婚約破棄現場で真実の愛を肯定する幼女たち
「アリーサとの婚約を破棄するとする。私は真実の愛に目覚めた!」
ガーデンパーティの最中、婚約者ダンディール様は名前をしらない令嬢の腰に手を回しとんでもないことを言い出した。
元々、愛のない婚約だったけどもホッとした気持よりも憤りを感じるわ。
「私はメルル嬢を娶る!彼女は私に安らぎを与えてくれた!アリーサは嫉妬してメルルに意地悪をしたのだ!」
「アリーサ様、ダンディール様を解放して下さい!貴方ではダンディール様のお相手は無理ですっ!」
隣のとろけるような顔をした薄い桃色の・・・メルルというのね。何回か婚約者のいる殿方に近づいてはいけないと注意した程度だわ。家門はどこかしら?
「あの令嬢は・・・ミリオ男爵家の庶子なの~」
どこからか、幼女の声が聞こえた。まあ、ミリオ男爵令嬢はメリッサ様・・・だったわね。庶子なら納得できるわ。
でも、この場は・・・
ヒソヒソ~
「婚約者お披露目のパーティーで婚約破棄をぶちまけるなんてすごいの~」
「すごいのです」
「ヒィ、良い子のすることではありませんわ」
そう、ここはただのパーティーではない。婚約者お披露目のパーティー・・・えっ。
思考に幼女の声が被さったわ。
ダンディール様とメルル様の前に三人の幼女が現れたわ。6歳くらいかしら。
「メアリー様、コゼッタ様。大人の事情ですわ。良い子はきちんとテーブルマナーのお勉強ですわ」
間延びした話し方がメアリー?ゼークト伯爵家・・・
「イザベラしゃま。あれが真実の愛なの~。めったにお目にかかれないの~」
ツヤのある黒髪の子が、イザベラ様、ヴォルク公爵令嬢ね。
コゼッタ、王宮執事長の子女・・・で。
「良い子辞典に真実の愛はございませんわ・・親の決めた婚約者と愛を育むのが良い子ですわ」
ヴォルク公爵家のイザベラ様は片手に持っている幼女教育用の辞典をペラペラめくっているわ。
幼女が3人パーティーに紛れ込んだわね。イザベラ様がいらっしゃるので誰も止められないわ。
なら保護者の方は・・・と皆が探していると幼女達がはしゃぎ始めた。
幼女の甲高い声で響くわね・・・・
「真実の愛なの~、反抗なの~、素晴らしいの~」
「すごいのです。感動ものなのです」
ロック?
「メアリー様、ロックとは何なのですか?良い子辞典に載っていませんわ」
「例えば、英雄アレクは上官の命令を拒否して民を救ったの~」
英雄アレク・・・民を見捨てて退却を命じた騎士団長にその場で辞表をたたきつけて前線に残って、部下達を指揮して魔物の群体を退けた英雄。
彼の行為は命令違反・・・しかし、時の陛下は調査を命じて不問に付したのよね。
上官は左遷、アレクは褒賞はなし・・・だが、名声はアクアドラゴンが滝を登るがごとしの英雄だわ。
それがダンディール?
ダンディールとメルルは調子に乗ったわ。
「えっへん」
「まあ、感心なお嬢様たちだわぁ」
すると、公爵令嬢イザベラ様が常識を言い出したわ。
「でも・・英雄アレク様は民のために騎士の地位をすてましたわ・・・ダンディール様達の何がすごいのか分かりませんわ・・」
「コゼッタしゃま、イザベラしゃまに説明するの~」
「はいなのです・・・いいですか?イザベラ様、まず一つ、アリーサ様のダキア侯爵家のパーティーをぶちこわしたのです」
「・・それが何か?不謹慎ですわ。英雄的行為ではございませんわ」
「このパーティーは最低金貨75枚(750万円)、使用人たちのお給金を日割りで計算しても金貨100枚は超えるのです。それを二人が背負うのです!」
「な、何ですって?・・・でも、それは私の二月分のお小遣いだわ。お祖父様から頂く臨時のお小遣いぐらいですわ」
ダンディールとメルルの顔が曇ったわ。でも、イザベラ様・・・羨ましいわね。
「ゴホン、イザベラ様にははした金でも、ダンディール様は貧乏伯爵家のご子息、賠償はできないのです。メルル様は男爵家の庶子、貴族法に照らしても貴族ではないのです!」
「じゃあ」
「それを二人が背負うのです。それでも貫くのが真実の愛なのです!」
パチパチとメアリーという子が拍手をしましたわ。
「・・・でも、メアリー様、コゼッタ様、ダンディール様は顔だけ、剣術も格好づけているだで実はないと評判ですが、それでも貴族ですもの。王宮の役職につけばそれくらい返せるのではないですか?」
「イザベラ様、甘いのです。このパーティ-はダキア侯爵家の家門のマダムたちがアリーサ様のお祝いのために丹精込めてパーティーを開催したのです。
見るのです!お花一つとってもマダムたちが丹精込めて育てたのものなのです。茶器も各家の最高峰の物が持ち出されているのです!」
「まあ、本当ですわ。私の誕生パーティーに比べても遜色はございませんわね」
「そうです。マダム達を敵に回して貴族社会では生計を立てないのです!」
「でも、官吏試験に受かれば・・」
「甘い。甘い。棒付きキャンディーのように甘いのです。お祖母様の膝の上くらい生ぬるいのです!
ダンディールに受かるわけはないのです。平民に混じって下級官吏の試験を受けて受かったとしも。初任給銀貨18枚(18万円)で下級管理用の寮にすみ。さらに、月々、賠償金として銀貨5枚引かれて、13枚ですごすのです!」
「たしかに、ダンディール様は華麗な文を好むが実はないと親戚の教授職のおじ様が嘆いていましたわ・・キャア、これは・・秘密ですの」
「それでも、能力が低くても荒波に立つ向かうのです!」
もう、このときにはダンディール様とメルル様は膝を落としていたわ。
更にメアリー様がたたみかける。
「そうなの~、パーティーの賠償の他にダンディール様のお小遣いはアリーサ様のダキア家から支払われていたの~、それが今日よりストップ、返還しなければならないの~」
その時、ダンディール様が立ち上がって私の方にまるで鳩のようにクルッと向いて話しかけてきたわ。
「おい!まて、アリーサ、そんな話は聞いていないぞ!」
「ええ、それを言ったらダンディール様の面子が潰れると思いまして黙っていました」
これは周知の事実だった。でも、誰もそのことでダンディールをからかったりはしなかったわ。優しさね。
「よし、真実の愛を邪魔したので賠償として続けろ!」
「そうよ。アリーサ様もダンディール様を愛していますわっ。支えて下さいっ」
ヒソヒソヒソ~
「みなしゃま、聞きましたかなの~、三角関係、痴情のもつれなの~」
「大変なのです」
「ヒィ、良い子は見てはいけません。メアリー様、コゼッタ様、あちらに行きましょうよ」
「いやなの~、ここで見守るの~」
「そうなのです。目を背けてはいけません」
幼女たちの勘違いだわ・・・私はきっぱりと。
「貴方を愛した事はありません。支援しませんわ!」
と宣言したわ。
「すねているのか?可愛い奴、なら、アリーサ、閨は三人だ。正妻にしてやる。これ以上は妥協できない」
「そうよ。私は我慢してあげますわっ」
何て破廉恥な・・・
幼女2人はやかましく悲鳴をあげた。
「「キャー!」」
「3Pなの~」
イザベラ様は・・・
「何ですの?3ピーとは?これも載っていませんわね」
良い子辞典を見ながら不思議がっているわ・・・・これは素ですわ。怪鳥が赤ちゃんを運んでくると思っているのかしら。
私はきっぱりと宣言をしたわ。
「婚約破棄は承りましたわ。きっちりと今までの分を払って頂きますわ!」
パチパチと会場の大人達が拍手をしたわ。
「アリーサ、良く言った」
「そうだ。父として誇りに思う」
「立派だわ」
だけど、ダンディールとメルルは悪あがきをする。イザベラ様に話しかけたわ。
「ヴォルク公爵令嬢!私を客分として置いてくれ!」
「そうよ。話相手になってあげるわ。真実の愛を間近でみれるのよ。賠償も肩代わりしてぇ」
「ダメですわ・・・2人の行動原理には興味はありますが、先日、ワンちゃんをお迎えして・・・お二人に愛情を注ぐことはできませんの。
それにお祖父様はお許しにならないわ。お祖父様は婚約破棄は嫌いですの」
「なっ、犬だと?」
「もう、いいわ。ゼークト伯爵令嬢、コゼッタ様、誰でも良いわぁ、私達を支援して!この際、使用人になってあげても良いわ」
とんでもないことを言い出したわ。でも・・犬?イザベラ様にとっては二人より大事なのね。
「断るの~」
「断るのです」
あんなに、真実の愛をもてはやしていたのに・・・二人は絶叫するわ
「「何故!」」と。頭おかしいのかしら。
コゼッタ様はまるで他人事のように言う。あら、他人事よね。
「そうなのです。暖かい家の中にいて吹雪をみる感じなのです!」
メアリー様が。
「真実の愛は見ているだけで良いの~、外から見てれば面白いけど、間近にいたら厄介なフーテンなオジ様のイメージなの~」
とどめをさしたわ。
二人は
「無責任だ!」
「無責任だわぁ!」
とハモったわ。仲が良いのね。
犬が垣根を越えて乱入したわ。その後ろをメイドが追っているわ。
イザベラ様に突進しているわ。
【ワン!ワン!ワン!】(ご主人様、どこ?)
「まあ、ピエール・・・」
「ワン!ワン!ワン!」(さびしい!)
「イザベラ様、メアリー様、コゼッタ様、ピエールは見つかりましたわ」
メイドが言うわ。
幼女三人でワンちゃんをお散歩していたら・・・
「もう、ピエール、蝶々を追いかけて行ってはダメよ」
「ワン!」(ご主人様!)
はぐれたのね。
「メアリー様とコゼッタ様にも協力してもらいましたのよ。マリー、帰るわ。メアリー様とコゼット様にお茶とケーキをお出して下さる?」
「はい、帰ったらご用意します。ところでイザベラ様、騒ぎを起しておりませんか?奥様に報告しなければいけません」
「う~ん。報告するほどでもないかしら・・・でも、パーティーに潜り込んだのだから謝罪はするべきね。後で私からお話するわ」
「畏まりました」
「ケーキなの~」
「ケーキなのです!」
幼女3人とメイドと犬は何事もなく立ち去ったわ。
「待て~!」
「待ってぇ」
ダンディール様とメルル様は幼女に手を伸して助けを求めるわ。
その後、どうなったのかは。
二人は賠償のためにお給金の良い鉱山に行くことになった。
メルルは何回も逃げ出しそうになったわ。
無理矢理縛って連行をしたわ。
今後45年間の割賦払になった。
私はヴァルク公爵夫人からお詫びの手紙と贈り物が贈られ。公爵邸のガゼボで見合いの席を設定してくれたわ。
「初めまして、私・・ハンクです。公爵家にお仕えしている魔道師です・・正直領地経営は学んだことがありません。好きな食べ物は、えっと、何ですか?」
正直、どのような方なのか分からない。誠実そうな方だが話し方がぎこちない。顔は好みではない。
公爵夫人が断っても良いと言ったけれども・・・
その時、また、犬の鳴き声が聞こえたわ。
「ワン!ワン!ワン!」(鳥!鳥!鳥!)
「ピエール、お待ちなさい。このエリアは大事なお見合いがされていますわ」
「そうなの~、あの発明家で、魔石切磋機械を作ったハンクしゃんで、各家門からひっぱり凧な方なの~」
「お父様も言っていたのです。陛下の関心もあつくてアリーサ様の領地にピッタリだと期待しているのです。王国のモデル領地になるとのことなのです!」
・・・また、幼女の声が聞こえてきた。
「でも、相性があるの~、付き合ってみなければわからないの~」
「フウ、ピエール、やっと捕まえたのです。行くわ。これから良い子のお茶会学習がありますわ」
「「ケーキ!」」
バタバタした幼女の喧噪は遠ざかったわ。
「あの、アリーサ様は何色が好きですか?」
「白ですわ」
「では、嫌いな色は?気をつけますから教えて下さい」
「・・・嫌いな色?」
それは・・・
「真っ黒ですわ。腹の中は真っ黒な『黒』のが嫌いですわ!」
「アリーサ様・・・」
シャクだが婚約を前提として付き合いをすることにしたわ。
この人との子なら腹芸はしない純粋な可愛い子だろうと気がついていたら四六時中考えている私がいた。
最後までお読み頂き有難うございました。




