12 急募! 魔法の先生
「ロジー、オヤコドンとギュードン上がったよ! 四卓さんにお出ししておくれ!」
「はーい!」
「ロジーちゃん、こっち注文頼むわ」
「すぐに伺いまーす!」
今日もリコリス亭は、ランチを食べに来た近所の職人さんや冒険者達で大賑わい。私も、ホールに調理補助にと忙しく動き回っている。
ちなみにロウェルはいつものように、朝から教会の託児所に預かってもらっている。今日は教会の敷地内の畑でお芋掘りをする予定らしく、昨日からとても楽しみにしていた。今頃はきっと、みんなでお芋掘りを楽しんでいる頃だろう。
「お待たせしました、日替わりです!」
カウンター席の定位置にいる、常連客のジェイクさんの前に定食のトレーを置く。
今日の日替わりはチキン南蛮定食。シンプルな唐揚げもいいけれど、甘酢だれとタルタルソースが絡んだチキン南蛮はまた別物の美味しさだ。白ご飯が進むと、リコリス亭のお客さんからも好評である。
そのまま下がろうとしたら、ジェイクさんに呼び止められた。
「おう、ロジーちゃん。この前言ってたロー坊の魔法の先生は見付かったのかい?」
「いえ、残念ながらまだ……」
誰か魔法を教えてくれる人を知らないかと、ジェイクさんに相談したのは、一週間ほど前のことである。
私が魔法の先生を探している理由、それはもちろんロウェルのためである。
先日、初めての魔法レッスンで、炎と氷、二つの属性の魔法を発動させたロウェル。しかも、二歳児とは思えない、とんでもない威力で。
はっきり言って天才だと思う。いやほんと、親バカ抜きで。
二属性持ちというだけでもかなり珍しいのに、魔力も尋常でなく強いのだ。
ロウェルが天才的に可愛いことは知っていたが、魔法まで天才だった。天才すぎる。可愛い。
これは将来優秀な魔法使いになれるぞ~! さっそく特訓だ!
……と、意気込んだところで気がついた。このままでは危険なのでは、ということに。
だって、水を温めようとすれば即沸騰し、冷やそうとすれば今度は一瞬で凍り付くのである。
先日は幸い何事もなかったが、火傷や凍傷を負っても不思議ではない状況だった。
きちんとした備えなしに魔法の練習をすれば、確実に事故が起きる気がする。ロウェル自身が怪我をするかもしれないし、他の人や物を傷つけてしまうかもしれない。
まずは膨大な魔力をコントロールできるように訓練する必要がある。そのためにはちゃんとした魔法使いに師事して、基礎から指導してもらうのが一番だと思うのだが、ショボい魔力しかない上にほぼ我流で魔法を習得した私では、残念ながらロウェルの先生にはなれそうにない。
常連客のジェイクさんは、魔法の心得もあるベテラン冒険者だ。
それで、先週ジェイクさんがリコリス亭に来た時に、ロウェルに魔法を教えてくれる先生のアテがないかと相談してみたのだ。残念ながら、適任者は知らない、という答えだったが。
「そうかぁ。俺も多少は魔法が使えるって言っても、人に教えられるほどじゃねぇからなぁ……。やっぱりバロウの若様に相談するっきゃないんじゃねぇか?」
「ですよねぇ……」
ジェイクさんの言うとおり、相談するならバロウの若様ことフィリップ・バロウが最適だろう。
貴族の家に生まれた子は、通常、幼い頃から家庭教師をつけて魔法の訓練をする。バロウ男爵家なら間違いなく、魔法を教えてくれる家庭教師に伝手があるはずだ。
だけど――。
「あれから一度も若様にお会いする機会がなくて……」
これまで、週に一、二度のペースでリコリス亭を訪れていたのに、ここ半月ほどは一度もご来店がないのだ。店休日の突撃訪問もない。
「あ~。ここんとこ魔獣の動きが活発だからなぁ。若様の守備隊も、毎日街道の警備に出てるみたいだぜ」
「そうなんですね……」
魔獣、それは異形の姿を持つ凶暴な生物である。
人間の何倍もの大きさのもの、鉄をも嚙み砕く歯や猛毒の爪を持つもの、灼熱の炎を吐くものなど、様々な魔獣がいると聞く。
魔獣たちは普段は『魔の森』のような瘴気の濃い場所に棲息しているが、人里に現れて農地を荒らし、人や家畜を襲う。
そのため、王国軍、各領地の守備隊、冒険者などが魔獣の討伐にあたっている。
子どもの頃から魔獣の脅威について聞かされてきたので、魔獣というのは怖いものだということは知っている。とはいえ、いまいちピンと来ていないのが正直なところだ。
王都に魔獣が現れることはまずないし、最も守りの固い王宮はなおさらだ。
ディウドの町に来る途中も幸い魔獣に遭遇することはなかったし、町に住み始めてからは一度も街壁の外に出ていない。
森の辺りの上空を鳥型の魔獣が飛んでいるのを遠目に見たことがある程度で、魔獣を間近に見たこともない。
だから魔獣は怖いと知識としては知っていても、あまりその実感はないのだ。
私がこんなふうに平和ボケしていられるのも、軍や守備隊、冒険者の皆さんが、日々、魔獣を討伐してくれているおかげである。
……ふむ。そう考えたら、守備隊や冒険者の皆さんへの感謝の気持ちを込めて、月に一度くらいサービスデーを設けてもいいかもしれない。エール一杯無料とか、唐揚げ一個増量とか。新顧客開拓にも繋がるかもしれないし……うん、後でダンさんとハンナさんに提案してみることにしよう。
「ま、これだけ魔獣が活発ってことは、今年はハズレ年でほぼ確定だろうな」
チキン南蛮を頬張りながらジェイクさんが言う。
初めて聞く単語に、私は小さく首を傾げた。
「ハズレ年?」




