24 私のために争わないでー(棒読み)
「聖女ロジーには、我々討伐部隊に同行していただきたい。それでよろしいか、フィリップ卿」
「勝手に決めてもらっては困りますよ、デュアー将軍。ロジーにはいつも通り守備隊の救護室で勤務してもらうつもりです」
「その判断は理解に苦しむ。より負傷リスクの高い我々討伐部隊にこそ聖女の力が必要だ。そうではないか?」
アドルファスが鋭い視線を若様に向ける。
「聖女の力が必要なのはこちらも同じですよ。なにより、ロジーは我が守備隊の一員だということをお忘れなく」
若様は口元にこそ人当たりのいい笑みを浮かべているが、目は全然笑っていない。
(ひ~。ほんとやめて! 私のために争わないでー……って、私は昭和の少女漫画のヒロインか⁉)
バチバチと見えない火花を散らす二人に挟まれた私は、しょうもないセルフツッコミを入れながら現実逃避していた。
ロウェルを教会の託児所に送り届けた後、守備隊の詰所にやってきた私は、アドルファスをはじめとした討伐部隊の皆さんの前で、聖魔法を披露して見せた。
元々救護室で治療を受けていた人と、病院に入院していた重傷者については、昨日までに全員治療を終えている。初日はわずか三人に治癒魔法をかけただけでぶっ倒れてしまった私だけど、コツを掴めたのか日に日に治療できる人数が増え、今では二十人くらい治療しても魔力切れを起こさなくなったのだ。
そういうわけで、今日からは後遺症で自宅療養中の隊員に救護室に来てもらい、聖魔法で治療する予定になっている。その治療の様子を、討伐部隊の皆様に見てもらったのだ。
両足に麻痺が残り自力では歩けない人や、片腕が動かない人、全身に痛みが残る人など、魔獣との戦いで重い怪我を負った五人の守備隊員の皆さん。
彼ら一人一人に触れ、聖魔法で治癒していく。
金の炎が燃え上がるビジュアルはやはりインパクトが大きかったらしく、周囲で見守る討伐部隊の皆さんが軽くのけぞるのが視界の端に見えた。
「え、こんな攻撃魔法みたいな見た目で本当に……?」
思わずといった様子で声を漏らしたのはリリアナだ。
その気持ち、とてもよく分かります……。治癒魔法らしくないと、私自身も思っている。原作どおりなら、リリアナの治癒魔法は聖水なんだろうし。
でも、こんな見た目だけどちゃんと治癒の効果はある。両足に麻痺があった人は立ち上がって歩けるようになったし、片腕が動かなかった人は自在に動かせるようになり、その度に討伐部隊の人達が顔を見合わせてざわめいた。
中でもこの日一番大きなどよめきが起きたのは、片腕の肘から先を失った人を治癒した時だった。いつかのロウェルと同じく、強力な毒を受けてやむなく切り落としたのだと聞き、いっそう気合いが入った。
失われた体の一部を復活させるのは、聖魔法と言えども簡単ではない。欠損した部分が大きければ大きいほど魔力もたくさん必要になる。
全力で燃やし……じゃない、聖属性の魔力を注ぎ続けること十分。燃え盛る金の炎を構成していた魔力の粒子が、彼の肘の先に集まり、徐々に形をなしていく。次第にその輪郭が明確になり、ひときわ強い輝きを放つ。目の眩むような強い光が消えた後には、失われていた彼の腕はかつての姿を取り戻していた。
大喜びで泣き笑いしながら感謝の言葉を重ねる彼。
周囲で見守っていた討伐部隊の皆さんからも口々に驚きの声が上がった。言葉にまではしなくとも、本当に聖魔法が使えるのか疑っていた人も多かったんじゃないかと思う。王族以外で聖魔法が使える人は本当に稀だから。平民となればなおさらだ。
でもこれで信じて貰えただろう。麻痺や痛みは目に見えないけど、腕が復活するのは一目瞭然だもんね。
「これが聖魔法……。まさかこれほどとは……」
アドルファスが青の目を瞠った。
リリアナも口元を両手で覆い、桃色の瞳を大きく見開いている。
「ロザ……ロジー、あなたは本当に素晴らしい聖女だ」
「あ、ど、どうも……」
アドルファスから柔らかな微笑みを向けられてドギマギし、つい視線を逸らしてしまう。
彼から褒められるのも、こんなふうに笑いかけられるのも、考えてみたら初めてじゃないだろうか。
(正直嬉しい、かも……)
ニヤけそうになる口元と目元にギュッと力を入れて堪える。
アドルファスがこんな反応をするなんて思っていなかったのだ。聖魔法なんて、リリアナので慣れっこだろうから。それに、将軍という要職についている彼なら、王族が聖魔法を使う場に立ち会う機会もあるだろうし。
ちなみに、王族の皆さんが人前で聖魔法を使うことは滅多にない。私も一応とはいえ家族だけれど、父である国王が式典のパフォーマンスでキラキラした光を降らせるのを見たことがある程度だ。気軽に使うと聖魔法の価値が下がる、とでも考えているのかもしれない。
まぁだからこそ、小説の中のリリアナは、身分にかかわらず傷ついた人々を癒す聖女として、アドルファスや皆に愛されたわけだ。
討伐部隊の皆さんに聖魔法を認めてもらったところで、場所を救護室から会議室に変えて、今後の方針を決める会議が始まった。
会議室に集まったのは十名ほど。守備隊からは隊長である若様と副隊長、救護班長、私。討伐部隊からはアドルファス、副隊長、リリアナ、秘書官のナサニエル、他二名。
若様に言われて会議に出席したものの、つい一週間前に兼業聖女になったばかりの私にコメントできることなど何もない。私は気配を消してもっぱら皆の話を聞くだけだ。
会議は若様とアドルファスの二人を中心に進み、大まかな方針が決まった。
まず、守備隊はこれまでと同様、街道や農地、町の守備を担当する。
一方の討伐部隊は、はじめの二日間は守備隊と合同で街道等を守る。その後は活動範囲を魔の森の方面に広げ、積極的に魔獣を討伐することになった。
元々は守備隊の穴を埋めて町周辺の警護をするために派遣されたそうだけど、私の聖魔法により、負傷離脱した守備隊員のほとんどが復帰できる見込みとなったため、積極的な討伐に方針を変えることになったらしい。
「魔獣の数を減らすことを第一の目的とするが、可能であれば『核』を見付け出して討ち取りたいところだな」
「そうですね。『核』を潰すことができれば大量発生は収束に向かうはずですから」
魔獣は瘴気から生まれ、自らも瘴気を吐き出す。そんな魔獣が大量発生する時には、『核』と呼ばれるひときわ巨大で凶暴な魔獣が生まれるらしい。
魔獣の大量発生によって生まれた瘴気が『核』を生むのか、はたまた『核』の撒き散らす瘴気が魔獣を大量に発生させているのか。詳しいメカニズムは不明とのことだが、とにかく『核』を倒すと魔獣の大量発生は収まるものらしい。
「討伐部隊の派遣期間は一ヵ月を予定しているが、俺とナサニエルはあと八日ほどで王都に戻らねばならない。できればその前に『核』を討伐したいところだ」
(あ……アドルファスはすぐに王都に帰っちゃうんだ……)
討伐部隊は一ヵ月くらいディウドに留まると聞いていたから、アドルファスもそうなのかと勝手に思っていた。
(ちょっと残念かも……って、いやいや! 元夫と一ヵ月も一緒に仕事するなんて気まずすぎるし! 数日で帰ってくれるならむしろ好都合! ……あ、でもそうなると、ローちゃんをパパに会わせるかどうか、急いで決めなきゃいけないのか……)
気配を消しつつそんなことを考えていたら、気づいた時には私の配置を巡ってアドルファスと若様が睨み合っていた。
「ロジー、君の意見は?」
「うぇっ、私ですか!?」
突然若様から話を振られ、うろうろと視線を彷徨わせる。若様はなんだか余裕ありげな表情で、アドルファスは眼光鋭く私に注目している。ものすごい圧を感じて怯みそうになるが、私の答えは決まっていた。




