プロローグ
名前を呼ばれ振り向いた瞬間、彼の幅広剣が深く突き刺さった。彼女は、何が起きたのかわからず、彼の顔を見つめる。穏やかで優しいその顔には、微塵の迷いもない。
噂は本当だったのだと、その時彼女は気付いた。到底、相容れることなど出来ない存在だったのだとわかっていたが、終わりはあまりに突然で、あっけない。
自分は何だったのだろうか。何のために、戦ったのだろうか。
すべてが、無意味に思えた。
涙が溢れたが、それが彼の心を動かすことはない。彼には野望がある。その野望を成就させるためなら、何であっても払いのけるだろう。そう、自分も払いのけられたのだと、彼女は思った。
「人心を惑わす不逞の輩よ。この地に眠るがいい」
「あなたは私の屍骸の上に、何を築くというの」
「法を築く。それが、この国の礎となる」
「血塗られた法に、人の心は縛られない」
「光が強く輝けば、闇はそれに打ち消され薄くなる。やがて、時がすべてを忘れさせるだろう」
彼は、突き刺した剣を真上に斬り上げた。彼女の肉体は、無残に裂かれ、闇の空を血に染めた。
「魔女は死んだ! 我らは勝利したのだ!」
勝ちどきの声をあげる。
彼は彼女の屍を一瞥し、歩き出した。彼にはまだ、最後の仕事が残っているのだ。
10年ほど前に、自分が初めてちゃんと書いたファンタジーです。
すでに完結した作品なので、多少の見直しをしつつ更新したいと思います。