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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

短編小説

殺戮探偵 殺谷五六四

作者: 生気ちまた
掲載日:2026/04/29


     × × ×     


 警察庁が敏腕探偵に与える『殺しのライセンス』をご存知だろうか。

 犯罪者をその場で射殺できる、超法規的免許である──。


 雨上がりの午後。

 私立探偵・殺谷五六四ころしだにころしは殺人事件の匂いを嗅ぎつけていた。

 彼は殺人者の存在を許容できない。昨日も東欧の独裁者を射殺したばかりである。

 他者の人生を奪う権利など、どこの誰にも持ち得ない──!


「あそこだな」


 彼は富山県の海辺を訪れていた。

 断崖絶壁の岬の先に丸太小屋が見える。ブラックジャックが住んでそうな立地である。

 殺人事件の匂いがプンプンしていた。


「こんにちは。私立探偵の殺谷五六四です」

「何ですか、いきなり」

「私は殺しのライセンス持ちだ。殺人鬼は死ねぇ!」


 小屋の中に入るなり、殺谷は近くにいた中年男性を射殺した。

 旅行客と思しき女性二人組が、突然の銃声に悲鳴を上げる。


 殺谷は愛銃のコルトガバメントをスーツの懐に戻した。


「うろたえるな女ども! 殺人鬼を殺しただけだ!」

「あ、あなたは何なんですか! もうすぐ警察が来ますよ!」

「だろうな! ここは死体の匂いがする!」


 殺谷はポケットからメモ帳を取り出す。

 状況を把握しなければならない。


「女ども! 昨日何があった!」

「わ、わたしたちは仲の良い女子三人で旅行していました」

「それで何があった!」

「インスタでバズってた岬の民宿に泊まることになって。昨日チェックインしたんです。そしたら朝になって、友達の明日香あすかが部屋で死んでて……」

「なるほど!」


 大まかな状況はわかってきた。殺谷はさらに事情聴取を進める。

 昨夜、殺害されたのは大学生の古内明日香こないあすか。女子三人組の中で彼女だけが個室に泊まっていたらしい。

 残りの木戸山頭香きどさんとうか与謝野薫よさのかおるはツインルームに居た。

 彼女たちは朝になるまで一度も部屋から出ていないという。


「わかった。ところで私が今殺した奴は何者なんだ」

「民宿のオーナーです。名前はたしか神戸聖光こうべひじりひかりさん、だったかな」

「よし。こいつの動機はおそらくスケベ狙いだな。スケベそうな顔をしている。個室の女の寝込みを狙ったのだろう」


 殺谷は殺害現場の個室に向かう。

 女子大生・古内明日香の遺体は布団に寝かされていた。何故か横向きに寝ている。

 一部の砂利に血の跡がある。遺体が地べたに倒れたままなのは忍びない、と友人たちが布団に運んだのだろうか。

 他には凶器と思われる包丁が机の上にあった。


「警察だ! 来やがったな殺谷五六四!」

「富山県警の雛形ひながた警部。さっそくだが、包丁の指紋を取ってくれないか。殺人鬼の指紋が出るはずだ」

「あたしに指図するな!」


 殺谷は遅れてやってきた顔見知りの女刑事に指示を飛ばす。

 雛形は歯ぎしりしながら地団駄を踏み──その場で足首を捻挫した。


「痛え! なんで室内なのに床が砂利敷きなんだよ……ああっ! ここってインスタでバズってた宿じゃん!」


 女刑事は早速スマホを取り出し、インカメに向けて可愛らしいポーズを取り始める。

 全く役に立たない奴らだ。殺谷は自身の存在意義を再確認する。


「警部。包丁から指紋が出ました。被害者の友人・木戸氏のものと一致しています」


 鑑識かんしきの報告。

 殺谷は胸ポケットから愛銃のコルトガバメントを取り出した。

 殺人鬼・木戸山頭香を殺さなくてはならない。

 そして無実のオーナーを殺害した自分自身の顎を拳銃弾で撃ち抜く。

 彼は行動を開始する──。


「待て待て待て待て!」

「止めてくれるな雛形警部。私は殺しのライセンス持ちだぞ」

「殺谷、お前の嗅覚は国が認めたものだ。国が間違うはずはない。つまりお前も間違わない。そうだろ!?」

「ふむ」


 殺谷は愛銃を懐に戻した。

 彼は殺人鬼を匂いで判別できる。それゆえに今まで問答無用で即刻死刑を下してきた。

 自分の能力に絶対の自信があった。

 そうでなければ、政府公認の殺しのライセンスなど受け取れるはずがない。


「わかった。オーナーの神戸が犯人である証拠を見つけよう」

「お前がすぐに殺さなければ、本人に事情聴取出来たんだがなあ」

「殺人鬼は全員殺すべきだ」


 殺谷は女子大生・木戸山頭香の元に向かう。

 すでに彼女は他の刑事から事情聴取を受けていた。

 凶器の包丁は床に落ちていたものを拾っただけだという。

 さらに朝の時点では個室に閂型かんぬきがたの内鍵がかかっており、オーナーのマスターキーでも開けられない状況だった。

 オーナーと三人がかりで扉に体当たりをかまし、ようやく入れたらしい。


「つまり密室殺人か!」

「部下の話では、窓にも鍵がかかっていたようだ。侵入の形跡は無い。まさか本人の自殺か?」


 雛形の推理に、殺谷は愛銃をそっと取り出す。

 仮に被害者の自殺であれば自分も後を追うことになる。

 殺人鬼は存在を許されない。


「早まるな殺谷。そうと決まったわけではない。自殺に見せかけた殺人かもしれん」

「トリックがあるということか」

「よくあるだろ。糸を引っ張って内側から鍵を閉めたり。氷を使ったり。刑事ドラマは参考になるぞ」

「なるほど」


 殺谷は密室のトリックを推理する。

 はたして犯人オーナーはどのようにして被害者の部屋に忍び込み、彼女を殺したのだろうか?

 ヒントは全て、ここまでの文章にある!







     × × ×     



 殺谷は犯行現場に戻ってきた。

 足元の砂利を踏むたびにジャリジャリと音がする。

 砂利敷きの個室。布団には依然遺体が転がったままだ。机の上の包丁は県警に回収されていた。

 殺谷は高らかに宣言する。


「私は私立探偵だ。目についた殺人鬼を射殺して回るモンスターではない。今からオーナーの有罪を証明してみせる」

「名探偵、皆を集めて、さてと言い。探偵ドラマみたいで良いじゃん」

「まずは密室トリックだが」


 殺谷は女刑事の茶化すような声に耳を貸さず、その場にしゃがみ込んだ。

 犯行当時。個室は密室だった。扉には内側からかんぬきが掛けられ、窓の鍵も掛けられていた。

 民宿のオーナー・神戸聖光こうべひじりひかりは民宿のオーナーだ。適当な理由を言えば、客の部屋に入ることは出来るだろう。例えば火災報知器の調子が悪いとか。


 問題は犯行後の脱出経路となる。

 オーナーはどのような方法で部屋を抜け出し、密室を作り上げたのか。

 これを証明できなければ、今回の事件は被害者の自殺である可能性が高くなってしまう。


 殺谷は砂利敷きの足元に手を突っ込んだ。

 砂利の下には何も無かった。彼の右手には茶色の土が付いていた。若干湿っている。

 やはりそうだったか。

 彼は己の推理に確信を得た。


「雛形警部。こいつが答えだ」

「地面に直接砂利を敷いていたのか。夜に害虫出てきそうで嫌な部屋だなあ。やっぱバズり狙いのインフルエンサーは信用できねえわ」

「これだから無能な刑事は!」

「それで何だ? お前は犯人が床を掘って逃げた、とでも言いたいのか。そんなことしたら砂利と土がぐちゃぐちゃのごちゃ混ぜになってるはずだろ。何より穴はどうやって埋めたんだよ」


 雛形の指摘は極めて的確だった。

 殺谷は自決するべく懐の拳銃を取り出そうとしたが、すぐに思い直した。

 穴を埋める方法はある。


「雛形警部。最初部屋に来た時、足を挫いていたな」

「ああ。砂利がゆるんでいたからな。あの辺りだ。ちょっとヘコんでるだろ」


 女刑事が指差したのは丁度血痕が残っているあたりだった。

 被害者が殺害された場所だと推定される。事情聴取によると、遺体は発見後に友人たちの手で布団の上に移されていた。


 殺谷は砂利の窪みに手を突っ込んでみる。

 表面こそ砂利ばかりだが、すぐに柔らかい砂利と土が入り混じるようになった。ごちゃ混ぜだ。爪の間に砂粒が入ってくる。

 探偵は確信を得た。


「見ろ。他の地面とは様相が異なる。明らかに穴が埋められた跡だ。犯人はここから脱出した!」

「たしかに怪しいけどな。殺谷。被害者が発見された時には穴なんて無かったはずだぞ。そこには被害者の遺体が転がって……おい、まさか!」

「そのまさかだ。犯人は古内明日香こないあすかの身体をブルドーザーの代わりにした!」


 探偵は事の顛末を語り始める。

 昨夜。オーナーの神戸は何かしらの口実を用意して、被害者・古内明日香の部屋に入った。

 その後、何かしらのスケベ行為を強要するも拒絶され、脅迫用の包丁で殺害に及んだのだろう。


 オーナーは一度管理室に戻ると、穴掘り用のスコップを持ってきた。

 床を掘るとは言っても映画『大脱走』のような横長のトンネルを作るわけではない。

 壁際の地面を掘り、小屋の外に通じる程度のスロープを掘れば十分だろう。いわゆるアンダーパスと呼ばれるものだ。


 最後に密室用の戸締りを行い、被害者の遺体を排土板ドーザーブレードに活用して穴を埋める。

 具体的には被害者の胴体に縄を引っ掛け(傷痕が残らないように服の上から)、遺体を床に横倒しにする。

 次に遺体の背中側に砂利を多めに寄せる。


 犯人はこのタイミングで小屋の外に出たはずだ。もう使わない抜け穴はある程度土で埋めておき、仕上げに入る。

 外部から縄を引っ張り、彼女の身体に押し流された砂利で穴の表面を埋めてしまう。

 ちなみに縄自体は胴体に結んだわけではなく引っ掛けただけなので、片端だけを引っ張れば自然と回収できる。


 こうすれば、死体発見後に彼女の遺体が運ばれても、密室の床面には砂利しか残らない。

 若干の窪みは警察が来る前にこっそり整地するつもりだったのだろう。

 その前に『殺しのライセンス』が火を噴くことになったが。


「殺谷。小屋の外にも穴を掘った痕跡が見つかったぞ。巧妙に薪木たきぎで隠されてたんだと!」


 去り際。

 殺谷は女刑事の声に耳を傾けることはない。

 彼の仕事はすでに終わっていた。自分の殺人が『正当』であると証明できれば、他の些事はどうでも良いのである──。


 妹の誕生日プレゼントに書きました。慣れない推理小説ですが、楽しんでいただけましたら幸いです。

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