう自分に言い聞かせた。


 それでも何度も思い返してしまう。美しいものを見れば彼に見せたいと思い、美味しいものを食べれば食べさせたいと思う。忘れることができればいいな、でも忘れたくない。


 代金をそっと置いて、私はこっそりその場を出た。空は三日月が出ていた。あの黒子を見る日はもうないのかなぁと未練がましく見上げながら、振り切るように頬をたたいて歩き出そうとしたとき、手を引かれた。


 「なっ、」

 驚いて振り払おうとすると、さらに引き寄せられた。暗がりで強い目で私を見てくるのは、あの時見た文官の男だった。


 「な、な、何なの」

 「静かに。」


 男は言い、私の首に顔を近づけ強く唇を押してきた。気持ちが悪かった。ぬるい温度も湿り気も。


 私は必死で男をつき離し、逃げた。


 「おい。」


 男の怒号が聞こえてきたが、私は振り返らなかった。だからその時、急に出てきた兵士たちに男が身柄を確保されて連れて行かれたなんて、全く気付かなかった。


 部屋に帰って、鍵をしめた。首を必死に拭いた。上に開いた小さな採光窓から、三日月が見えた。チェザーレを思い出し、月の光で体を清めたかった。


 会いたい。私は泣きながら自分で自分を抱きしめた。

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