1 池にて
初めて書いたので、表現も稚拙で伝わりにくいかもしれませんが、広いお心で読んでいただけたら幸せです。
泥の中から咲く桃色の蓮の花は、妖艶だろうか可憐だろうか。何度見ても、光をまとっているようで、キレイというだけではおこがましいような神聖な美しさがある。
やはり、来てしまった。
この池はどこかで中海に繋がっていると聞く。目の前に広がる蓮の葉と、あちらこちらで咲いている蓮の花々。花によって桃色というよりは白や赤に近いものもある。この季節が過ぎれば、ただの泥池にしか見えないこの広大な池の向こうにはそびえたつ山々。池を囲む葦の群れ。
海に出れば、もしくは山を越えれば、どこかへ行けるのかもしれない。だけれど、そんな気力はどこにもない。何をするのもどこへ行くのも億劫だ。それが私だった。けれど・・・。
毎度のように池のほとりの木陰のベンチに腰かけて、私は城の裏側を背に、蓮池をボーっと眺め続けている。
「やっぱり」
後ろから、男の声がする。やはり、会えた。死ぬほど会いたかったけれど、永遠に会いたくもなかった。叶うのならば叫びたい程の想いを隠して、無表情をつくろった。
私に声をかけるなんて、城の人間でも滅多にいない。そして、こんな風に気軽に私を呼ぶのはこの男だけだ。私は返事をしない。ただ池を眺め続けている。内心はドキドキしている。どうやって気の利いた台詞をかえしたらよいのだろう。血が逆流するような思いで振り返る。
ななめ後ろ、手を伸ばせば届く距離に、彼は居る。いつものように皮肉な微笑みをたたえて。口元に上品な黒子をたたえて。よく見ると三日月のように欠けている。それを知る程近づいたのは二度。その一度を彼は忘れ、二度目は気付いているのか分からない。
「あ・・・あ・・・あぁ。」
・・・なんて恥ずかしい返事。いつもながら、どうしてこんな返事しかできないのだろう。特に話し初めは緊張してしまい、どもってしまうことがしょっちゅうのあがり症の私。
「喘ぐのならば夜にしてくれないか。でも、全然色気がないなぁ。」
私は真っ赤になった。そんなつもりではないし、からかわれているのも分かっているけれど、居たたまれず下を向いてしまう。
「そ、そ、そ、そんなつもりじゃ」
またどもってしまった。ハハハと乾いた笑いをする彼。
「まぁまぁ、いいじゃないか。久しぶりだなぁ、ジェス。そしてお前は相変わらずここに居たんだなぁ。」
「…久しぶり、チェザーレ。どうせいつもひとりだから、私は。」
チェザーレ。ただ一人、愛した人。私は言えないさよならを心の中に留めていた。
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