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悪妻は退場しましたので  作者: 中村くらら


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3/5

3 悪妻、退場します!②

(だってそうでなきゃ、ストーリーがうまく回らないもんね……)


 ヒロインとヒーローとの恋を盛り上げる障害。当て馬。それが『黒狼将軍の最愛花』におけるロザリンドの役割だ。

 それだけではない。

 アドルファスがロザリンドと結婚している以上、二人の関係がどんなに冷え切っていたとしても、ヒロインとの恋は浮気ということになってしまう。

 ヒロインとヒーローが周囲と読者から祝福を受けて結ばれるためには、ヒーローに落ち度のない理由で妻に退場してもらう必要がある。

 そのための悪妻設定というわけだ。


 ……という状況を冷静に把握した私は、一晩考えた末に決意した。

 直ちにアドルファスと離婚し、物語からフェイドアウトすることを。


 確かに私は原作小説のファンであり、ヒーローのアドルファスは推しだ。

 大好きな物語をぶち壊したくはないし、推しにはヒロインと幸せになってほしい。

 だけど、とてもじゃないけど私には当て馬の役割を全うすることはできそうにない。

 前世日本人の記憶と価値観が蘇った今、原作どおりの悪妻ムーブは正直荷が重い。


(……というか、はっきり言って無理! 散財くらいならギリギリなんとかなるかもしれないけど、連日違う愛人を侍らせる⁉ 推しとヒロインちゃんに罵詈雑言⁉ おまけに使用人に火傷を負わせて追い出すって、そんな酷いことできるわけないって!)


 それに、原作を忠実になぞる場合、ロザリンドはいずれ嫉妬のあまりヒロインを殺そうとし、それをアドルファスに阻止され離縁された挙げ句に処刑されてしまうのだ。

 いくら原作ファンとはいえ、推しの幸せのためとはいえ、処刑はさすがに勘弁してほしい。

 となれば、私がアドルファスのためにできる最善は、さっさと離縁して独り身に戻してあげることだろう。


(最大の当て馬が消えることにはなるけど、二人の愛があればまぁなんとかなるでしょ。というか、なんとかしてください!)


 そういうわけで私は大急ぎで準備を整え、アドルファスが仕事で数日間留守にした隙に、離縁届を置いて屋敷を出た。

 夫と父王宛の置き手紙に「夫に飽きたので離縁します。しばらく旅に出るのでどうぞお構いなく」と書いておいたので、私の我儘による離縁として処理されるだろう。

 彼の評判を落とすことはないだろうし、むしろ我儘王女に振り回された不憫な人として同情されるに違いない。


 そうして結婚からわずか五日で離縁した私は、乗り合い馬車を乗り継ぎ、隣国との国境の町ディウドを目指すことにした。

 王宮に戻ることは、はなから考えていなかった。アドルファスから皮肉げに言われるまでもなく、王宮に居場所がないことはわかっている。

 十三人いる王の子ども達の中で唯一、金の髪を受け継いでいない王女。魔法の才も貴族の平均以下で、主に王族に発現する聖魔法ももちろん使えない。

 父王はそんな出来損ないの私に関心を持たず、王の愛妾である母からはむしろ疎まれていた。異母きょうだい達との関係も最悪だった。


 国境の町ディウドに行ったからと言って、何か伝手があるわけではない。

 ただ、王都から遠く離れたかったというのが理由の一つ。


(だって、小説の登場人物達とは下手に関わらない方が良さそうだし……)


 自ら悪女ブームなんてするつもりはないけれど、何がきっかけで悪役ポジションを押し付けられるか分かったものではない。

 悲しいことに、ロザリンドは悪評まみれの嫌われ王女。周囲に信頼できる味方なんて一人もいないのだ。


(処刑だけは絶対に避けたい……!)


 それに、ディウドは辺境に位置するとはいえ、王国でも五本の指に入る栄えた町らしい。そういう大きな町でなら、地縁のない女一人でもどうにかやっていけるのではないだろうか。

 幸いなことに、私には日本人として生きた前世の記憶がある。一通りの家事はできるし、一般庶民として生きていくことに何の抵抗もない。


(堅苦しい貴族の世界よりも、むしろ楽しそうだしね)


 当面の生活費は、嫁入りの際に持っていた宝石類を売り払って手に入れた。

 変に出奔を疑われたりしないように、「一度身に着けたアクセサリーを使い回すなんて嫌よ」と我儘高飛車ムーブをかまして。

 売れる宝飾品は全て売った。ただ一つを除いて。


(これだけは、売れなかったんだよね……)


 シンプルな銀のネックレス。そこに通した指輪に指先で触れる。

 私の左手の薬指に合わせて誂えられた銀の指輪には、アドルファスの瞳を思わせる小さな青い宝石が埋め込まれている。

 結婚式で交わした結婚指輪。これだけは、売るのを躊躇してしまった。


(本当は離縁届けと一緒に置いて出るべきだったんだろうけど……。でもでも、思い出に一つくらい推しのグッズ持っていたいじゃん!?)


 青い宝石を指先で撫でてから、そっと服の中に仕舞う。

 それから気持ちを切り替えるべく、ペチンと両手で頬を叩いて気合いを入れた。

 

(たいしたことないとはいえ火魔法だって使えるし、せっかくファンタジーな世界に転生したんだもん。悪妻はさっさと降板したし、これからは辺境スローライフを楽しまなくちゃね!)


 ワクワクした気持ちで新生活に思いを馳せる。

 けれど、思い描いた辺境スローライフは、まもなく大幅な軌道修正を余儀なくされることになる。


 私の妊娠が発覚したことによって。




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